Ⅲ FUTURE

売上レポート

 夜明け前、カーバは所長室で本国から送られてきた売り上げレポートを見て驚いていた。

「ビア、売れ行きが好調すぎるとは思わないか?」

「同感です。これは意図的な買い上げかも知れませんね」

「特に売れ行きがいいのは……ヨーロッパか。名だたる企業が買いまくってるな」

「投資会社も投資してますね」

「何があったんだ……」

「我々の技術にようやく世界が追いついてきたということだったら嬉しいですね」

「含みのある言い方はやめてくれ」

「すみません」

「何かおかしなことでも起きているようだな」

「そうですね……ヒロ研究員のセラミック装置の論文が先週のネイチャーに載りました。しかもそのネイチャーの記事が大きく報道されたのは何かしら関係していそうですね」

「フロント企業の……違う、ハッケンバッカー工業の株価はどうなっているんだろうな」

「ハッケンバッカー工業の株式はネイチャーの発行から買い注文が殺到していて、世界市場では一日あたり平均で20ドルほど値上がりしてます」

「その資料はどこだ?」

「まだプリンターに残ってるんじゃないですかね」

「そのようだな」

 カーバはプリンターから資料を取ると、読み始めた。

「株の上がり幅がやばいな……」

「アメリカの工場ではもう増産体勢の整備が進んでますよ」

「すごいな……エジプトの秘密工場での増産の検討はリアルタイムではどうなってる?」

「まだ検討中ですが、一両日中には認可されると思われます」

「ほう……それはいいな。他の製品も売れてるみたいだが……」

「まず軍用品がものすごい勢いで内定を勝ち取ってますよね」

「そうだな……まずは対戦車ドローン、次に戦闘ドローンだな」

「ええ」

「それから……民生用品だとAI搭載型自動運転キットか」

「なんでも受信機さえ取り付ければ自動運転車にできるキット、まさかここまで売れるとは……」

「予想外だな。生産数はそんなにないはずだが……」

「もしかするとIRISも買っているのかも知れませんね」

「嫌なことを言うなよ」

「しかし可能性はありますからね」

「それが民生品の厄介なところだよな」

「そうですね」

「我々の技術を使ったIRISの無人自爆車輌が突っ込んでこないといいな」

「大丈夫ですよ、ハッキングしてUターンさせてやります」

「たしかにその手はあるな」

「なので大丈夫です」

「なるほどな。ところでビア、今何時だ」

「腕時計はどうしたんです?」

「電池切れっぽかったから充電してるよ」

「そうでしたか。今は午前4時55分です」

「そうか。そろそろマイマイが起きる時間だな」

「そうですね。今日の朝食はなんでしょうね」

「おそらくサンドイッチだろう。レタスがいっぱい取れたからな」

「サラダかもしれませんよ?」

「マイマイは昨日パン焼き器に生地を入れてから寝ると言ってたからな」

「そうですか……私の推論の負けですね」

「小麦粉製造機のメンテナンスは大丈夫か?」

「そういえばメンテナンスは昨日でしたね。多分異常はないでしょうが、一応調べてみましょうか」

「そうだな」

 朝のオドマンコマでは、次々に乗組員たちが起きて食堂に集まっていた。食堂ではサンドイッチが提供される。枚舞はサンドイッチの包みを乗組員たちに一つずつ配りながら、残ったパンをフレンチトーストにすることを考えていた。

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