第二十七話 要求

 応接室に入った荒隆あらたかは、おもむろに出井州でいず議員が座るソファーの傍らに立つ秘書と紹介されていたつつじという女性に目を向ける。

「へぇ、なるほど?」

 興味深いと言いたげな笑みを浮かべた荒隆あらたかに、思わず身構えるつつじを出井州でいずは片手で制した。

「今会えるのはこいつだけだ」

「お久しぶりですね、荒隆あらたかくん」

「やっぱりあんたは食えないやつだったか」

 登崎とざきに呼び寄せられ、隣へと歩を進めていた荒隆あらたか出井州でいずが笑顔で挨拶をしてきた。先日の議場では短いやり取りだったが、出井州でいずの奥底に隠れている野心や知性を感じ取っていた荒隆あらたかは面倒そうな顔で皮肉る。

「まぁ、そう言わずに。きっとあなた方にとっても悪い話ではないと思うんですよね」

 にこにこと人のいい笑みを浮かべながらも出井州でいずは本題に入るようだ。

「ファントムと呼ばれていたあの子供達。彼らの今の居場所、知りたくないですか?」

 出井州でいずの問い掛けに顔色一つ変えず、二人は話の先を促す。

「もちろん、タダでとはいきません。タダより高いものもないですしね。……私の要求はこの件に関わっている政治家全てを白日の下に晒し、政治家生命を終わらせて欲しいのです」

「てっきり自分を総理に押し上げてくれ。とかいうのかと思ってたが違うんだな」

 提示された要求に思わず荒隆あらたかは口を出していた。

「今の腐敗しきった政治基盤をどうにか出来れば、総理には自力でなれますので」

「だ、そうだ。どうする?」

 自信満々な出井州でいずに、荒隆あらたかは取引するのも悪くはないと思う程度には少し興味が湧いてきていた。だが、決定権は登崎とざきにある。

「そちらの出す情報が確かだという証明はどうやってするんだ?」

「そこの荒隆あらたかくんが適任でしょうね」

「俺?」

 登崎とざきの問い掛けに、思わぬ答えを返してきた出井州でいずによって荒隆あらたかに視線が集まる。

「君達がここにいるのを突き止めてくれたの、実はつつじくんなんですよ。子供達の居場所に関しても、ね?」

「そういう事か」

 出井州でいずの言わんとしたことを理解した荒隆あらたかは合点がいったと納得する。

「その人、あんたの子飼いの武闘派諜報員かなんかだろ?」

「正確には御庭番の流れを汲む、現代の忍びです」

「なるほどな。通りで気配が薄い訳だ」

 荒隆あらたかの言葉に一番驚いていたのはつつじ本人だった。戸惑いを浮かべながら、つつじは出井州でいずに発言の許可を申し出る。特に問題もなかった出井州でいずは、つつじへの許可を快諾した。

「私の気配はそんなに薄いですか?」

 おずおずと不安そうに問い掛けられた内容は荒隆あらたかへ向けられたものだった。本人も無自覚なのかと荒隆あらたかは少し驚きつつ口を開く。

「そこまでではないよ。そういった職種ならありがちなことだ」

「そうですか」

 つつじは少しほっとしたようで安堵を込めて呟く。話の区切りがついた所で、出井州でいずの視線が登崎とざきへと向いた。そろそろ返答を迫るのだろう。

「いかがでしょうか。この提案、飲んでいただけますか?」

「……いいだろう」

 顎を右手でさすりながら思案顔をしていた登崎とざきは半ば諦めたように答えた。荒隆あらたかの観察眼は登崎とざきもよく知るところ。だから同席者に選んだともいえる。その荒隆あらたかが言外に大丈夫だと言っているのだ。こちらに損がない以上、これ以上ごねるのは野暮だろう。

「ありがとうございます。つつじ、あれを」

 笑顔でお礼を述べる出井州でいずに指示されたつつじが持っていた鞄から、書類とUSBメモリを取り出す。それを受け取った出井州でいずは書類に間違いがないことを確認すると、登崎とざき達へと差し出した。

「私の力でわかる範囲のあの子達の情報と、現在地です。国外に出ている子達に関しては大まかな国と地域だけになりますが……」

「ふむ」

「国外って、まさか!!」

 何かに気付いた荒隆あらたかが座っていた応接セットのソファーから立ち上がる。それに驚いたのは出井州でいず達だった。荒隆あらたかに見下ろす形で睨まれている登崎とざきは何食わぬ顔をしている。

「説明しろ、登崎とざき! お前、全部知ってたんだな!!」

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