「ステータスオープン!」←これ異世界人笑うらしいな

水無土豆

プロローグ


「――は?」

「はあ!?」


 いきなり外人のお姉さんにキレられた。

 ……いや、そうじゃない。なんだこれ。


 俺はいま、事務椅子ぽい簡素な椅子に座らされている。

 そして、そんな俺の目の前には、なぜか機嫌の悪そうな金髪長髪の外人さん。

 ベンチに下がっているメジャーリーガー並に、くっちゃくっちゃとガムを噛みながら、ふんぞり返って俺の事を睨みつけている。

 眉間とかにもめっちゃ皺が出来とる。

 服装は古代ギリシャとかの哲学者あたりが着てそうな、白いベール。名前は知らん。

 なんか色々と際どいし見えそうだけど、びっくりするくらい興奮しない。

 というか、この状況にそこまで脳が追いついてきてないんだと思う。

 この人はこの人で、ものすごい美人だし、なんか後光も射してるんだけど――


「……後光?」

「ああン?」

「ごえんあさい……」


 スゴまれた俺は情けない声で謝ってしまう。

 でも、なんでピカピカ光ってんだこの人?


「うーん……」


 ――ああ、ダメだ。

 前後のことが何も思い出せん。

 というか、なんだここ?

 俺は改めて自分が今居る空間を見回した。


「宇宙……?」


 それが俺の最初の感想。

 地面とかもないし。

 でも、浮いてる感じもしない。地面はないけど、地に足はついてる。

 見えない床の上にいる……と表現するのが一番近いかも。

 それに、なにより宇宙っぽいと感じたものは、この空間そのものだ。

 上、下、左、右。

 星っぽいキラキラしたものが遠くのほうに無数にあり、明滅を繰り返している。

 ため息が漏れるほどの光景って、こういうことを言うんだろうな。


 ……いや、うっとりしている場合じゃない。

 やるべきこと。

 それはわきまえている。


「……は、はうわーゆ?」


 挨拶である。

 健やかな人間関係は、爽やかな挨拶から。

 しかし、道を聞かれるならまだしも、自発的に外人さんに声をかけるのは初。

 俺はこの状況を飲み込めないまま、ぎこちない(であろう)笑みを浮かべた。


「アイアム・ファッキン・ファイン」

「わ、わーお……」


 なんか、ものすごいカタカナ英語が返って来た。

 いや、流暢過ぎて聞き取れなかったのか、それとも俺の本能が理解することを拒んだのか。

 とにかく、彼女の俺に対する悪意だけは伝わってきた。

 ……と、ダメだダメだ。これくらいのことで泣いてはいけない。

 グシグシ。

 俺は眠たそうなフリをして、じんわりと染み出してきた涙を拭う。

 ……とにかく、現状を把握しなくては。

 えーっと、たしか英語で、『ここはどこですか』って――


「あー……うぇあ、あー、うぃ?」

地獄ヘルルルィィルルゥゥゥ……!」

「お、おーまいがっ」


 めっちゃ巻き舌で言われた。

 俺もなぜか、オーバーリアクションぽく両手を挙げちゃってけど、なんだこれ。

 というか――


「え?」


 なに? 地獄なの? ここ?

 めっちゃキラキラしてっけど。

 めっちゃ星、瞬いてっけど。

 地獄……なんだ。

 ていうか俺、死んだのか? なんで?


