第27話


サキちゃんはたまにそういう話を持ってくる。



顔が広くて、交友関係が広すぎて、サキちゃんの友達の名前をいまだに正確に覚えきれない。



私はちょっと警戒して聞き返した。



「え、何?」


「実はさ、一緒にライブ行こうって誘われて、友達連れてきてって言われてんの。高崎先輩、知ってるでしょ? バンドやっててさ、友達のライブ一緒に行かないって——ハルなら誰でも合わせられるし、ノリ良いし。門限もゆるかったよね?」



頬を赤らめるサキちゃんと違って、私はちょっと焦って身を縮める思いだった。



サキちゃんの気持ちはよーくわかるけど、私は今それどころじゃない。


なんたって一時停止中だし。



顔の前で手を合わせ、「ごめん」と謝った。



「私、無理かも」


そして小声で、サキちゃんに付け加えて言う。


「昨日から、お腹痛くて」


「——ああ」



こういう点では女子は察しがいい。


サキちゃんは頷いて、そういうことねと申し訳なさそうに苦笑いした。



「ハルって毎回けっこう重いもんね。了解。また今度。そっかー、ライブだったらハルと行った方が楽しそうだったから残念」


「カノコは?」


「あー、カノコ? 誘ってみよっかな。一緒に来てよ、ハル」


「うん、いいよ」



そう言ってちらりと見たけど、矢代は一度もこちらを見なかった。



今日はプリントを回す時に一回、目が合っただけ。






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