第6話
「はる」
矢代に呼ばれて、バカみたいに敏感に背筋を伸ばしてしまうのは仕方がないんだと思う。
昨日の今日だ。
私は被害者じゃないけれど、被害者の友人代表としてお悔やみのカラオケに参加している。
いつも通り。
いつも通りに、いつも通り。
いつも通りってどうするんだっけ——ああ、耳がキンキンする。
私は目を瞑って荒れる心の中を読み取られないように、穏やかな、なんでもない静かな歌を急いで見繕って頭の中で歌った。
ありふれたすぐに暗唱できそうな歌詞。
それでいい。
ただ、心の棘を削ぎ落とすのに必要だった。
激しかったカノコの絶叫は厳重に厚い扉で封印する。
気がつかれないように深呼吸して、それで顔を上げた。
「お前さ、寝てた? なんで日誌書き終わってないんだよ」
私は日誌にシャーペンで点々を書きながらブスくれる。
「記憶喪失。もー、私だって疲れてる時あるんだから」
「なにグレてんだよ」
「私だってギレる時あるもん」
「噛んでるし」
「……もう、ムカつく」
「は? 逆ギレ? 八つ当たり? 藤井がマック行こうって言ってるけど、お前も行く? なんか岡山桃香ってやつに誘われたんだって。俺知らねーし、なんか気まずいからお前も来い」
日誌に点々を書いていたシャーペンを止めた。
それで、矢代を見る。
知ってる。
岡山桃香は藤井狙いじゃなくて矢代狙いだ。
ちょっと胸が大きいぞって有名な後輩だけど、純粋に矢代に憧れてるって知ってる。
知ってるけど。
私にそれに付き合う余裕も優しさも忍耐強さない、微塵も。
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