「――小川大輔おがわだいすけ

「あ、はい! ……え? 日本語? てか、俺の名前……」

「茶番は止めだ。今から貴様の審判・・を執り行う」

「え、めっちゃ日本語上手い。びっくり。……って、審判? レフェリー?」

「違う。審判ジャッジメントだ。貴様の罪をここに告白しろ」

「罪? あ、たしかに、なんか地獄っぽい――」


 ぎろり。

 そこら辺の野良犬なんて、ひと睨みで焼き殺せそうなほどの眼光を飛ばしてくる。

 冗談を言っている雰囲気ではないようだ。

 でも、いきなり罪を告白しろって言われても、よくわからんしな……。


「えーっと……、信号が赤なのに、急いでいるという理由で渡ってしまいました。ごめんなさい」

「……おい、舐めているのか、貴様は」

「な、舐め? なんで?」

「そんなものを罪とは呼ばぬ」

「いや、でも道交法で……」

「シットアップ!」

「え?」

「シットアップである!」

「それ、もしかしてシャラップじゃ……」

「ぎろり!!」

「そ、それ、声に出して言うんですね……」

「詐欺、恐喝、強盗、殺人、放火、強姦……まさに犯罪のオンパレードじゃないか。もしかしてトロコンでも目指しているのか? 貴様は」

「いや、トロコンって……え? もしかして、それ全部俺のやったことなんですか?」

「ああ、ここに記載されていることはすべて真実だ」


 ぱしぱし。

 女性は、いつの間にか取り出していた紙の束を指ではじいてみせた。

 ……いやいや、ていうか、やべえだろ。俺。

 何てことしてんだ。

 信号無視なんてもんじゃない、超弩級の犯罪者じゃねえか、俺。

 未だに実感も、記憶もないけど、やっぱり俺の死因もそういうのが関係しているのだろうか……。

 そりゃ地獄にも落とされるわ。


「どうだ。認めるか、尾形大司おがただいし

「……あの、俺の名前、小川大輔なんですけど」

「え?」


 女性は手元の紙と俺を交互に見ると、それをバサァッと後ろへ放り捨てた。


「い、いまのはナシだ。ノーカン、ノーカン……」

「あの、いいんですか? 紙、盛大に舞っちゃってますけど」

「う、うるさい! 黙れ! 死ね!」

「えぇ……」


 女性は頬を赤らめながら、忌々しそうに俺を睨みつけてきた。

 いや、俺もう死んでるんじゃないのかよ……なんて思っていると――

 すっすっす。

 女性がなんか、指で何もない空間をなぞりだした。

 動きがスマホを操作してる時の指っぽいけど、何かを操作しているのか……?

 しかし何も見えない。

 何をしているんだろう?


「……えっと、名前……おい、何て名前だ、貴様!」

「いや、小川大輔ですけど、さっきご自身でも言ってましたよ――」

「おがわ。おがわ……お……お……だ……だ……あっ、こ、これか……?」


 よくわからんが、五十音順なのか?

 なんて思っていると――

 ふぁさっ。

 また、どこからともなく、女性の手元に紙の束が現れた。


「こほん。改めて審判を行う」

「は、はあ……」


 最初の緊張感はどこへやら。

 完全にグダついている。


「まず初めに貴様の死因だ」


 死因。

 未だに自分が死んだって実感も何も湧いてこないけど、その言葉を聞くとやっぱりこう……心臓がきゅっと締め付けられる感覚になる。

 あぁ、死んだんだなって。

 実感はないけど、じわじわとるものがある。


「ふむ。どうやら貴様の死因は……交通事故だったようだな」

「交通事故……ですか?」

「覚えていないのか?」

「全然……」

「……まぁ無理もないか。衝撃で頭をやられているのかもしれないからな。ちなみに、貴様を轢いたのは黒塗りセダンだ」

「何その情報」

「必要だろう?」

「なにに?」

「思い出すのに決まっておろう」

「うーん……というか、黒塗りの高級車って、そこはかとなく危ない香りが……」

「とある事情で車名は明かせないが、Sクラスだったらしい」

「それ、ほぼ車名を言ってるような気がするんですが……」


 しかし、改めてそう具体的に言われることによって、何か頭にぼんやりと浮かんでくる気が──


「あ……そうだ!」

「む?」

「そうかも……いや、そうだ。たしかに、俺は轢かれました。あの外車に……!」

「ふむふむ。記憶を呼び戻す引鉄トリガーはやはり死因だったか……」

「思い出してきたぞ……!」

「よし、そうだ。そのまま、ゆっくりと吐き出せ」

「お、俺は……!」

「そう、おまえは暴力団の構成員で……」

「俺は暴力団の構成員で……」

「敵対している組の幹部を何人も日本刀で斬り倒し……」

「何人も日本刀で斬り倒し……」

「最終的に報復に遭った。その名を──」

「俺の名は――」

緒川大樹おがわだいき

「いや、だから俺、小川大輔なんですけど」

「え?」


 女性は手元の紙と俺を交互に見ると、それをバサァッと後ろへ放り捨てた。

 なにこれ? デジャヴ?

