第5話 ブレイブソウル・オンラインⅡ


 時刻は夕方に差し掛かりつつあり、15時48分と表示されている。

 今日は日曜日。

 学生は学校などが休みのため、ほとんどが街に遊びに行くか、家にこもって趣味に没頭しているか、出された宿題をこなしているか……。

 社会人は日曜が休みのところもあれば、サービス業などは一番なかき入れ時なため、今が最も混雑している頃だろう。

 そんな中、《BSO》内でそんな休日を過ごす者たちは多い。



「ねぇねぇミカ姉、今日はどこに冒険しに行くの?」


「ん? そうだな……お前のレベルを考えると《アラシヤマ》方面のダンジョンに行こうかと思ってるんだが……」


「あ〜、あそこか〜……うんいいよ。じゃあ、早速行こう!」


「おいおい、そんなに急いでいかなくても……まぁ、いいか」



 街を練り歩く二人の女性プレイヤー。

 うち一人は、いまプレイヤー中の注目を集めている話題の人物。

 狼牙族の拳闘士【拳皇ミカヅキ】と呼ばれている女性だ。

 狼牙族特有の犬耳と尻尾に白を基調に薄紫のグラデーションが入った色合いのチャイナドレスを纏った美麗の令嬢……といった雰囲気を持っている。

 そしてもう一人。

 ミカヅキと共に街を歩くもう一人の少女プレイヤー……ミカヅキと同じ狼牙族でありながら、ミカヅキの様な凛々しさやカッコよさではなく、愛玩犬の様な可愛らしくて、愛らしさが全面に現れている印象を感じる。

 犬っぽいモフモフ感のあるショートカットの髪型に、身につけている衣装も桜色を基調にした改造和装とスカート。

 ミカヅキが優雅にして力強く、勇敢な守護性質を持つ『ドーベルマン』のイメージならば、もう一人の少女は、陽気で好奇心旺盛で、非常に活発な印象を持つ『ミニチュアダックス』をイメージさせる。

 


「ミカ姉〜! 早く行こうよ〜!」


「そんなに急ぐことはないぞ、サクラ」



 サクラと呼ばれた少女は、ミカヅキの静止の声など聞かず、街道をそそくさと駆け足で進んでいく。

 しかし、サクラがついついはしゃいでしまうのも無理はない。

 この《BSO》の舞台となっているなのは古き良き日本の姿そのものである。

 時代背景としては、江戸幕末期〜明治にかけて。

 その中で、日本という国名は使わず《ヤマト大国》という名を使っている。

 そんなヤマト大国は、大きく分けて五つの文化圏を形成している。

 現在の北海道・東北地方を文化圏としている雪国【氷海列島カムイ】。

 関東・中部地方を文化圏としている街道山景

【軌轍道中ムサシノクニ】。

 関西・中国地方を文化圏としている古都

【神聖霊域カンナヅキ】。

 四国地方を文化圏としている森林地帯

【修練巡礼ガラン島】。

 九州地方を文化圏としている鉄と業火の島

【鉄火州島ヤマイコク】。

 そして今、ミカヅキとサクラがいるのは【カンナヅキ】の大都市である《花都フシミ》にいる。

 フシミの街は、現実世界の京都と同様に碁盤の目状の街並みを再現しており、かつての日本の都であり、現代に至っても歴史的文化財が多く残っている街だ。

 幕末を終え、明治になった時には首都が東京に移されたが、それでも近代化を進めていき、異国文化を取り入れて、琵琶湖からの疏水技術を確立させた事で、さらなる発展を遂げた京都。

