大学生なら免許取れ

「それにしてもあの学長、最っ悪だな!!」

「帝さん、前前前前ッ!!」

 帝の運転するトヨタのミライが大きく左右に揺れる。帝は機嫌がそのままハンドルに現れるタイプらしい。少々古い車ながら、自動ブレーキの電子音がけたたましく鳴る。


「すみませんすみませんッ! 上にはよく言って聞かせますんで……」

 ほかの四傑を巻き込んだ濱は、運転席に頭をすりつけながら謝罪する。

「いや、濱は悪くないよ。仮にも大学の学長で、異能の存在を信じてないってあり得ないだろ。なんちゅー時代遅れのジジイだよマジで」

「帝さん、ハンドル殴るのマジで辞めてくださいッ!!」


「しかし帝さん、俺たちが横浜に行くのはいいですけど、どうやって冤罪を証明するんですか?」

 助手席で足を組んでいる稲葉が冷静に尋ねる。四傑の中で唯一まともに感情をコントロールできる男と言っていい。

「爆破予告なんて、99.9999%、実際に爆弾が仕掛けられることなんてありません。こちらの潔白を証明する方法は、犯人を捕まえること以外ないでしょう。しかし警察に伝手でもなければ、それを調べるなんて不可能です。プロバイダに開示請――」


「こいつは本当に爆弾を仕掛けてると俺は思うぞ。だから爆弾を回収したらいい」

 右手でハンドルを回しながら、帝はフンと鼻を鳴らす。

「……はい?」

「おかしいと思わないか? 爆破予告ってのは、普通はTwitterにでも書き込むか、大学宛に送り付けるもんだろ。しかし犯人が送り付けたのは学長宛だ」

 学長が激昂したのはそのせいもあると帝は踏んでいる。濱が学長の冷遇を恨み、個人的な怨恨で学長に予告を送り付けたのだと勘違いしたのだろう。


「犯人は、濱くんに容疑を被せようとした。相当計画を練ってやがるぞ」

「…………」

 運転席に擦りつけていた頭を上げた濱の背中に冷や汗が流れる。


「さらにおかしい点がもう一つある。大学に爆破予告を出すとき、普通は詳細に日時と場所を指定しないものだ。実際には爆弾が仕掛けられていないことがすぐにわかってしまうからな」

「…………」


「大学爆破に慣れた君たちに尋ねよう。本気で大学を爆破しようと思ったら、どのように予告を出す?」

「偽の予告を出します」

 即答したのはインカレ二位の紅一点、三井初子みついはつこである。


「しかし、本当に偽の予告を出すのはプライドが許しません。そこには、調べたところで簡単には見つからない小型の爆弾を仕掛けて陽動し、別の場所に本命の爆弾を仕掛けて爆破直前に予告を出します」

「素晴らしい!」

 帝がハンドルから手を離して拍手する。これには流石のクールな稲葉もぎょっとした。


「だから何だって言うんですか? これが偽物の爆破予告だろうが、犯人が実際に大学を爆破するつもりだろうが、警察の敵になってしまった俺たちに勝ち目はありませんよ」

「実際に大学を爆破すればいい」

 帝の目が光り、同時にまたハンドルが揺れる。同乗する三人は、その帝の目を見てあることに気が付く。こいつ、手段と目的をわざと入れ替えてやがる。


「……大学側が協力してくれますか?」

「無許可で爆破するに決まってるだろ」

「そんなの、当局にバレたら……」

「バレる? 俺たちが?」


 帝はフンと鼻で笑った。高い技術者が異能を悪用すれば、証拠を残さずにいくらでも爆破できる。この四人は日本でも有数の異能使いだ。本気を出せば可能だと、ミライに乗る全員がわかっている。


「大学爆破サークルを疑う者に、鉄槌を!」

 そんなもん、大学爆破などというサークル活動をしているのだから当局から疑われて当然だろうと三井は思ったが黙っている。横浜まであと二時間。爆破予告時間まであと三時間半。それだけあれば余裕だ。

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