第30話INVADER ~底なしの暴食~

 村を後にして数時間の後、グリム達は疲れきった足取りで森の中を歩き続け、ようやく開けた景色を目の当たりにする。丘の上から見渡すその景色は、様々な緑と空の蒼が混ざり合う壮大なもので、遠方の山々まで臨める絶景であった。


 するとつかの間、疲れを忘れたのか、メアがぽつりと溢していた。


「……綺麗じゃな、色のある景色というのはかくも美しいのか」

「感動するほどのものかねぇ」

「旅慣れているお主は見慣れているのかも知れぬが、妾にとっては新鮮なのじゃ。黒の大陸は暗色ばかりで彩りに欠けるからのう。あの景色も趣深くて好みじゃが、やはり鮮やかな色彩には心が躍るのじゃ」

「そう感動ばかりしてもいらねえぞ、王都はあの山の向こう側なんだからな」


 なんてグリムが言ってみても、メアはしばらく立ち止まったまま、眼下に広がる深緑の森を穏やかな表情で楽しんでいた。大袈裟に喜んではいなかったが、彼女が心底感動しているのがよく分かり、これ以上水を差すのも野暮なので、グリムはこの辺りで休むことを提案した。

 ただ彼の提案は、一時の休憩ではなく、本日の行動を終了するという意味だったので、まぁ当然のことながらメアからは反論が出る。


「丁度陽が真上に来た頃合いじゃぞ、野営を張るにはまだ早いじゃろう。先を急がねばならというのに、悠長に休んでなどいられぬのじゃ」

「先が長いから休むんだ。タコ野郎と戦ってからこっち、休みなしで歩き続けてきてるんだ、お前はどうかしらねえが、俺はもう保たねえよ。それに疲れ切ったまま、魔物か盗賊にでも襲われたらどう転ぶか分からねえだろ?」


 要するに、急がば回れ。急いては事をし損じる、である。しかもメアに至っては、人間の姿に化けることさえ出来ていない。


 となれば、体力も魔力も空っ穴に近い状態がどれほど危険であるかくらいは、旅慣れていないメアでも想像が付き、彼女もそれ以上の反論はしてこなかった。そんな訳で、街道を外れて木々の中へと分け入った二人は、道から十分に離れた場所で野営を張った。


 まぁ野営を張ったと言っても、落ち葉を集めて寝床をしつらえた程度の簡易的なものではあるが、これでも野営には違いはない。ところがだ、着火魔法フリントで火をおこしたメアは、じぃっと自分の掌を見つめままで、なにやら悩んでいる様子である。


「……うぅむ、魔力が上手く練れぬのじゃ」

「そりゃあ、一気にあれだけの魔力を使えばそうなるさ」


 グリムの保有できる魔力量をコップ一杯分だとすれば、メアのそれは小さな池程度はあるというのが彼の読みである。そして魔力の制御とは、その溜め池から水を引き出す水門の解放具合を調節することに似ているのだが、元々、その調整を苦手としているメアが、秘術を使用するために一息に水門を全開にしてしまったのが、今の不調の原因だった。


 池にどれほどの水が溜まっていようとも、水門どころか岸の半分近くを吹っ飛ばしてしまえば、治水も調整もあったものではない。結果として、池が涸れるのも当然で、そうなれば初歩的な魔法でさえ、湿気たマッチ並の不便さとなるし、他にも問題が出てくる。


 例えば――


「変身魔法は使えそうか? その姿魔族のままだと、色々面倒を呼びそうだ」

「すぐには無理じゃが、明日になれば変化できるはずじゃ。変身魔法は変化を保つために魔力を消費し続けるが、一度に使う魔力は少ないからのう」

「ならよかった。最悪、お前をふん縛って王都に入ることになりそうだったからな」


 魔族の姿でメアを王都に入れるには、捕まえたと偽るしか方法が思いつかない上、仮にその方法で王都に入れたとしても、そこから先は運試しみたいな展開ばかりが続くので、元々避けたい選択肢であった。……が、メアが変化できるようになるなら、王都に入る方法はいくらでもあるだろう。結局、どうやって王に謁見するかという難題は残るが、トラブルの種は少ないに越したことはないのである。