 それらの歴史背景も反映させていることから、ただの古都と呼ばれる様なものではなく、どこかロマン溢れたモダンな街並みのようにも見えるのだ。



「わあ〜! ここ素敵だねぇ〜!!」


「あぁ、竹林だね……別に今の京都でも観光できる場所じゃない」


「現実とは全く違うじゃん、この雰囲気とか! これは立派なデートスポットだよ〜!」


「デートなら現実世界ですれば良いじゃない」


「こっちの方が幻想的じゃない?」



 サクラの指摘通り、VRの技術を用いて作られた観光スポットは、現実とは比べ物にならないほど幻想的に映る。

 ただの竹林の通り道も、ただただライトアップされているよりも、精霊が飛び交っているような光の中でなら、まるでそこが、異世界にでも迷い込んだと思わせるほど魅力的な物になる。



「それで、この先にあるダンジョンなんだよね?」


「あぁ。サクラ、あんたレベルはどれくらいになった?」


「えっと、58……だったっけ? もうすぐ60になるくらいだったから」


「そっか。じゃあ今回は大丈夫でしょ。ちゃんとガラン島の修練は積んできたみたいだね」


「アレ超〜大変だった! レベル上げにはもってこいだけど、88ケ所も巡ってレベル40止まりって……!

 ほんと詐欺じゃないかと思ったよ……!」


「あはは! 私もそう思ったけどね……でも、あそこはあそこで、良い経験になったでしょ?」


「まぁ、それはそうだけど……」



 ミカヅキの言っていたガラン島の修練……。

 《BSO》内において、ガラン島という名称で呼ばれいる四国地方に存在する連続クエストの事を指す。

 低レベルのプレイヤーたちが、より効率良く自身のレベルアップや戦闘技術を身につけるための修練場が、四国という島全てに配置されており、その数は88ヶ所にも及ぶ。

 そして、ガラン島はゲームにおいて【狼牙族】と【猫人族】の出生地として設定されており、その種族だけが受けられる特殊クエストなども存在するため、初心者プレイヤー達の登竜門となっているのだ。



「それで、今回の《アラシヤマ》のダンジョンって、どんな所なの?」


「えっと、アラシヤマっていうのは無論、京都にある嵐山をモデルにしているだけど、そこにある洞窟に入って、中にある地下ダンジョンを攻略していって、途中に山頂付近に出る道があるから、今日はそこまで行こうと思う。

 あんたの実力を確かめるためにもね」


「ふふんっ……もう駆け出しの時の私じゃないからね!

 すぐにミカ姉に追いついて見せるからっ!!」


「ほほう? なら、まずは月間試合の優勝くらいはしてもらおうか?」


「うぐっ……ま、まぁー、私が本気なれば……どうって事……」


「ふふっ……楽しみにしてるよ」



 二人は竹林を抜けて、目的地である《アラシヤマ》の洞窟ダンジョンの入り口まできた。

 《BSO》の内部時間は現実と同化しておらず、現在の時刻は夕方で、本来ならばまだ夕焼けが【フシミ】の街並みを照らしていても良いくらいなのだが、今の【フシミ】は真夜中。

 夜空には輝く星々と、辺りを優しく照らしてくれる満月がみえている。

 しかし、ここまで歩いて来た道のりで、多くのプレイヤー達と出会った。

 街の飲み屋が立ち並ぶ区画では、酒盛りで大いに盛り上がっていた。

 その他にも、『ウズマサ』と呼ばれる区画では、時代劇さながらの街並みが再現された決闘場が用意されており、そこで腕試しと賭けが行われており、バトルジャンキー達の熱狂で凄まじかった。

 そんな熱狂する真夜中で、ミカヅキとサクラは人里離れた山道のダンジョンに来たため、他にプレイヤー達の姿はない。



「でも、こんなにいっぱいのプレイヤーがいるのに、ここには私たちしかいないのって不思議な感じだね」


「まぁ、御前死合も終わって、一旦落ち着いてきたからね……オリンピック後みたいな感じじゃないかな?」


「あぁ……燃え尽き症候群みたいな?」


「そう。みんな【神将】の称号を得ようと必死にレベル上げをして、スキルや戦闘技術を駆使して戦略を立てたりしてたんだから……。

 それが終わって、みんな落ち着いたんだと思う」


「まぁね〜……大きなイベントの後って、なんだかやる気が無くなるんだよね〜。

 高校受験が終わって、無事学校に通えるってわかったら、その後は勉強とか一切せずに遊びまくってたなぁ〜」


「でも、もうそろそろ動き出さないとね。あんた、演劇部に入ってるんでしょ?」


「うん! お芝居の世界って、ちょっと憧れてたんだよね〜!

