ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第6話

「しかしまぁ、ワオン、お前カード貯めすぎじゃないか?」


 あきれたようにマーイがいいます。ゲームは進んで、ワオンの番になっていましたが、ワオンは持ちきれないくらいにカードをたくさん持っていたのです。


「今何枚あるんだ?」

「えーっと、1、2、3……10枚あるみたいだよ。あ、違うか。おいらの番だから、カードを引いて……これで11枚だ」


 カードを引いたあと、ワオンはもう一度枚数を数えていきます。その様子を、マーイはひげをいじりながら見ています。


「あ、いい忘れてたけど、このゲーム手札は10枚までしか持てないぜ。10枚より多く持ってたら、10枚になるようにカードを選んで場に捨てないといけないんだよ」

「ええっ? そんなぁ、早くいってよ」


 がっくりするワオンでしたが、マーイはすまし顔で首をふります。


「だってよ、そんなにたくさんカード貯めるなんて普通しないと思ってたから、別にいわなくてもいいかなって思ってさ」


 そういうマーイの手札は、3枚しかありませんでした。ブランがちゃかすように口をはさみます。


「マーイはさっきから、オオカミさんカードを捨ててばっかりだったからな。いったい何枚オオカミさんカードを引いてるんだよ」

「ちぇっ、うるさいなあ。だってさっきシャッフルしたあと引いたカードも、全部またオオカミさんカードだったんだから、しかたないだろ。またおばあちゃんカードか、ワインとパンカード、猟師さんカードを引かないかなぁと思ってたのに、引くのはどれもオオカミさんカードばっかり。まったく、いやになるぜ」


 はーぁとため息をつくマーイを、ルージュが面白そうに見ています。


「そういうブランはけっこう順調ね。手札は6枚だけど、二回連続で猟師さんカード使って、オオカミさんカードを捨ててたし、ずいぶんお花カードもそろってきたんじゃないの?」


 探るように問いかけるルージュですが、ブランはカードを隠すようにしっかり持って逆に聞き返します。


「そういうルージュだって、手札は5枚だけど、さっきからオオカミさんカードを連続で捨ててるじゃないか。多分だけど、うまいこと手札の整理をして、そろそろあがりの一歩手前くらいになってるんじゃないのか?」

「あら、なんのことかしら? わたし知らないわ」


 ふふんと余裕そうに小首をかしげるルージュは、まさにポーカーフェイスそのもので、本当に手札がいいのか、それともまだまだオオカミさんカードが手札にあるのか、どうにも判断がつきません。どうにかして様子をうかがおうと、ブランはルージュをじろじろ見ていきます。と、それまでずっと悩んでいたワオンが、「よし」と一人でうなずいたのです。三人は驚いてワオンに向きなおりました。


「ちょっと待ってね、カードを使う前に、みんな飲み物のおかわりは良かったかな?」


 ワオンに聞かれて、マーイはまん丸い目をぱちくりさせながら首を横にふります。


「いや、おれはいいけど、なんだなんだ? いったいなんのカードを使うつもりだ? それともあれか、どのカードを捨てるか決めたのか?」

「いいや、カードは捨てないよ。おいらはこのカードを使おうと思ってさ。マーイ、シャッフル頼むよ」


 そういってワオンが場に出したのは、またしてもおばあちゃんカードだったのです。ルージュとブランが同時に「ああっ!」と悲鳴をあげます。


「そんなぁ、あとオオカミさんカード1枚捨てたら、わたしの勝ちだったのに!」

「やっぱりルージュも手札よかったんだな! ぼくもあと1枚お花カード引いてたら勝ちだったのに! しかも猟師さんカードも2枚持ってたから、オオカミさんカード引いてもいたくもかゆくもなかったのに!」


 くやしがる二人を見て、マーイはにゃししとほくそ笑みます。


「なんだなんだ、二人ともやっぱり手札よかったんだな。逆におれは助かったぜ。まだまだオオカミさんカードがたくさん残ってて、困ってたんだよ」


 マーイがほくほくした顔で、場に自分の手札をさらしました。またしても3枚全部オオカミさんカードです。ルージュがあきれ顔でマーイを見ます。


「マーイちゃんったら、またオオカミさんカードばっかりじゃないの」

「しかたないだろ。なんでか知らないけど、おれが引くのは全部オオカミさんカードなんだから。まったく、おれはネコだっていうのに、どうしてこうもオオカミさんカードばっかりになってるんだよ」


 ため息をつくマーイを見て、ルージュとブラウは思わず吹き出してしまいました。ワオンもおかしそうに笑っていましたが、やがて自分の手札10枚を見せて、カップに残っていたコーヒーを飲み干しました。


「ルージュちゃんとブラン君は、飲み物のおかわりはいらないかい?」

「あ、それじゃあわたしは、ブランと同じ紅茶をいただこうかしら。ブランはどうする?」


 ルージュに聞かれて、ブランもカップに残っていた紅茶を飲み干し、それから少し考えこみます。


「そうだなぁ……。ぼくはミルクティーがいいなぁ。ミルクとお砂糖多めでお願いします」

「ミルクとお砂糖多めだね、わかったよ。それじゃあ用意するから、それまでにシャッフルお願いね」


 空になったカップをおぼんにのせて、ワオンがカウンターの奥へいそいそと入っていきます。その間にマーイが肉球をぷにぷにさせて、せっせとカードをシャッフルしていきます。ルージュとブランはクッキーを食べながら、次はどんな作戦で行こうか考えています。そしてしばらくしてから、ワオンが温かな飲み物を持って戻ってきました。


「よし、こっちもシャッフル終わったし、それじゃあ配っていくぞ。今度こそオオカミさんカード以外のカードがきてくれよ」


 頼みこむようにカードを拝むマーイを見て、ワオンたちは思わず笑ってしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る