 この人、もしかして見た目と反して、中身ポンコツ?

 というか、なんで俺も俺で、身に起こってもいないことを追体験してんだ。

 こわ。催眠こわ。


「お、おが……わだ……い……だ、だいす……けけけ……」


 そしてまた、学生時代、女子と話す時の俺みたいな口調になるし。


「あっ、今度こそこれだ。小川大輔。二十六歳。社畜。童貞」

「いや、ファイリングの内容!」

「……なに? もしかして、これも違うのか?」

「ど、同一人物です……けど、その内容はあんまりでは?」

「ふむふむ……」


 俺のツッコミなど意に介さず、女性は熱心に、俺の情報が書かれているであろう紙を読む。

 そして――


「いや、なんかすまん」

「へ?」


 急に謝られた。


「すまんな、なんか」

「いやいや、何を突然……」

「どうやら手違いがあったようだ」

「手違い……?」

「そうだ。本来なら、ここへはさきほど言ったトロコン野郎が来る予定だったのだ」

「いや、だからトロコン野郎って……言い方が……」

「が……、貴様はなぜか、そいつに代わって死んだらしい」

「え──」


 その瞬間、脳内に死の直前の光景がフラッシュバックする。

 そう。

 俺はいつもどおり、朝。

 会社へ向かう途中、駅のホームで電車を待っていたんだ。

 しかしそこへ酒に酔った男が現れて、ホームに落ちそうになったのを支えようとしたら──


「ああッ!?」


 ガタン!

 脳天を思い切り殴られたような衝撃を受け、その場で立ち上がってしまう。


「どうやら、今度は本当に思い出したようだな」

「ええ……! 思い出しましたよ……! ていうか、あのおっさん、そんなトロコン野郎だったなんて……! くっそー! 思い出したら、腹立ってきた! というか、普通に公共交通機関利用してんじゃねえよ!!」


 すごく微妙なツッコミが、俺の口から吐き捨てられる。


「まあ、そんな極悪人を助けた貴様も、立派な極悪人なわけだが……」

「そ、それは……知らなかったわけで……」

「冗談だ」


 そう言って、フッと笑う女性。

 ……気のせいだろうか。

 さっきまでと比べて、女性の態度が柔らかくなっている。


「多少、気の毒には思うが、結果を変えることは我々には出来ない」

「そう……ですか……」

「――だが、容赦は出来る」

「容赦?」

「そうだ。……突然だが、〝異世界転生〟というのを聞いたことはないか?」

「え?」


 あまりに突飛な単語の出現に、理解が追い付かない。


「ないのか? 聞いたこと?」

「い、いえ、あります! たしか、記憶を持ったまま、違う世界に行けるってやつですよね!」

「そう。輪廻転生とはまた違い、別の世界に同じ人間として生を受けるというものだ」

「けど、それが何か……」

「貴様にはその手当を受ける資格がある」

「て、手当……ですか」


 なんかいやに現実的だな。


「そうだ。貴様も見たことはあるだろう? 子どもなのに大人顔負けの演技をやってみせたり、子どもなのに一流の漫画雑誌で漫画を描いていたり、子どもなのに成功した投資家だったり……」

「なんかすごく具体的な例だけど……あれってもしかして全員……?」

「そうだ。……いや、例外もいるが、基本的には全員、の世界で徳を積み、転生を果たした者たちだ」

「そ、そう……だったんですね……って、徳?」


〝徳〟という言葉に、俺の中で何かが引っかかる。


「俺、結果として極悪人を助けちゃったんですけど、徳なんですか? むしろその逆のような気が……」

「善悪関係なしに、自身の命を顧みず人を助ける。これを徳と言わずしてなんとする」

「おお……! なんかしらんけど、いい気分になってきました……!」

「ちょろいな貴様。……まぁ、本当は貴様が可哀想なヤツだから、という理由も多少はある」

「ちょっと!?」

「無論、このまま輪廻の環に加わることも可能だが、こんな機会は滅多にない……」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、今日はまだ一件もないな」