 そして、トラブル……というよりも、目下の問題に取りかかるべく、グリムはとりあえず、自分のコートを地面に広げてこう言った。


「メア、寝ろ」


 ……言葉足らずだったことは認めよう。


 それに人目が皆無であることと、徐々に日が傾きだしていることも合わされば、一応年頃の娘でもあるメアが、警戒して身を強張らせるのも致し方ないことである。


「ナっ……⁈ なにをする気じゃ、このたわけめッ! 妾に劣情でも抱いたかッ⁈」


 とまぁ、メアは蒼い頬を真っ赤にして声を荒げるが、グリムはといえばなんとも冷めた眼差しで返すだけ。彼女が隠そうとしている不都合は、彼にしてみればお見通しもいいところだ。


「今までで一番ぶっ飛ばしたくなるセリフだな、生憎と俺は人間の女が好みなんだよ。……んな事はいいから、さっさと横になれ。今日は半日、お前の意地に付き合ったんだ、今度は俺が意地を通す番だろ」

「……お主の意図は、妾にはサッパリ分からぬのじゃ」

「左脇腹――」


 その呟き一つで、隠しても無駄だとグリムは分からせれば、そっぽを向いていたメアの肩がバツが悪そうに震えた。


「――タコ野郎に不意討ち喰ったとき傷めたろ、回復師の目を誤魔化せると思うなよ」

「なんという事は無いのじゃ、この程度。お主の世話にならずともじきに良く――」

「――ならねえよ。半日様子を見てたが、肋骨痛めてて歩く度に激痛が走ってるはずだ。そのせいで歩みが遅え。村から王都までは三日の道のりだが、いまのペースだと五日はかかる。ただでさえ時間掛かってるのに、まだグダグダするつもりか?」

「先を急いでいることは理解しておる。しかしこの傷は妾の油断が招いたもの、故に戒めとして身に刻んでおきたいのじゃ」


 種族は違えど、グリムも戦に身を置いて久しいので、メアが拘る理由も分からなくはなかった。彼女のように、傷を身に残して得た教訓というのは、意外な場面で命を繋いでくれたりするものなのである。


 だがまぁ、それはそれ、これはこれで、メアに魔王女としての意地があるように、グリムにも回復師としての意地がある。怪我人を前にして、放っておくってのは彼にとっては怠慢に等しいのだ。


「痛みからの教訓は十分に得たろ? まだ意地張るつもりなら気絶させてから勝手に治すぞ?」

「……半ば脅しではないか、回復師の台詞とは思えぬのじゃ」

前線回復師フロントヒーラーはどこでも傷を治すのが仕事だからな。腕ぶっ飛ばされて暴れる戦士を治すときには、頭ド突いて大人しくさせたもんさ」


 淡々と語るグリムの口調は、メアにある想像をさせた。それは、もしもこれ以上治療を拒むのであれば、彼は実際に、いま語った荒療治を意図も容易くやるだろうという、確信に近い未来予想であった。


「どうするか決まったか? 大人しく治させてくれるのか、それとも無理矢理治療されるのか、どっちがお好みだ、メア」

「尋ねているようで尋ねておらぬではないか……」


 どうあっても、グリムは自分の意地を通すだろう。

 今日半日、意地を通しきったメアだからこそ、彼が意思を曲げるつもりがないことを理解したようで、渋々ながらも、彼女はグリムが敷いたコートの上に寝転び魔法による治療を受けることにした。とはいえ、ただ寝転がっているだけというのも芸が無い――というより暇なので、彼女は色々と質問をしながら治療を受けていた。


「これは何をしているのじゃ?」

「ん? 怪我の具合と場所を探してる」


 言いながら、グリムは魔力光を灯した左手を沿わせて、メアの身体を隅々まで光で照らした。


「ホリィを治したときにも見せたろ、アレと同じだ。ぱっと見で分からねえ負傷があったりすると厄介だからな、半日歩けてるから内臓は無事だと思うが念のためってとこだ」

「外から分からぬ負傷をどうやって見分けるのじゃ」

「怪我や病気を抱えてる場所は魔力の流れが濁るから、俺が流して込んでる魔力に抵抗を感じた場合、そこに何かしらの異常があるってことになるんだが……」


 魔族と人間では身体の造りが違うため、一概に信用できるとも言い難いが、種族が異なっても生き物であることは同じなので、まぁなんとかなるだろう。

 そんなある種の適当さで備えつつメアの身体を調べ終えたグリムは、魔力光を握り消すと感心したように鼻を鳴らした。魔族の肉体の頑丈さには驚かされるばかりで、なにより彼は、メアの精神力に感心していた。


