PROLOGUE

始まりロマン

 オドマンコマ研究所はその圧倒的な技術力を背景にサハラ諸国と同盟を結んだ某国が建造した、動く研究所である。サハラ砂漠を自在に動き周る研究所は某国とサハラ諸国の『技術同盟』によってどの国の軍にも攻撃されず、国境通過も黙認される。その研究所の内部では今日も研究者たちが世界を支える研究をしているのである。

「了解。すぐに所長に伝えますからしばらく待ってください」

 通信士は後ろを振り向くと、白いくせ毛を後ろで束ね、褐色の体に深い青緑色の作業服を纏い、黄色いヘルメットをかぶった若い女の方を見た。彼女の名はカーバ、オドマンコマの所長である。カーバは「なんだ」と言って通信士を見る。

「ヒロ研究員が回収を要請しています」

「わかった。パイロットで手が空いているものはブリッジへ上がってきてくれ」

 カーバがマイクに向かって言うと、数分もしないうちに砂漠迷彩の施された飛行服を着たアジア系の男がはしごを上がってきた。直立し、敬礼する。

「高間大尉、チヌークを出してやってくれ」

「チヌークですか?」

「ああ。ヒロくんはジープに乗ってるはずだからな」

「わかりました」

 高間はそう言うと敬礼をしてはしごを下りていった。しばらくするとオドマンコマの後部がせり上がり、大型ヘリコプターを載せたヘリポートが上がってきた。そして「OC-23、発進します」の声とともに、大型ヘリコプターは飛び立っていった。カーバは金色の時計を見ると、ポケットから携帯内線電話を取りだした。

「フクベ副所長、あと10分で交代の時間だ。そろそろ上がってきてくれ」

「わかりました」

 フクベは副所長であり、マラウイ出身の研究者だ。彼は5分ほどしてからブリッジに上がってきた。彼のあとには幼い少女がついてきている。

「こらカイラ、帰りなさい」

「やだ!」

「なんでだよ」

「お話まだ全部聞いてない!」

「ノートに書いてあるからさあ……」

「カイラ読めない!」

 カーバがフクベに助け船を出す。

「どうしたんだね、フクベ副所長」

「カイラに僕の創作童話を読み聞かせてたんですが、かなり気に入られてしまって……」

「カイラちゃん、ちょっとこっちに来なさい」

「どうして?」

「お姉さんが続きを話してあげるから」

「お父さんが書いたお話なのに?」

「大丈夫よ、字の読み方も教えてあげる」

「タブレットじゃ分からないの」

「大丈夫、ちゃんと教えてあげる。それからタブレットの内容もちょっと変えてみる」

「ありがとう!」

「じゃ、行こっか」

「はあい!」

「ノートはどこにあるの?」

「これ」

 カイラは手に持っていたキャンパスノートをカーバに渡した。

「ありがとう」

「どういたしまして!」

「じゃあフクベ副所長、あとは任せたよ」

「はい」

 カーバはカイラと一緒にはしごを下りていった。

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