 だから、ちょっと勇気出して入ってみたの!」


「どうなの? 演劇部の活動……」


「まぁ、うちは演劇部っていっても、人前に出て劇をやるんじゃなくて、紙芝居みたいな感じのやつだしね……どっちかっていうと声優に近いのかな?」


「へぇ〜そんな劇もありなんだ?」


「うん。よく老人ホームとか、保育園とかで発表会やってたらしいから、私たちも同じようにするんだと思う」


「そっか。まぁ、部活もいいけど勉強もちゃんとしなさいよ?」


「う、うん……」


「……サクラ、目が泳いでる」


「ま、まぁーいいじゃん! ここは仮想世界だよ? リアルの事を持ち出すのは野暮ってものだよー」


「はぁ……まぁいいけどね」



 調子のいいサクラを後ろから見ながら、ミカヅキは微笑みで返した。

 そこまで話して、二人はダンジョンの入り口付近で戦闘準備を始める。

 コマンドを操作して、互いの装備を確認し、武器を呼び出して装着する。

 サクラの腰に現れた装備品……それは、片手用直剣と大型拳銃であった。

 サクラの職業は【銃剣士】と呼ばれるもの。

 【銃剣士】は職業部類【銃士ガンナー】に分類される職業で、その名の通り銃による中距離戦闘を可能にする剣士。

 その他にも銃剣付きのライフル銃を用いて中距離支援型の戦闘を行なったり、ガン=カタと呼ばれる戦闘技術を用いた近距離射撃戦闘を行ったりと、多様性に富んだ戦闘を得意とする。

 


「【銃剣士】……か。その装備もなかなか良いじゃないか」


「でしょ? この間フレンドと一緒に行ったダンジョンの討伐クエで獲ったんだ〜!」



 サクラがこれ見よがしにわざとらしくミカヅキに見せびらかす武器。

 左手に抜き取った大型拳銃と右手に握る片手用の片刃直剣。

 右手に握る片刃直剣は【グリフォン】。

 片刃の刀身ながら鎬は太いため、剣のように頑丈で防御性能もいいだろう。

 鋒が鷲の嘴のように尖っており、鍔の装飾も爪を彷彿とさせる二本の大きな突起が付けられている。

 左手に取る大型拳銃は【ブリッツ】。

 サクラの言っていた討伐クエストに出たボスモンスターの討伐の際に獲得したもので、名前の通りプレイヤーの魔力ゲージを消費して、電撃の弾丸を射出する仕組みになっており、ヒットすれば一定確率で相手を麻痺させる事が可能。

