スポンジ ~腐った僕と真っ白な君~

はるたま

第1話 プロローグ

「僕ほど幸せな幼少期をおくったものはいない」


 僕、相澤哲人(あいざわ てつひと)は心からそう思っていた。

 今の自分が不幸せと思えば思うほど、現状に不満があればあるほど、その思いはさらに強くなっていった。


「お前のやる気のない態度が、他の生徒に悪影響を及ぼすんだ」

 と担任に、強制的に移動させられた教室の端っこの席、窓側の一番後ろに僕は座っていた。

 名前の順であれば一番先頭にしかなったことのない名前を持ちながら、今はこの席に座っている。

 皮肉なものだなと思わず苦笑いをした。


 机の右上にシャープペンシルで繰り返し書いてしまっている×マーク(それはもう入れ墨のように取り返しがつかない)を今日もなぞる。

 クラスのみんなは、先生の授業を食い入るように見つめて、必死にノートに書き込んでいる。

 時折、中途半端に開けられた窓から初夏の爽やかな風が入ってくる。

 以前のそれはとても清々しく感じられていたのに、今の僕には吐き気を覚えさせるものとなってしまっていた。


「みんな、いなくなってしまえばいいのに」


「僕が消えてなくなればいいのに」


 決してそうはならないのに、こんな風を感じてしまうとそんなことを本気で考えてしまう。

 後者の方が現実的だな、なんてことまで。

 開いているだけでみることのない教科書が、風に遊ばれてひらひらとページを変えていく。

 僕の思いは何物にも染められないくらいの真っ黒で、その色は頭の中を深く濃く染めていった。

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