第16話

「すーはー・・・・・・」


 雪野ハナは控え室で精神統一をしていた。

 本当はホノオの応援に行きたいけど自分の試合が控えてるからしょうがない。


 目を閉じて暫くしてガチャリとドアが開く音が聞こえ、薄らと目を開けると何処か晴れない表情のホノオが入ってきた。


「ホノオちゃん!?」

「あっ・・・・・・、ハナちゃん」

「どうしたの? 元気がないみたいだけど・・・・・・?」


 もしかしてとハナに最悪な展開――ホノオが負けたのだと思い駆け寄る。

 ホノオはハナに問いに弱く笑うと降参されたのだと話した。


「降参?」

「うん。フウガくん曰く、自分の落ち度だからって・・・・・・。勝ったは勝ったけど勝った気がしなくてさ」


 ホノオから話を聞いて、完璧主義者のフウガらしいと思いながら、ハナは自身も降参された時を思い出す。

 降参された理由は全員、敵わないと悟り、惨めに負けくないという理由ばかりだった。


『君は化け物だよ』

『少しぐらい手加減してもいいじゃん』

『本当に人間なの?』


 降参していった者は全員、ハナをワザと傷つくような言葉、嫌味を吐いた。

 そして、ハナをそんな言葉を聞いても顔色を変えないのを見て嫌そうな顔をして去る。

 そういう事は幼い頃、兄のマフユが妹であるハナを優先する度にマフユ狙いの少女達から言われてきたから慣れたもので何と言われても心に響かなかった。


――ああ、きっと、自分の心は凍っているのだろう。


 そんな考えが頭に過ぎり、そこでハナの思考は停止してしまった。


「ハナちゃん?」

「あっ、ごめんなさい、ちょっとボーとしちゃって・・・・・・。

 ホノオちゃん、話を聞く限りフウガくんはホノオちゃんと次は本気で戦う為に降参したんだと思う。だから、次の勝負の時にその気持ちを消化すればいいと思う」

「次に・・・・・・?」

「うん、次に。フウガくんもそう言ったんだからそうすれば良いと思うの。少し偉そうなこと言っちゃったかな?」

「ううん、そんな事ないよ。ハナちゃんがそう言ってくれてスッキリしたよ! 次、試合だよね。話しかけてゴメンね」

「大丈夫よ。少しは緊張が取れたから」

「そう? ハナちゃんは優しいね。じゃあ、アタシは行くね。話聞いてくれありがとう! 頑張ってね!」


 入ってきた時とは違い、スッキリした顔で執務室を出て行くホノオを見送るとハナは。


「やさしいか」


 ホノオから言われた言葉を呟いた。



※ホノオ視点。


 観客席に行く前に執務室に居るハナちゃんの様子を見に行ったら、心配されちゃった。

 相当、浮かない顔してたんだな。

 今まで降参をされたことなんてゲームでもなかったし、どう心の中で処理していいか解らなかったけどハナちゃんに少し話したら次に戦う時に消化すれば良いと言われた。

 陣フウガも同じ事を言っていた。

 次こそは絶対に勝つ!!


「ホノオさん」


 意気込んでたら雪野マフユに話しかけられた。

 きっと、ハナちゃんに会いに行くんだな。此処は少しだけ話をして観客席に行くか。


「マフユくん、ハナちゃんに会いに?」

「いや、ホノオさんがコッチに行くのが見えて・・・・・・。ハナに会いに?」

「うん。ちょっと心配になって見に行ったんだ。逆に浮かない顔してたから心配されちゃった」

「・・・・・・そうか(先程は浮かない顔してたけど今はスッキリした顔をしてる。ハナと話でもしたのかな? それならボクの出番はないか)」

「それはそうとマフユくんはハナちゃんに会いに行かなくて良いの?」

「いや、会いに行きたいけど・・・・・・。そんな私服姿の人に会いに来られたら逆に気が散ると言われてね」


 ハナちゃんって兄の雪野マフユに対して辛辣だよねって改めて思った。

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