第6話 タローの実力(3)

 タローの一撃により、キング・オーガは討伐された。

 討伐の証としてモンスターの一部をギルドに持って帰ることで、依頼完了となる。


 ……と、おじーちゃんに言われたのでタローは首を回収した。


 後から知ったことだが、このお爺さんは元冒険者で、それなりの上位ランカーだったそうだ。

 というわけで、晴れてクエスト完了なのだが……。


「うっわぁ……」


 タローはまともにキング・オーガの血を浴びて真っ赤に染まっていた。


「おじーちゃんは平気?」


 普通にお爺さんを背負ったまま戦っていたタロー。

 お爺さんもお爺さんで何も言わずに背負われているのだから相当肝が据わっているのだろう。


「……平気じゃ」


 タローが正面から血を浴びたので、背中にいたお爺さんは大丈夫だったようだ。

 だが、お爺さんは悲しそうだった。

 折れた杖を手に持ち、そのまま見つめたままだ。


(杖折れたから落ち込んでんのかな?)


 自分の攻撃で壊れてしまったため、何か杖の代わりになるものがないかと考える。

 そのとき、地面にめり込んだままの棍棒が目に入る。

 タローは棍棒を握り、そのまま引っこ抜いた。


「ほら、おじーちゃん。これ使いなよ」


 杖の代わりに棍棒を差し出す。

 ちなみに<キング・オーガの棍棒>は売ると100万Gはくだらない貴重なドロップ品である。

 そんなことは知らないタローなので、普通にお爺さんに差し出した。


「……違うんじゃ。タローくん。そうじゃないんじゃ」


「え?」珍しく少し動揺するタロー。


 すると、涙を流しながらお爺さんはタローに顔を向けた。


「これは……妻から結婚50年の記念にもらったものなんじゃ……!」


 と、お爺さんは嗚咽を漏らしだした。

「すまんのぉ……すまんのぉ……婆さん!」


 そんな光景に、タローは



「……そんなもん武器代わりに渡さないでほしかったね」



 一人ぼやいていた。



 ***



 ――現在・ギルドマスターの部屋――


「――……ということが、あったんだ」


「………………」


 事の一部始終を聴いたドラムス。

 彼はそれを静かに、だまって聴いた。

 しばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。


「……じゃああれか?

 その爺さんを送り届けようとして、

 キング・オーガの居場所を知らなかったから爺さんに案内をお願いして、

 キング・オーガを一撃で倒して、

 壊した爺さんの杖の代わりの<キング・オーガの棍棒>と依頼達成の証のオーガの首持ってきたと?」


「まぁざっくり言えば」


「爺さん見て忘れてたってのは…」


「爺さん送り届けるの忘れてた」


「そういうことかぁぁああああ!!!!」


 もう半分くらい守護霊的な何かだと思っていたのでなんとなく安心したドラムスであった。



 ***



 その後、タローの代わりに暇だった冒険者がお爺さんを送り届けることになった。

 折った杖の代わりにタローは<キング・オーガの棍棒>を渡そうとしたが、


「重いからいいッス」


 と断られた。なぜか若者口調だったが気にしないことにした。

 だが、去り際にタローに「またスルメ食べにおいで」と家に招待していたので、タローのことは気に入っているようだった。


 お爺さんと別れ、部屋にはドラムスとタローだけになった。

 タローはギルドで受付をしているお姉さんからジュースを受け取り、美味しそうに飲んでいた。

「これ美味いね」とドラムスに話しかける。

 だが、ドラムスは反応しなかった。

 ドラムスはタローについて深く考えていた。

 主にについてである。


(タローの実力によってはいきなりAランクになることも…いや、もしかしたら!)


 この世界にいる冒険者はランクに分けられている。

 ABCDというランクがあるが、細分化すると


 AAAランク

 AAランク

 Aランク


 B+ランク

 Bランク

 B-ランク


 Cランク

 Dランク


 といったように分類される。

 だが、AAAランクのさらに上にはもう一つのランクが存在する。


 それが、Sランクである。


 これは冒険者の中でも0.1%しか居ない。

 そんなお目にかかるのも難しい者たちが存在している。

 ドラムスはギルドマスターとして何度か見たことがあるが、全員が見ただけで強者とわかる者たちばかりだった。


 だが、タローは違う。

 一目見たときは実力を何も感じなかったのだ。

 どんな強者でも、その実力を隠せるものは居ない。

 いや、たとえ隠しても、隠しきれない実力をドラムスは見抜けるのだ。


 そのドラムスが。

 世界屈指の慧眼けいがんを持ったドラムスをもってして



 ――タローの実力は見抜けなかった――



 この自負している目で見抜けなかった。

 それは、一つの仮説を生み出した。



(こいつの力は、人知を超えているのかもしれない!)



 ドラムスはその仮説を証明するために、一つの水晶を取り出した。


「タロー、これに手をかざせ」


「なにこれ?」水晶をまじまじと見る。


「これはステータスを表示できる水晶だ。手をかざすとソイツの実力がはっきりわかる代物だ」


 けっこう高いんだぞ。と付け加える。

 そして試すようにドラムスは自分の手を水晶にかざした。


 攻撃力:950

 防御力:780

 速度:500

 魔力:600

 知力:730


 水晶に映し出されるステータス。


「もう現役を退いて長いから少々下がってはいるが、これでもあそこにいた冒険者よりは圧倒的に高いんだぞ」


 自慢するように胸を張って言う。


「ふーん…」とどうでもよさそうにジュースを飲むタロー。


「ほれ、手をかざしてみろ」

「え?」

「冒険者になるやつは皆やるんだよ」


 嘘である。

 計測することはあるが、それはパーティー内や自分の実力を知りたい時だけだ。

 ギルドマスターに実力を提示することはない。

 だが、そんなことは知らないタローである。


「ふーん。そうなんだ」


 タローは手をかざした。


(さて、コイツのステータスは……)


 しばらくして、水晶にステータスが映し出された。





 攻撃力:測定不能

 防御力:9999

 速度:800

 魔力:0

 知力:100





「…………は?」

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