第31話
「先生、こいつ腹イタだから別の仕事にしてやって」
美化委員の外周清掃の手伝いを命じた担任に、矢代は私を指差してそう言った。
「もし悪化したらはるに呪われるよ、先生」
元々は自分たちの失態のせいなんだけど、それは棚の上の方へ置いとくことにしたらしく、矢代は堂々と担任を脅した。
担任も担任で、えっと困惑した顔で私を見る。
私はすかさず矢代を指差した。
「それで私だけ特別扱いしたら、矢代に呪われるよ」
担任は私と矢代を見比べて口を尖らせた。
「却下。できるだけ早く体育館前に集合。柏原、体調悪いんだったら無理はするな」
しっしっと手の甲で追いやられて、担任が教室から出て行ったとたんに矢代が「ばーか」と私を見下した。
「お前だけだったら逃げられたのに」
「もうお腹痛くない」
そう言った私を、『バカの極み』と言いたげに憐れんだ視線で眺め、バッグは肩に引っ掛けた矢代が先に歩き出した。
私も矢代に続いて廊下へ出た。
「さっさとやってさっさと帰るべ」
「美化委員って何人いるの?」
「知らん」
「絶対に他にもボランティアいるよね。こういう時に何かの償いさせられるんだよ、絶対」
「俺たち、ちょっとラインしてただけなのにな」
「矢代が笑わせるから」
「お前もだろ」
「コラ! 矢代と柏原、走れ!」
叫ばれて振り返ったら、担任がプンプンして仁王立ちしていた。
私と矢代は顔を見合わせて、走っちゃいけないといつも注意されるはずの廊下を猛ダッシュした。
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