ゲームその3 『お菓子の家を作ろう』第3話

 ワオンは立ち上がって、うしろの棚から大きな箱を持ってきました。テーブルの中央で箱を開けると、みんな思わず「わぁ」と歓声を上げたのです。中にはパズルのピースのようなものがたくさん、そしてカードの束、手のひらサイズの茶色いボードが入っていました。パズルのピースらしきものも、カードも、数えきれないくらいたくさん入っています。


「これ、パズルなんですか?」


 最初に質問したのはハンスでした。ワオンは軽く首を横にふりました。


「うーん、惜しいかなぁ。これはね、パズルのようなゲームなのさ。ちなみにこのゲーム、人数は最大四人まで遊べるようになっているんだけど、一人でも遊べるんだよ」

「えっ、一人で? でも、ゲームって、相手がいないとできないんじゃないの?」


 今度はブランが目をぱちくりさせて聞きます。ワオンはまたしても首を横にふりました。


「このゲームは違うのさ。だってこのゲームは、その題名通り、お菓子の家を作ることが目的だからだよ。だから一人でも、自分の好きなお菓子の家を作ったりできるんだよ。もちろん今日みたいに、四人でワイワイするのも楽しいよ。さ、それじゃあそろそろルールについて説明しよう」


 ワオンは四人に、手のひらに乗るくらいの大きさのボードを配りました。ボードには溝がいくつも掘られています。と、そのボードをじぃっと観察していたグレーテが、「あっ」と声をあげたのです。


「これ、チョコレートでしょ!」

「正解。そう、これはみんなが作る、お菓子の家の土台なんだ。もちろん本物のチョコレートじゃないけど、板チョコみたいでおいしそうでしょ? みんなはこれから、このボード、というか土台に、パズルのピースを差しこんでいって、好きな家を作っていくのさ」


 ワオンはそういって、箱の中に入っていた無数のパズルのピースを一つ、指でつまんで取り出しました。もちろん爪は引っこめて、傷つけないようにしています。


「例えばこのピースだけど、お菓子の絵が描かれているでしょう?」

「ホントだ、これは……ビスケットだ!」


 グレーテが歓声をあげます。ワオンはにこっとして、ピースをグレーテに渡しました。


「そうだよ、正解だ。そしてほら、これを見てごらん」


 今度はカードの束の中から、グレーテに渡したピースと同じ絵柄のものを見せたのです。ビスケットが三枚描かれたそのカードには、『ビスケット・3枚』と書かれています。


「ワオンさん、これは?」

「このゲームはね、みんなで順番にこのカードを引いていくんだけど、カードにはこんな感じで、どのお菓子を何枚使うかが描かれているんだ。このカードなら、ビスケットを3枚使うってことだよ。ちなみにほら、こんな感じでちょっと小さなビスケットのピースもあるんだよ」


 ワオンがパズルのピースから、先ほどよりも小さなものを渡しました。


「こっちはお菓子の家の中、家具を作ったりするためのピースだね。このゲームには、家の壁や屋根を作るピースと、家具を作るピースがあるんだ。それで、みんなはどっちのピースを使うか選ぶことができるよ」

「家具を作ったりもできるのね」


 なるほどとうなずくルージュに、ワオンは楽しそうに笑みを浮かべます。


「そうだよ。ちなみにどのお菓子を使うか、そして家具や家の大きさで得点が決まるんだけど、今回は初めてだし、得点はあんまり気にしないでいいよ。ただ、ルールとして、家具は必ず2つ、そして家の壁はピース3枚分の高さを持っていないといけないから、そこだけ気をつけてね」

「でもこの土台、けっこう小さいですけど、中に家具を作るのは難しくないですか?」


 ハンスに聞かれて、ワオンはうなずき、箱の中からピンセットを取り出しました。


「そうさ。だから家具のピースをはめこむときは、このピンセットを使ってするといいよ。あと、ピースを外すときも同じようにピンセットを使うといいよ。ピースにちょっと取っ手がついているだろう? それを引っぱれば外れるからさ」


 ワオンの言葉に、ルージュがまゆをひそめました。


「ピースを外すって、そんなことがあるの?」

「そうさ。実はこのゲームの一番面白いところが、そこなんだよ」


 そういって、ワオンは先ほどのカードの束から、別の絵柄をみんなに見せたのです。そこにはかわいらしい子ネコが、キャンディを口に1つ加えています。さらにしっぽにも、キャンディを1つ巻きつけていたのです。


「こいつはね、『ぬすっと動物』っていうカードだよ。ぬすっと動物はけっこうやっかいなやつらでね。たとえばこのカードだったら、キャンディを2つ盗まれちゃったってことになるんだ」

「あっ、わかった! じゃあそのぬすっと動物のカードを引いたら、キャンディ二つをお菓子の家から取っちゃうのね?」


 グレーテが手をあげて答えます。ワオンはおかしそうにふふっと笑ってうなずきました。


「そう、正解だよ。だからこのぬすっと動物のカードを引いたらさぁ大変。せっかく作った家の壁や屋根、家具とかから、キャンディだったらキャンディを、チョコレートだったらチョコレートを、そーっと、崩れないようにピンセットでピースを抜き取らないといけないのさ」

「くずれちゃったら、どうなるの?」


 恐る恐るブランが質問します。ワオンはとびっきりの怖い顔でにたっと笑いました。


「そしたら、くずれちゃったピースも全部ぬすっと動物に盗まれちゃうのさ。だからまた作り直しになっちゃう。ぬすっと動物のカードを引いたら、慎重にピースを外すようにね」

「でも、もしぬすっと動物の絵に描かれたお菓子が、家の材料に使われてなかったらどうするの?」


 今度はルージュの質問です。ワオンはまたしてもうれしそうな顔で答えました。


「いい質問だね。その場合は、好きなお菓子を外していいよ。ちなみにさっきのカードは、キャンディ2つ盗まれちゃうことになるけど、もし自分のお菓子の家に、キャンディが1つしか使われていなかったら、キャンディ1つと、あと他の好きなお菓子を1つ外すことになるよ」


 ワオンの説明に、ルージュは納得したようにほほえみ、レモンティーを一口飲みました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る