「なんか、けっこう頻繁にありそうですけど……」

「それで……どうだ? 興味はないか?」

「ありますよ、あります。だって輪廻転生って、何もかも忘れて別人になってるんですよね?」

「まぁ……その認識で相違ない」

「なら、このまま、記憶を保持したままお願いしたいです」

「ああ、了解した」

「第一、そこまであの世界に未練があるわけでもないですし。いままであんまりいい事とかもありませんでしたし」

「……ふむ。私が言うのもなんだが、貴様、言ってて悲しくならんのか?」

「なりますけど?」

「あっ」


 しまった。という表情でぽかんと口を空ける女性。


「でも、それを聞くほうもどうかと思いますが?」


 そこまで言って、俺の目頭が急に熱くなる。

 じわぁっと視界がにじむ。

 涙声になる。


「なんかすまん」

「ぐすっ……いいんです。慣れっこですから」

「慣れる必要はないと思うが……では、そのようにしてやろう」

「……ありがとう……ございます……」

「あと、色々と調整するから……」

「調整……?」

「そうだ。なにか要望はあるか?」


 女性はまた、その指で虚空をなぞり始めた。

 相変わらず、俺には何をやっているかは見えない。


「要望……要望ですか……」

「そうだ。転生先でこうしたいああしたい……といった要望だ」

「ああ、そういう……」

「フワッとしたものでも、ある程度までなら勝手に実現できるぞ」

「勝手にするんですね……」


 それにしても、いきなり聞かれても困るな。

 とはいえ、こういうときの為にいろいろと妄想を膨らませていたはず……なんだけど、いざそういう場面になると、思うように頭が働かない。

 要望らしい要望が出てこない。


「……うーん、というか、異世界転生って言えば、あれでしょう? ステータスオープンとかやるんでしょ?」

「……ん? ああ、そういうのがやりたいのか?」


 軽いな。反応。まあ、いまさらか。


「ええ、なんというかやっぱり、そういうのが出来て、はじめて異世界に来たって実感が湧きますし」

「そのようなものか……」


 ちょいちょい。

 止まっていた女性の指先が動く。


「あとは……最初から最強で無双するってのもいいですけど、じわじわ、徐々に強くなっていくのも王道ぽくていいですよね!」

「ふむふむ」


 お、ノッてきたか? 俺?


「……あとは、綺麗な女の子たちに囲まれてハーレムってのもテッパンっすよね! もちろん、いろいろな女の子がいたりして……それぞれが俺の事を好きでいてくれたりとか……!」

「なるほど、ステータスオープン。じわじわ最強。女の子ハーレムっと……」


 うわ。

 自分で言うのもあれだけど、口に出されると、けっこう恥ずかしいなこれ。

 ていうか、ステータスオープンってなんだよ。


「……他には?」

「え? ……うーん、まぁ、だいたいこの辺で」

「これでいいのか?」

「最強でハーレムがあれば、あとはどうとでもなりますし」

「そうか……」


 女性はすすすと、軽快に指を動かしていき、最後にはスマホの画面をスワイプさせるようにすいっと上げた。


「……あれ、もう完了したんですか?」

「そうだ。今から転送を開始する」

「はっや!?」


 余韻も何もあったもんじゃねえ!


