パニッシング パニッシャー ~法の裁きから逃れた悪人達よ。待っていろ、全員葬ってやる。~

シカタ☆ノン

第一話 過去

 彼の名前は五十嵐新士(イガラシ アラシ)、24歳の航海士である。

 知り合いの船から声がかかると乗船し、しばらく家に帰ってこない日々が続くが、仕事がない期間も長く、そんな時には実家の祖父母の面倒を見て、近所の年寄りの買い物の世話もする好青年である。


 「新士ちゃん、今度うちの出戻り娘に一度会ってくれんかね?」と、お隣の田井中のおばちゃんに声を掛けられるが、「おばちゃん、僕には遠距離の彼女がいるんだよ。」と毎回ウソで誤魔化した。

 彼には彼女を作れない理由があった。

 それは、彼が裏の顔を持つ『パニッシャー』だからである。


 パニッシャーとは、法を無視して犯罪者を葬る者たちの総称で、彼はその業界で『煙(ケムリ)』と呼ばれている。

 その業界で煙という名は有名だが、彼は他のパニッシャーと組むことがないため、その姿を知る者は少ない。


 彼は誰かの依頼を受けて仕事をするわけではなく、自分でターゲットを決めて仕事を実行する。

テレビの残酷なニュースに心を痛めてターゲットを決めることもあれば、たまたま耳に入って放っておけないと判断して決めることもある。


 収入は基本的にターゲットを処分した後、ターゲットが不当にため込んだ金をいただく。

 とは言え、金をため込んだ奴らばかりを狙うわけでもなく、一銭も持っていないような異常犯罪者や快楽殺人犯も処分する。

 ターゲットを決めるのに明確な基準はない。

 ただ一つのルールを除いては。


 そのルールについては、彼がパニッシャーになるまでの話と絡んでいる。


 ☆☆☆


 新士の両親は、市役所で働いていた。

その両親は、新士が小学校の修学旅行に出かけている最中に、家に侵入してきた異常者によって殺害された。


 その異常者は夕食後に宅配業者を装って家に訪れた。

 玄関に出て来た母をスタンガンで襲い、様子を伺いに来た父も同様に襲った。

両親が失神している間に手足を縛り、金品を取るでもなくそのまま居座った異常者は、インターネットでその様子を配信し、視聴者に二択のアンケートを出題した。


 「男の方に水をかける?女の方に水をかける?」

「男の方にボールをぶつける?女の方にボールをぶつける?」


 はじめにインターネットを見ていた人たちは、バラエティーか何かと思ったのか投票に参加する者もいたが、徐々に常軌を逸して行く二択に、「本物??」とか、「やめろ!!」という書き込みが増え、視聴者が通報して警察とテレビ局が家の周りを取り囲んだ頃には、両親ともに血まみれの見るに堪えない姿となっていた。


 警察が犯人との交渉を諦めて家に突入したのは、異常者から「どっちの首を絞める?男?女?」という二択が出題された時だった。

 だが、警察が突入した時には家の中に犯人の姿はなく、首を絞められた両親の死体だけが放置されていた。

 犯人は、インターネット配信をライブと見せかけて観衆の目を集め、実は犯行自体は1日前に行っていたと判明した。


 その残酷なニュースは大きな話題となり、新士の修学旅行先にも警察やテレビ局のレポーターが現れて騒然となった。

 犯人は捕まることなく、3か月以上もテレビやインターネットでは五十嵐家の近所の評判や、犯人との因果関係の噂が連日流れ続けた。


 新士は事件後すぐに、外国から戻った親戚の喜朗(ヨシロウ)おじさんに引き取られた。

喜朗おじさんは、新士を連れてどこかの山奥の掘っ立て小屋に行くと、「町にいるとうるさいから、ここにお父さんとお母さんの立派な墓を立てよう。」と言った。


 石のように固まったまま喋らない新士に、喜朗おじさんは「おっと、その前に俺達が住むこの掘っ立て小屋を何とかしないとな。」と片目を閉じて優しく言った。

 はじめ掘っ立て小屋だったその家は、5か月後にはおよそ3倍の大きさの立派なウッドハウスになった。

 そのほとんどの作業を喜朗おじさん一人でやっていたが、2か月が過ぎたころからは資材運びを新士も嫌々ながら手伝うようになり、3か月が過ぎるころには喜朗おじさんと一緒に屋根に上がって釘の打ち方を教えてもらっていた。

この頃になると新士も少しずつ喋るようになり、時折笑顔らしきものを見せるようになった。


 家が完成すると、二人で山から切り出してきた石で立派な墓を作った。

 墓石の両親の名前は新士が一生懸命彫った。

 墓が完成すると、両親の骨壺を入れて二人で手を合わせた。

 新士は事件後、はじめて泣いた。

 わんわん泣いた。


 1時間以上泣き続けると、喜朗おじさんがマグカップを二つ持ってきて言った。

 「おじさんなぁ、犯人がどうしても許せないんだよ。幸いなことに、犯人はまだ捕まってないし、見つけ出して仇を打とうと思うんだ。」と喜朗おじさんは少し影のある笑顔で言った。

 なんと言っていいのか分からない表情の新士に、喜朗おじさんはこう続けた。

「おじさんが自衛隊を辞めたあと、外国に行ったのは新士も知ってるよな?おじさんはそこで特殊部隊に入って人の探し方や、殺し方を習って、8年間そこで仕事をしてきた。だから、多分犯人を見つけることもできる。新士も仇を打ちたくないか?」と喜朗おじさんは言った。


 「やってくれるの?」と新士が聞くと、「新士は自分の手で仇を打ちたくないのか?」と喜朗おじさんは聞き返した。

 「やりたいけど・・・」と言って、新士は自分の細い両腕を見た。

 「おじさんが教えてやるさ。命に代えても。」と言って、喜朗おじさんはマグカップを一つ新士に手渡すと乾杯した。

マグカップにはお酒が入っていて、少量だったが勢いよく飲み干した新士は、次の日寝込んでしまった。

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