第29話



『ば』


『あ』


『|』


『|』


『|』


『|』


『か』


『!』



縦って。


なんでちょっと凝った返信してくんの!



それだけで吹き出しそうになって、とっさに笑うのを堪えたら、クックッと自分のとは思えないような奇妙な音が漏れた。


猫背になってスマホを隠しながら、返信しないという選択はできなかった。



一時停止、なんて言葉も頭の中からきれいさっぱり消えていた。



消えていたのに私の心は落ち着いている。



ドキドキもハラハラもせずに、相手が矢代だからじゃなくて、おもしろいからという理由でスマホを握った。



「矢代とお揃いでうれしいな」



そうやってハートマークいっぱいのスタンプ送ってやったら、矢代の肩が揺れている。



さっき赤かった耳は元通り。



すぐさま私のスマホが震える。




『俺じゃなくて玉っちとお揃いだろ、お前は』


「ムリ!」


『無理とか言うな。あれでも毎日がんばってるんだぞ』


「その言い方、なんか切ない。玉っちが可哀想になってきた」


『昼にジュースでも奢ってやれ』


「常温のココナッツミルクとか?」


『カビてんだろ』


「炭酸が抜け切ったサイダー」


『最低だな』


「おしるこ?」


『玉っちのことなんだと思ってんだよ』


「アホすぎて癒し系」


『正解』


がまんできずにブッと思わず吹き出した。


大丈夫、大丈夫。



たぶん、意外にも今は上手に一時停止できてる。






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