出航オールド
サウザンアトラスが出航し、アクアドーム基地にはオドマンコマとビア、カーバ所長、そしてマイマイだけが残された。
「マイマイ、手勢が増えたようだ」
「何人ですか」
「2人だ」
「必要最小限といったところですか」
「まあ人数上はそうだな。片方は運転手と交代するらしい」
「……運転手」
マイマイは露骨に不安そうな顔をした。運転手を優秀な人物にしたところで最も危険で無防備な演壇での安全性が担保されるわけではない。
「もう片方は知る人も一握りの超人だ」
「超人……」
「ああ。彼女の本名は私も知らない。コードネームはAKということは各国のそういう世界に知れ渡っているがな」
「AKって……女だったんですね」
「ああ。姿を見せないからまだ性別を知る者は10人といないな」
「……となると私とAKにすべてを賭ける作戦……ですかね」
「完遂を願いたいな。私だって暗殺されるのは御免だ」
「その点については最善を尽くします。出航まではあと2日。洋上で襲撃された場合はどうするんでしょうね」
「その点は心配ない。ここアクアドームは重防備の海中基地、ノーザンクロスは最大瞬間速度60ノットの高速で航行できる汎用艦で、タニンジャザナが誇る主力戦闘艦だ。それがミランダ級フリゲート2隻を伴い、タニンジャザナからの表敬訪問艦隊という体でニューヨークまで直行するんだから大丈夫でなければ困る」
「まあ、確かにそうですね」
「ノーザンクロスの心配より、陸上の心配だが……」
「それは始まってみないと分からない、ですよね」
「そうだ」
「ちなみに周辺の警戒は?」
「SWAT一個大隊が出るらしい」
「アメリカの方が我々に大人数を割けるって一体」
「仕方ない。狙撃される危険があるのは私たちだけではないからな」
「そうか、総会ですもんね」
「うむ」
「不確定要素が多すぎませんかね」
「まあ研究じゃなくて実証だからな。頑張るしかない」
「……」
マイマイとカーバは黙り込んでしまった。
「ともあれ、私は最善を尽くしますよ」
2日後の出港時刻、ノーザンクロスは時間通りにアクアドーム水上基地へ接舷した。若い女がカーバとマイマイをノーザンクロスへ乗せる。
「AKはどこに?」
「彼女ならデッキで本を読んでいますよ」
「そうか」
「冗談です」
「え」
若い女は笑って言った。
「私がAKです」
AKは突然、マイマイに近づいた。
「あなたが元人民制圧軍の猛者……」
「人民……?」
「失礼、人民解放軍でしたね」
「まあ実際人民を制圧してますし人民制圧軍でもいいですよ」
「……祖国は嫌いですか?」
「祖国よりはオドマンコマが好きですね。中華人民共和国はもはや祖国ではありません」
「そうですか。では今回の任務について、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
AKとマイマイは握手を交わした。
「ところでキッチンってありますか?」
「ああ、士官食堂にありますよ。何をされるんですか?」
「べっ甲飴を作ろうと思って」
マイマイは士官食堂への道案内を船員に頼み、廊下を歩いていった。
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