時間旅行は大名駕籠〔かご〕に乗って

楠本恵士

時間旅行は大名駕籠〔かご〕に乗って【令和】

 男子高校生の白河現代しらがげんだいは自宅の土蔵で、保管されていたタイムマシンを発見した。

「前に親父が言っていたけれど、先祖が作ったコレ本当に動くのかな?」

 埃がつかないように、保管されていた江戸時代に作られたタイムマシン──漆塗りされた屋根は、歳月を経過しても漆黒の輝きを放っている。

 内部も博物館に展示してもいいくらい、保存状態は良い。

 現代は、しげしげと先祖の科学者が作った『時渡り駕籠ときわたりかご』〔タイムマシン〕を眺めて呟いた。

「どっから見ても、大名駕籠だよな……これ」


 参勤交代の時に、大名が乗っているアレ……時代劇に出てくる大名駕籠型のタイムマシンだった。

 タイムマシンを作ったのは現代の先祖で科学者の『白河源外』……そこから、限界、減退、減塩、現象、現地、原稿、玄武、元気、原油、減価、原動、現場 ……と続いて、今の現代まで血筋は脈々と受け継がれている。

 現代はデニムのポケットから朱塗りの木札を取り出した。長い間、どこにあるのか不明だったタイムマシンの起動キーだった。

「まさか、これがタイムマシンを動かす鍵だったなんてな……子供の頃は、ぜんぜん知らなくて玩具にして遊んでいた」

 先日、部屋の掃除をしていたら、タンスの裏から出てきた起動キー。


 大名駕籠を調べて細い差し込み穴を発見した現代は、起動キーを少しだけ入れて考え直した。

(まてよ、本当にタイムマシンだったら準備が必要だな……飲料水と食糧を用意した方が)

 起動キーを引き抜いた現代は、一旦家にもどりディバックに食糧や雑貨を詰め込む。

「缶詰にスナック菓子、念のためにカップ麺も持っていくか」

 いろいろと考えながらディバックに詰めていくと、ちょっとしたソロキャンか緊急避難袋並みの荷物量になった。

「まだ、足りないモノがあるな……買い出ししてくるか、サバイバルキットとか、乾電池とか」

 現代は近所のホームセンターに、買い出しに出掛けた。

 カートにさまざまなモノを入れていると、現代に声を掛けてきた女子生徒がいた。

 女子生徒は現代が押しているカートの中を覗き込む。

「あれ? 現代、奇遇だね……家出するの?」

 同じクラスの『緋口一葉ひぐちひとは』だった。

 BLとかGLが大好きで、いつもその手のコミックとかノベルをショルダーバックに忍ばせている。

 今も肩から提げているバッグの中には、GLやBLの類い書籍が入っている。


 現代は、煩わしそうに一葉を「シッシッ」と手で追い払う。

 一葉はカートを押しながら、レジに向かう現代の後からついてきて、しっこく質問してきた。

「ねぇ、ねぇ、どこに家出するの? それとも夜一家そろって逃げ?」 


 ムッとした現代が足を止めて、やや不機嫌そうな顔で一葉に言った。

「家出も、夜逃げもしない、時間旅行するだけだ……はっ!?」

 口に出してから現代は、しまった! と思った。

(失敗した、こんな好奇心旺盛なヤツに、タイムマシンのコトを知られたら、どうなるかわかったもんじゃない) 


 一葉が訝る目で視線を必死に反らせる、現代の顔を覗き込む。

「時間旅行?」

「き、聞き違いだろう……今度、家族で旅行するんだ」

「ふ~ん、どこへ家族旅行?」

「これから、家族会議で決める」

 一葉は、明らかに疑っている表情で、カートの中に入っている商品を眺める。

「家族旅行で、非常食やサバイバルキットねぇ」

 現代は足早にセルフレジに向かって精算を済ませると、ホームセンターを出て家にもどった。


 ディバックを背負い、タイムマシンが置かれている土蔵に入った現代は、起動キーを取り出して言った。

「いざ、未知の世界へ」

 木製の起動キーを、大名駕籠に差し込む……何も起きない。

「あれ?」

 現代が首を傾げていると、背後に置かれていた二個の木箱のフタが勢いよく開いて、中から木製の〝からくり人形〟が出てきた。

「ふぁ~っ、よく寝た」

「今は西暦何年だ?」

 江戸時代の、駕籠かきのような〝からくり人形〟は、木のチョンマゲをしていて隆起した筋肉もリアルに彫られている。

 もっこフンドシをした、からくり人形が現代に向かって言った。

「兄ちゃんが、タイムマシンを起動させたのか」

「どこか、行きたい時代はあるかい……どこへでも兄貴と一緒に運んでやるぜ」

 挙手して質問する現代。

「どうして、タイムマシンなんて言葉知っているの? そもそも、あんたたちどうやって動いているの?」

「べらんめぇ! 男が細かいコト気にするんじゃねぇ!」

「源外さまは、隠れた天才なんだ! 凡人が余計なコトを詮索するな! 兄ちゃん、タイムトラベルするのか? しねぇのか? 行くなら、さっさと駕籠に乗りな」

 二体の木製ロボットは、大名駕籠の前後にそれぞれ移動する。


「兄ちゃんが行かねぇなら、オレたち勝手に時間街道を通って別の時代に、行っちまうぜぇ」

「あっ、行きます、行きます」

 現代は、狭い大名駕籠に乗った。

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