「よくこの傷を半日我慢したな」

「当然じゃ。妾は魔王女じゃぞ、身を裂く痛みなどどうという事は無い」

「左肋骨、恐らく三本骨折で一本にヒビ。幸い内臓は無事みたいだが、歩くだけでも相当痛んだはずだ。――ちょっと触るぞ、痛かったら言えよ」

「む? うむ……。触れることは構わぬが、魔力光で負傷している場所は分かるのじゃろ?」

「念のためだ。お前の肌、一部が真っ黒だから内出血の具合がわからねえんだよ」


 許可を得たグリムは、掌をメアの脇腹に当てそのまま撫で下ろしていったのだが、肌に返る感触に今度は思わず彼が尋ねていた。


「……黒い部分って毛皮か? それとも毛皮を変化させたドレスなのか?」

「一部は毛皮で一部は素肌じゃ、今触れている辺りは境目に当たる部分じゃな。ふふん、魔王女の柔肌に触れる人間は後にも先にもお主だけじゃろうな、精々光栄に思うが良いぞ」

「まさか栄誉を押し売られる日が来るとは思ってなかったな」

「む、なんじゃとぅ⁈」


 メアがむくれても気に留めず、グリムは掌の感覚に集中していたが、極度の集中がなくても彼女の身体にある違和感には、きっとすぐに気付けただろう。


「あぁ~、やっぱ腫れてるな、まぁ骨折してれば当然か。――触られてる感じはどうだ?」

「うッ、むぅ……。少し、痛むのじゃ……」

「なるほど」


 痛みを噛み殺したメアにそれ以上グリムは突っ込まず、短く呪文を唱えると回復魔法での治療を始めた。彼の両手から発せられた温かな光がメアの傷を包み込めば、彼女はふぅ~と細く息を吐いていた。

 それから、またしばらく沈黙が続いていたが、静寂を嫌ったメアがぽつりと口を開く。


「のうグリムよ。ずっとそうしておるが、治りきるまではどれくらい掛かるのじゃ」

「ん? そうだな、この傷なら一時間くらいだな」

「…………自身を、優先してよいのじゃぞ。お主の方が傷を負っているはずじゃろう」

「怪我人がナマ言ってんじゃねえよ、そんなもん歩いてる間に治し終わってる。いいからじっとしてろ、変なふうに骨がくっついたら手間が増える」


 具体的にどのような手間が増えるのか気にはなったが、真剣な顔つきで回復魔法を使い続けているグリムの姿に、流石のメアも好奇心を引っ込めて口を噤み、代わりに思考を働かせた。

 考えるべきはこれからのこと、王都に着いた後にどうやって謁見まで至るかである。


 ……そう、先のことを考えるべきなのだ。過ぎた時間は戻りはしない、だからこそ未来のために頭を働かせるべきなのだが、ふとした瞬間を狙っていたかのようによぎるのは、やはりホリィの泣き顔だった。


