神威戦記

杏忍 東風

プロローグ

 ツクヨミは軍服着用義務が窮屈で仕方がなかった。

 もとより、軍服より和服のほうが、着ていて心地が良い。

 ジャラジャラとなんの機械かもわからない歯車ばかりの装備が備え付けられている、軍事用パワードスーツは見た目だけでも重量感は相当なものだ。そして、フェイスシールドも装着しようものなら、息苦しくて、すぐにでも艦外の甲板に出て、大きく深呼吸を毎度したくなる。

 巨大な偵察用戦闘機が看板に着地し大きく口を開くと、ツクヨミは毎度のように、すぐにフェイスシールドを外し操縦盤の上にゆっくりと置いた。

 黒く長い髪がスルリと肩に落ちる。

 ツクヨミの右目にしている特殊眼帯が発光し、猛毒の塩素反応を起こしている空中酸素を中和する。

 巨大な翼竜のロボットのような機体の偵察機は、蒸気を機体のあちらこちらから噴出した。

 ツクヨミが操縦席であぐらをかくとすぐに、戦闘機の通信システムの受信機が鈍い色で点滅し始めた。

 面倒くさそうに、その点滅をツクヨミはじっと眺めた。

 仕方がないという表情をして、点滅する通信機のボタンを人差し指でゆっくりとオンにする。

「ツクヨミ大佐。提督閣下アマテラス様より御伝令が入っております」

 タケノミナカタの声が戦闘機の操作盤から木霊した。

「大陸外から未確認の巨大戦艦が迫ってきている。そちらで確認してくれ」

 重苦しい女性の声が無線機より鳴り響く。

 ツクヨミは少し面倒くさそうな顔をしたが、すぐに表情を強張らせた。

「そのような巨大浮遊戦艦を先程、確認出来ました。おそらくは空中空母ヴァルハラかと・・・」

 ツクヨミは強張った声を張るように、操縦盤にむけて声を上げた。

「そうか・・・。さすが仕事が早いな」

 一瞬、無線から流れ出す声が沈黙した。

「対応はそちに任せる。期待しているぞ」

 そう言い残すと無線はすぐに切れてしまった。

 静寂の中、戦闘機蒸気エンジン音だけが唸りを上げている。

「期待しているぞ・・・かぁ」

 ツクヨミがそう言って、呆然と空を見上げた。

 その瞬間、超巨大空中空母【倭鰐】の大きなアリゲーターのような機体が、まるで唸り声を上げているかのように感じた・・・。

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