 サクラはそれを見せながら、クルクルと【ブリッツ】を指で回して、腰に現れたホルスターに戻す。



「どう? カッコいいでしょ?」


「あぁ、それに中々良い性能だね。これはちょっと侮れないかな……」


「ふふん、大船に乗った気持ちでドンッと任せてよ!」


「あぁ……。それじゃあ、早速ーーーー」



 行こうか……と言おうとした時、後ろから誰かが近づいてくる音が聞こえた。



「ん?」


「どうしたの? ミカ姉。早く行こうよ」


「誰かがこっちに来てるな……」


「え? あ、ほんとだ」



 狼牙族という獣人種の特性ともいうのだろうか、人間ではあり得ないほどに感覚が優れており、僅かな音でも聞き取ってしまう。

 ミカヅキとサクラの二人は、共に狼牙族であることから、その足跡の主が現れるのを待った。

 すると、自分達が通ってきた道を追ってくるかのように、人影が一つ……二人の前に現れた。



「あら? 先客がいたのね」


「…………」


「あ、こんばんわ」



 「こんばんわ」にはまだ少し早いが、周りが真っ暗になっているため、反射的にそう言ってしまった。

 対する人影も「こんばんわ」と返してきた。

 山道に生えている木々の影によってわからなかったが、その影から出てきた人物を、月明かりが鮮明に照らしてくれた。

 その自分は、サクラ達と同じ獣人種のアバター。

 しかし、自分達と違って耳は少しばかり尖っているように見え、尻尾もほっそりとした形状のもの。

 それは、同じ獣人種の中でもスピードとテクニックの性能を持つアバター【猫人族】の物であると一発でわかる。

 そして、そのアバターが身につけている装備。

 ロングジャケットにショートパンツ……革製のブーツに胸鎧、左腕だけにジャケットと同色のアームフォーマーを身につけているスタイル。

 へそ出しの生脚出しのスタイル抜群美女プレイヤーが、そこに立っていた。



「うわぁ……スタイル良すぎ……!」



 思わずサクラからこぼれた言葉。

 この世界でのアバターは、リアルの体を【フォトンギア】が全身スキャニングをする事で構成されるため、リアルの世界とほとんど同じ体型で作られる。

 つまり、サクラ達の目の前にいる女性プレイヤーのスタイルは、現実でも同じくらいのスタイルという事だ。

 ほっそりとした美脚に、出るとこは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 そんな猫人族のプレイヤーの姿に見入っていたサクラだが、その猫人族のプレイヤーはその視線を感じてか、少々後ずさる。



「ええっと……」


「あ、えっと、ごめんなさい」


「いやいや、その……別に謝られる事じゃあないんだけど……お隣さんがね……」


「え?」



 そう言って、猫人族のプレイヤーの視線が隣に向く。

 釣られてサクラも視線を向けると、そこには獰猛な獣の如く、獲物を取り逃がさないように睨みつけているミカヅキの姿があった。



「…………」


「ち、ちょっと、ミカ姉……」


「こ、怖いなぁーミカヅキさん。そんなに見つめられると、わたし困っちゃうなぁー」


「どうして私の名前を知っている?」


「どうしても何も、あなたは今をときめく有名人じゃないですか!」


「…………」



 何を今更……と言いたげな表情で返答する女性プレイヤーだが、ミカヅキはそれを無視して視線を外さない。



「あぁ……まぁ、そう来るわよね……うん、ここは自己紹介といきましょうか」



 何か観念したように、女性プレイヤーは右手を上下に振り、自身の目の前の空間にウインドウを開いた。

 メニューコマンドと呼ばれる物で、先程サクラとミカヅキが装備を展開させたのもこれによる操作だ。

 女性プレイヤーは2、3回空中投影されたコマンドを操作すると、サクラとミカヅキの目の前にある情報がそれぞれ空中投影された。



「えっと、ギルド【猫足探偵社ねこあしたんていしゃ】……?」


「なるほど、情報屋か」


「その通り! 改めまして、私はラチカと言います。以後、お見知り置きを」


「あ、ご丁寧にどうも……私はサクラって言います。

 で、こっちが……」


「そりゃあもう、知っていますよ。《BSO》に新たに誕生した【神将】持ちの超新星! 

 そして、【奏者マリア】に続いて現れた女性プレイヤーの【神将】ですから!

 我々情報屋で知らない人はいませんから……」



 「当然!」と自身の胸を叩くラチカ。

 自分の姉の凄さに改めて感服する妹であった。

 そして当の姉・ミカヅキも、そんなラチカに対する応対の非礼を詫びた。



「失礼しました。それで、その情報屋がどうしてここに?

 このダンジョンは既に幾人ものプレイヤー達が攻略したダンジョンでしょう?