 その所為だろうか、メアの不意に口を開いていた。

「……妾には、夢があるのじゃ」


 そう溢したメアを見下ろすと、グリムの右手がすぅ~っと動いた。


「……こらグリムよ、何故頭に回復魔法をかけるのじゃ」

「いや、いきなり夢語り始めたら、ぶつけてると思うだろ」

「黙っていても喋っていても無礼な奴じゃな、お主は。今の場面は怪我の心配よりも、夢の内容について問うところでは――」

「――人魔の平和だろ?」


 いっそ片手間に答えたグリムに、メアは唖然としている。勇気を出した告白をぞんざいに扱われた点もさることながら、ズバリ言い当てられたことが衝撃だった。


「その顔は怒ってんのか、それとも驚いてんのかどっちなんだ? 別に不思議じゃねえだろ、お前の言動を見てればなんとなく予想はつく」

「わ、笑わぬのか……? 魔族の妾が、人魔の平和を願うなど馬鹿げているじゃろ?」

「馬鹿げてるとは思うが、他人の夢を嗤うほど落ちぶれちゃいねえよ。ただ、個人的な感想を言わせてもらえば、まぁ…………無理だろうな」


 理由は今更語ることではないが、あまりにも長い間、人間と魔族は争いすぎた。殺し合った百年の間に深まった両種の溝は一朝一夕で埋まるものでは到底無い。


「いま生きてる人間は漏れなく魔族を恨んでる、痛感したばかりだろうが」

「そうじゃな、文字通り痛いほどに。だからこそ、妾は人魔の平和を形としたいのじゃ」


 骨折の治療を優先しているため、メアの腹部にある無数の切り傷はそのままである。切り傷といっても薄皮一枚を裂かれた程度の傷なので、放っておいてもすぐに治る浅いものだが、この場合、傷の深さは問題ではない。


「のうグリムよ、妾を斬りつけたときのホリィの表情を覚えておるか?」

「……あぁ、憎しみ一色。そんな具合だった」

「底知れぬ怒りなど、およそ少女には似つかわしくないが、ホリィをそうさせたのは……あれは妾の責任なのじゃ」


 本心を言えば否定が先に立っていたが、グリムはまず尋ねていた。

 その根拠はどこにあるのかと――。


「単純な話じゃ。魔王軍を指揮しているのは妾の父上、魔王ディアプレド。そして配下の魔族、魔物達は父上のめいに従うのみ。力をむねとする我ら魔族にとっては、強き者に従うが必然で異を唱えるなど以ての外なのじゃ」


 グリムは黙って頷き、続きを促した。

 まだ口を挟むときではない。


「じゃが、妾にはできた、出来たはずなのじゃ。いや、妾にしか出来なかったのじゃ。魔王城の中にあって、力に縛られることなく、父上と言葉を交すことが出来たのは妾だけだったのじゃ、だのに……、だのに妾は、父上を止めることが出来なかったのじゃ。実の父だというのに、その力を恐れ、その怒りを恐れて、争いの矛を収めるべきではと、口にすることさえできなんだッ! ……じゃから、じゃから全ては妾の責なのじゃ、臆病な妾の責なのじゃ」


 尻すぼみに、メアは胸の内を吐き出した。争いを止めたかったと語る彼女に、きっと嘘はないだろう。だが果たして、その責は彼女が負うべきものなのだろうか?


「そこまで背負えるのは、スゲェ事だと俺は思う。ただ、お前に責任があるかってなると、それは違うんじゃねえかな。お前が命令したわけでなし、親父がやった不始末を娘が背負う必要は無いだろ」

「じゃが、妾が止めていればこんなことには――」

「――なってたさ、どのみち。それに、ホリィの両親が殺されたのだって昨日今日の話じゃねえだぞ。親のケツを拭こうって思えるのは立派だが、なんでもかんでも自分の所為にするな、どうにもならねえことってのは、生きてりゃごまんと沸いてくる」