「まあな。こうみえて私、仕事がデキル女神だし」

「あ、女神様……だったんですか……」

「ふふん」


 べつに褒めてもないのに胸を張る女神様。


「……でも、そっか、これから俺の異世界ライフが始まるのかぁ……」

「まあいちおう、記憶の類は持ち越せるはずだが……」

「だが?」

「持ち越せなかったらすまん」

「え? いやいや、そんな……ご冗談を」

「冗談ならいいんだがな」

「だ、だって、それじゃあ異世界転生の意味ないじゃないですか」

「……すまん」

「……ちょっと!? 念を押されても……え? マジで? 記憶なくすの? 俺?」

「いや、あくまでその可能性があるかもねぇ! ……というだけの話だ」

「な、なんだ。最初にそれ言ってくださいよ。ビックリするじゃないですか」

「すまん」


 いや、だからその唐突な謝罪が怖いというか……。


「……あの、ちなみにその……確率、とかは?」

「半々だ」

「半々って……五割!? それ、やばくないですか?」

「やばいかな?」

「やばいですよ!」

「やばいのかあ……」

「やばいですってば!!」

「マジ?」


 なんだこいつ。


「わかりやすくいうと……、実際そんな打者がいたら無双しちゃいますから!」

「打者?」

「野球で例えるなら、二打席中一回ヒットはさすがにチート過ぎるでしょう?」

「……ああ、それと、向こうの世界はこの世界とあまり変わらないぞ」


 いや、たしかにいまの例えは言ってて面白くなかったけどさ。

 容赦なしにさらっと話題を変えてくるな、この女神。


「――って、あれ、そうなんですか? てっきり異世界っていうから、もっとファンタジーな感じかと……」

「まあな。強いて挙げるなら、魔法があったり、竜が出たり、亜人がいたり、魔物が出たりするくらいだ」

「全然違うじゃないですか、何を見てたんですか」

「まぁ、多少は違うかな」

「多少……なのか? それは?」

「……まぁ、その他には特にこれといった縛りはないから、貴様のやりたいことをすればいい。こちらもこれ以上、貴様には関知しない」

「は、はぁ……」


 なんかそれ、『これ以上はめんどくさい』というニュアンスにも聞こえる。

 それにしても、トロコンとか縛りとか、この女神、結構ゲームに詳しいな。

 もしかしてオタクか?


「……お?」


 そうこう考えているうちに、俺の体が光に包まれる。

 すげえ。

 ただただ、その言葉しか出てこない。

 いや、じっさい口から出たわけじゃないけど。

 なんて幻想的なんだ。

 そして、俺はこれから、そんな幻想いせかいの中で――


「『光の粒子がこんなに……ッ!? まるで、砂糖にたかる虫ケラのようじゃあないか……! 汚らわしい! 俺に軽々しく寄ってくるんじゃあない!』 ……か?」

「いや、なに突然!?」

「貴様の気持ちを代弁してやろうと思って」

「そんなこと思ってません」


 なんなんだこの女神。

 さっきから余計なことしか言わねえ。

 ……でも、すげえ、ファンタジーだよ、これ。

 ――いや、この感想もどうなんだ?


「ああ、そうだ。それともうひとつ」

「え? な、なんでしょう?」


 もうこの人が口を開くたびに、嫌な予感しかしないんだけど。

 とりあえず聞くだけ聞いておこう。


「ステータスオープンのほうは問題なく使えると思う」

「……どういうこと?」

「けど、じわじわ徐々に最強系は怪しくなった」

「……は? 怪しい?」

「あと、ハーレムは……貴様についていくような物好きもおらんから、諦めよ」

「みっつもあるじゃん! 言いたいこと!」

「みっつもあったな」

「なにその、自分でもびっくりした。みたいな言い方!?」

「思いのほか、貴様に伝えたいことがあったみたいだ」

「……いや、そうじゃなくて、それじゃあただの移動じゃん! AからBへ行くだけじゃん!」

「他に要望はあるか?」

「もう転生始まってるんですよね!?」

「……どうやら時間切れのようだ。これ以上の要望は締め切る」

「誰のせいだと……てか、さっきも言ったけど、これじゃあ俺をそのまま、べつの世界にお届けしてるだけじゃん! ア○ゾンかよ! 置き配かよ!」


 おっと?

 このノリツッコミは、なかなかいい感じなんじゃ――


「つまんね」

「はったおすぞ」

「でも、ステータスオープンはつけているぞ」

「いや、だからステータスオープンって標準装備ちゃうんかい!」

「まあ、そういうことで。……エンジョイ! 異世界ライフ!」

「ああ!? ちょ、こンの女神!?」


 無理やり締めやがった!

 適当な仕事で丸投げしやがった!

 許せん!

 最終的に、誰にしわ寄せが来ると思って……て、そうじゃない。

 そういう話じゃない。


「……! ……!」


 ……あれ?

 文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、もう声が出ない。

 視界も、だんだんと真っ白に――

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