 アップデートされたっていう情報も聞いてないし、わざわざここに来る理由がないのでは?」



 《アラシヤマ》の地下ダンジョンは、BSOが稼働した初期から存在していたダンジョン。

 その内容は、通常の探索系ダンジョンであり、中には武具を生成するのに必要な鉄鉱石やモンスターの素材などが手に入る場所。

 このダンジョンに出没するモンスターは、主にスケルトンやアンデット系の物に、リザードマンという人型をしたトカゲのモンスターで、レベルはそこそこのモンスター。

 初心者でも、装備レベルや同行するプレイヤーのレベルが高い者たちが一緒に行けば、難なくクリアできる……。

 故に、今更情報屋がわざわざ潜るほどのダンジョンではないはず……。



「それがですね、ここ最近このダンジョンで変な噂がありまして……」


「噂?」


「どんな噂なんですか?」


「ここだけの話なんですけどね?」



 そう言って、ラチカは話し始めた。

 ここ最近、《アラシヤマ》のダンジョンで、プレイヤーの失踪事件……というものがまことしやかな噂として広がっているという。

 なんでも、素材集めに行った複数名のプレイヤーが、何日もダンジョンから出てきていない。

 その後も探すが、五大文化圏のどこに行っても見つけることが出来ず、連絡がつかないのだそうだ。



「失踪事件……か」


「ええ〜? なんかデマっぽいけど……」


「えぇ、私たちも最初はデマなんじゃないかと思ったんですけど、うちのギルドマスターが面白そうなネタだから、ちょっと探ってこいって言われて……」


「ぁぁ……」



 しょんぼりとした表情になるラチカ。

 それに連動してか、ラチカの頭部にある猫耳と尻尾も垂れ下がっている。

 


「ふむ……事情はわかった。では、我々は我々で注意しながら進むとしようか」


「ええっ?! 入るのっ?! 今の話を聞いて?!」


「なによ? デマっぽいって言ったのはあんたじゃん」


「いや、そうだけど……」


「まさか、アンデット系のモンスターにビビってるの?」


「そんなんじゃないけどっ……! でも、なんかそんな噂がある場所で素材集めはなぁ……」


「せっかくここまで来たのに……このまま帰るのもねぇ……」


「それはそうだけど……」


「ところで、あなたはどうするんですか?」



 ダンジョンに入る事に戸惑っているサクラから視線を移し、ミカヅキはラチカの方へと向ける。

 


「そうですね。私は元々ここに入るつもりでしたので、このまま入るんですけど……実は待ち人がまだ来てなくて……」


「ん? ギルドのメンバーですか?」


「ええ、まぁそんな所です。一応まだ待ち合わせの時間にはなってないんですけど、ちょっと遅れそうだって言うので……」


「ふむ……」



 ミカヅキは右手で顎を触りながら一旦考え込むと、再びラチカに視線を向ける。

 


「えっと……失礼ですが、ラチカさんのレベルはいくつですか?」


「えっ? 私のレベルですか? 74ですけど……」


「ほう、中々ハイレベルですね」


「いやぁ〜、ミカヅキさんほどではないですよ〜」


「私が98、サクラが58、ラチカさんが74……ちなみに職業クラスは……【野伏】で合ってますか?」


「はい。さすがは【神将】! 素晴らしい洞察力です!」



 【野伏のぶせ】。

 職業部類【隠者ハーミット】に分類される職業の一つ。

 主に弓矢などの飛び道具の扱いや野営、サバイバル技術などに長けており、自然を利用した罠の設置や発見、解除出来るスキルを保有している職業である。

 そして、ラチカの種族は猫人族。

 獣人種の中でも『スピード&テクニック』の代名詞で知られている猫人族は、野伏やもう一つの【隠者】クラスの職業である【暗殺者】に向いているのだ。



「【野伏】ならば、罠の解除スキルも?」


「ええ、情報屋としての職業柄、持ってるのは常識です♪」


「なるほど……。なら、我々と一緒に入るというのはどうでしょうか?」


「え? ご一緒してもいいんですか?」

 

