魔女のお店のプレゼント

水無月杏樹

【第1章】魔女のお店のプレゼント

第1話

「ただいま~」

カバンを無造作に部屋の片隅に放り、制服を脱いで着替える。

着慣れたTシャツとデニムのパンツがやはり自分には馴染む気がする。

鏡に映った自分の姿。

ショートヘアーで背も高く、まるで男の子みたい。

父親譲りの高身長で、170センチもあるのだ。

可愛らしい洋服が似合うとは思えない。

声も少し低めなのがこの身体に合っているとも感じられた。

口を尖らせていると、階下から母の呼ぶ声が聞こえた。

依音いおん~?ちょっと店番頼めないかなぁ~?」

店番。それは依音にとって意にそぐわない手伝いの一つであった。

母は、いわゆる魔女という職業で、それに関係したグッズを販売したり占いをしたりしている。

魔女と言っても空を飛べるわけはなく、変身したりするわけでもない。

まんがの見過ぎである。

では一体何が出来るのかと言うと、タロットカードを使った占いをしたり、薬草で薬を作る知識などを持ち合わせているらしい。

一見、怪しい商売のように見えなくもないのだが、一般の雑貨屋と同じように可愛くて女の子受けのする物も売っていたりする。

今はどちらかといえばそちらの方が主流なのだが、珍しい魔法グッズを求めて遠くからやって来てくれるお客さんもいた。

小さなこの店が、母の城だった。

むっつり顔で一階の店に降りていくと、母はお気楽そうに笑っている。

いつもの黒一色のだぼっとしたワンピース。

それが母のトレードマークとも呼べる定番の格好だった。

もっとオシャレな服装をすればいいのにと思っていたが、母はその服装が一番落ち着くと言っていた。

セミロングの緩いウェービーな髪が黒いワンピースには少しもったいないと依音は感じていた。

にこにこしている母は自分と正反対の表情をしている依音に、「夕飯の準備があるから、その間は任せたわよ」と言った。

代々魔女の血筋で、他の町からやってきて父と恋に落ちて結婚したのだそうだ。

依音にも後を継いで欲しいと思ってはいるようなのだが、依音本人は全く興味を示さず、はぐらかしてばかりいた。

そんなわけで占いなどといったことは依音には出来ないため、もしもそういったお客さんが来たら呼んでちょうだいと言いかけた時、カランカランと扉が音を立てて一人の客が入ってきた。

ブレザーにバラのスカーフがネクタイ代わりになっているデザインの制服を着ている。

この近くにある女子校に通う生徒のようだ。

ロングの髪をハーフアップにしており、女子の依音から見ても可愛らしいと思える風貌だった。

店内をきょろきょろしながらゆっくりと見て廻っている。

そんな女子高生に母はにっこりしながら近づいていった。

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

「あの~、友達の誕生日プレゼントにするものを探してるんです」

柔らかな表情を浮かべ、女子高生は言った。

「あら、おめでとうございます!お友達はどういうのがお好みなの?」

母は、一緒にプレゼント選びをするのが好きだった。

依音に任せて家事をしようとしていたのを一旦中断し、女子高生のプレゼント選びを手伝うことにしたらしい。

「オシャレな子なんです。あと、やっぱり可愛い物が好きで」

「そうなのね。じゃあ、こういうのはどうですか?」

石けんやハーブ類などのコーナーに案内された女子高生は、目を輝かせて一つ一つを手に取った。

ポプリからはお花の良い香りが漂い、蜂蜜の練り込まれた石けんはお肌がつるつるになりそう。

レースの付いた淡いグリーンの花柄のハンカチは、きっと毎日の生活の中で活躍してくれるだろう。

しかも、このレースは特別なものらしい。

角度を変えると淡く虹色に光るのだ。

一体どういう仕掛けになっているのかは分からないのだが。

普通の店には売っていないという代物らしく、母はそこをとても強調していた。

「よし!じゃあこれを可愛くラッピングして決まりね」

わくわく緊張を隠せない表情で、女子高生は母の手元を見つめていた。

透明のビニールにパックされ、リボンできれいに飾られた様子は依音ですら見ていてドキドキした。

こんなに素敵な品物がたくさんあるのに、自分がその雰囲気にとけ込めないのが何より居心地が悪かった。

「ありがとうございます!瑠理ちゃん、喜んでくれるといいなぁ」

「また、ご報告お待ちしてますね」

女子高生が店をあとにし、再び店内は静かになった。

今度こそ、母は依音に任せるわねと言ってその場から離れていった。

母の背中を見送った後、依音はため息をついてレジカウンターの椅子に腰掛けた。

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