「それくらいはわかっている! しかし妾は、どうにもならぬからと諦めたくはないのじゃ!」


 メアは声を張り上げ、そして脇腹の痛みに呻いた。

 治療の最中に騒ぐなんて実に馬鹿らしい痛がり方だが、グリムはむしろ、彼女の言葉によって呆気にとられていた。


「……なに言ってんだ、お前が諦めてねえことくらい知ってるよ」

「の、のじゃ?」

「何度も行動で示してる。お前が心から人魔の平和を願ってるのは、もう十分に分かってる。正味な話、俺だって戦わなくていいならその方がいい」

「それは真か、グリムよ」

「当たり前だろ、俺が好きこのんで殺し合いやってると思ってたのか?」

「楽しんでおるように見えたから、妾はてっきり……」

「馬鹿、それくらいの心持ちじゃねえとやってられねぇんだよ」


 今度はメアが呆気にとられる番で、彼女は愚直に回復魔法を使い続けるグリムの横顔を、しばらくの間黙って見つめていた。


 誰しもが虚勢を張っているのだと、強い剣士であろうとも、その内面までも鉄で出来ているとは限らず、また、鉄である必要も無い。

 グリムがそうであるように、自分もそうあったよいのだと――


 ふと、その事に気が付いたメアは、僅かに眉根を緩めたがしかし、すぐさま力を込めなおして問うのだった。


「で、あればじゃグリムよ。何故、妾の夢を否定する?」

「否定はしてねえ、現実的じゃねえって言ったんだ。俺としては、どうしてお前が自信満々なのかを訊きたいんだがな」


 自信には根拠が必要で、グリムの問いに、メアはそれこそ愚問だと言い切った。


「……お主じゃよ、グリム」

「俺? 俺がどうしたって?」

「ここまで言って分からぬか? 人間のお主が魔族である妾の命を救い、魔族の妾が人間であるお主と共に戦った。人間を守るために傷ついた妾を、お主はこうして治していて、妾はその気遣いを感謝と共に受け入れている。今の我らの関係は、そのまま妾が抱く夢なのじゃ。数日前まで敵対していたはずの我らが、たき火を囲み寝食を共にした。望みはあると、叶う見込みがあるのだと、証明してくれたのはグリムなのじゃ」


 メアはそう言って、穏やかな笑みを浮かべていた。

 現状は正しく、奇跡と言っても過言ではない状況にあり、こうなるまでには、いくつもの偶然と気まぐれが存在していた。必然と断言するにはあまりにも薄い、薄氷を渡りきった先の現在は、だが確かにメアが抱いている夢の形であると納得すると、グリムは回復魔法をそっと握り消した。


「……終わったぞ」

「のじゃ?」


 っと言いつつ身体を起こすと、メアは脇腹を撫でながら驚いていた。


「おぉ! これはまっこと見事じゃな、ほとんど痛みが消えておる!」

「回復魔法に頼りすぎると癖になるから完治はさせてない。まぁ、魔族の回復力なら明日には治ってるだろ。とりあえずは動けると思うが、無茶はするなよ」

「うむ。ありがとうなのじゃ、グリム!」


 メアの振る舞いは、基本的に貴族が身につけているような気品と威厳を纏っていて、だからこそグリムは、彼女の正面に立てていたのだと、遅ればせながらに知ることになる。なにしろ実に業腹な事ながら、不意に彼女が見せた年相応の女の子らしい笑みと言葉に、グリムは思わず顔を逸らしてしまっていたのだから。


「む? なんじゃグリムよ、何故顔を伏せる。もしや妾の美貌に、今更になって当てられたのではあるまいな? ハハハハッ」

「いや、一つ確認しておきたいと思ってよ」


 図星を隠してグリムが問い、その内容には、メアの顔から笑みが消える。当然だ、とても冗談で済ませられる話ではないのだから。


「人魔の平和。これに関しちゃ賛成だし、そこに嘘がねえなら俺も手を貸す。ただ気になるのは、その平和の中に連中・・も入れるつもりかどうかって事だ」

「……お主の言う連中とは、我らが倒したあの鉄のタコじゃな?」


 グリムは頷く。奴等がどういう存在なのか一切不明のままであるが、空から突然現れて攻撃を仕掛けてきた奴等をメアがどうするつもりなのかは、やはり気になるとことではある。


「妾は……。うむ、グリムは反対するかも知れぬが、妾はとしては彼等が交渉に応じ、また共存を望むのであれば受け入れるべきだと思うのじゃ。すでに刃を交えてはいるが、人魔の犯した過ちを繰り返さぬためにも、平和的解決を模索すべきだと――」


「いけません! 交渉などしてはッ!」


 それは唐突だった。

 グリムもメアも、出し抜けに飛び込んできた黄色い声には目を剥いて驚き、そして声の主を目の当たりにしたときには二人揃って目を疑った。なにを隠そう声の主は、そこら中を飛び回る光の玉で、しかもよく見れば掌サイズの人であるから、なおさら驚きである。

 さらにこの小人は二人の前で滞空すると、小さな身体で目一杯声を張り上げた。


「絶対にいけません、交渉など考えては! アレを滅ぼさねば、この星が滅びますよ!」


 グリム達は眉根を寄せて、その翼を持つ小人を訝しげに見つめていた。どうにも奇妙な事になってきたし、怪しい気配もありありである。だがしかし、とにかく話を聞かなければ始まらないだろう。

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