「ええ。二人でも攻略できないレベルではないですが、三人……それに【野伏】の持つ索敵スキルや猫人族の夜目のスキルがあれば、攻略もさらにやり易くなる。

 それに、あなたはどうしてもこのダンジョンで、その……奇妙な噂の情報を持って帰らないと行けないのでしょう?」


「ええ、まぁ……」


「なら、一石二鳥ですね。あ、もう一人来るって言っていた人を待ってた方がよかったですかね?」


「いえいえ! 彼も仕事なんで、仕方ないんですけどね……。

 時間通りには来れないでしょうし、ここで待ちぼうけなのも嫌なので」


「なら……」


「ええ。ミカヅキさんと、えっと……サクラさんがよろしければ……ぜひ!」


「どうだ、サクラ? 戦力としてはかなり優秀な人かもしれんが……」


「え? まぁ、ミカ姉がそういうなら……。ちなみ、ラチカさんの武器は?」


「あぁ、私はこれです」



 サクラの問いに、ラチカはコマンド操作を行なって自身の武器を出現させる。



「おぉ……!」


「これって、アーチェリーで使う弓?」


「まぁ、概ね正解ですね。これはコンパウンドボウって言う化合弓ね。

 まぁ、ファンタジー世界にこんな近代的な弓ってどうかとは思ったんだけど、意外と使いやすくてね……」



 【野伏】のクラスである以上、飛び道具を使ってくるのはわかっていたが、現代色の強いコンパウンドボウが出てきたのに、ミカヅキとサクラは驚いた。

 コンパウンドボウは滑車とケーブル、テコの原理や力学など科学的な要素を取り入れた近代的な武装。

 ファンタジー要素の強い《BSO》で近代的な武装といえば、サクラの職業である【銃剣士】で使う拳銃や同じくクラスに分類されている【砲術士】が使う巨大な銃槍くらいな物だが、よもや原始的な武器である弓で、近代要素のあるものを入れてくるとは……。



「これは滑車のおかげで引きやすくて、保持するのにも力がそんなに必要ないから狙いやすいのよ〜」



 軽く弓のつるを引っ張ってみせる。

 腰には幾つもの矢を入れてある矢筒を持ち、脚には専用のベルトを身につけ、そこに短剣を二本差している。



「いかにもサバイバーって感じですね……」


「うふふ、カッコいいでしょ?」


「はい! なんか、デキる女って感じですね!」


「なんだその感想は……」



 サクラのいまいち分かりづらい感想にため息をつくミカヅキ。

 そして、改めてラチカの方へと向き直る。



「では、我々と攻略を共にしていただいても?」


「ええ! 喜んで同行させていただきます! いや〜、まさかあの有名人である【拳皇】からお誘いいただけるとは……!」


「いや、その二つ名はちょっと大袈裟だと思いますけどね……」


「いえいえ、私も闘技場で拝見してましたから! 凄かったですよ〜!

 私は知り合いのプレイヤーと一緒に観戦してて、かなり大盛り上がりだったんですから!」


「あはは……。なんだが面映いんですね……」



 なんだかんだ言いながらも照れているミカヅキ。

 それを見てニヤニヤと笑うサクラ。

 そんなサクラの視線に気づいて、ミカヅキは咳払いをして、ダンジョンの入り口に視線を移した。



「では、行きましょうか。サクラ、準備は大丈夫か?」


「もち!」


「ラチカはどうですか?」


「私も問題ありません」



 3人の息はいま最高潮に同調していた。

 未知の冒険というものは、人の好奇心を唆らせてくれるものだ。

 そして、今日初めて会った人との冒険というのも、このVRMMOの醍醐味と言ってもいい。

 全く違う場所で接続し、全く違う種族の職種同士で、性格も趣味も全然違う人同士が、一度その場で出会い、意気投合したのなら、それは冒険の始まり……それが、MMORPGと言うものだ。



「では、いざ……!」


「ダンジョン攻略に〜」


「しゅっぱぁーーつ!!」



 締めのサクラの掛け声と共に、3人はダンジョンの入り口へと向かって歩み出した。

 そしてこの後、3人は衝撃的な事実を知る事になったのだった……。


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