蝋でできた翼

羽衣石ゐお

第一の書簡

 私は悲しいと便箋に手が伸びてしまいます。ただ自然と、ペンの先から文字がこぼれてしまうのを、こうして受けているだけにすぎず、これを誰かに読んでもらうことなどは、まったくの想定外なのです。ですから、もしかしたら、私が亡くなったときにでも、この世を這いずった跡が、同じように苦しんでいる者の目に触れて、少しでも嘲笑ってくれれば、どれだけ結構なことでしょうか。だから、これを読んだあなたは、私のことを腹の中にしまって、今度は自分のことを、書いてみてください。

二年ほど文芸部という場に籍を置いて、ようやく、自分は悲しくないと叙述できぬような哀れな作家だと思い知ったのですから。


 ――二〇二一年八月二十三日月曜日、十八時十八分、封緘。

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