ループ・ザ・館⑧




それは二人にとって予定外の行動だ。 そもそも今の今までぐっすり眠っていたはずなのに、突然過ぎる。 ただその理由を聞けば、それも致し方ないと納得できたのだが。


「さ、沙里? どうした?」

「ちょっとトイレ・・・」

「はぁぁ!? ちょッ!」


とはいえ、理由に納得できることと実際に行かせられるかでは話が違う。 今はこの二時という時間帯を平穏無事に過ごしてくれればいいだけなのだ。 二人は慌てて沙里の前に立ちはだかる。


「今行くのは止めておけって!」


時刻は1時58分を指していた。 寝起きということもあり沙里の機嫌は悪い。


「女の子に向かってここで漏らせって言うの? さいてー」

「そう言うんじゃないって! でもとにかく今は止めておけ!!」

「意味が分かんないし。 尚斗ってそんなことを言うタイプだったっけ?」

「あ、いや・・・」


言葉に詰まり大貴に助けを求めると、大貴は覚悟を決めるように言った。


「分かった。 行ってきていいよ」

「おい、大貴!」

「その代わり俺たちも付いていくぞ」


そう言うと沙里は頷き眠そうにここを離れていく。


「こんなに大きな館でちょっと怖いから、それは別にいいけど・・・」

 

大貴の提案により三人で手洗いへと向かった。 この館は手洗い場も広く洗面所を挟む二重構造になっている。 つまり外から中の様子が伺えない。 それが心配だった。


「どうして二重構造になっているんだよ・・・。 変なところで作りがしっかりしてんだから」

「まぁ、金持ちの館と思えば変ではないけどな。 一応鍵は空けておくようにって言ったから大丈夫じゃないか?」


だがしばらく待っても沙里が出てこない。


「・・・もう二時はとっくに過ぎているぞ」

「あぁ。 物音も一切聞こえないし、何かがおかしい」


嫌な予感がし声を上げた。


「沙里! おい、大丈夫か!? 沙里!!」


聞こえているはずだが返事がない。


「開けるぞ!!」 


二人は慌てて手洗いを開ける。 すると沙里は血を吐いて倒れていた。


「嘘だろ・・・」


呼吸はなく脈を取ってみるも既に亡くなっているのを示すばかりだった。


「くそッ! また駄目だったか」


尚斗は八つ当たりをするように壁を思い切り殴った。 大貴は死体を見て動揺していたが事前に話を通していたためか正気を保っていた。


「尚斗はこのタイムリープ、十回目って言っていたよな?」

「・・・あぁ。 数えようと思ったわけじゃないけど、どうしても沙里の死に様が頭から離れないんだ」

「さっきの様子からして、毎回トイレで死んでいるということじゃないんだろ? 沙里はいつもどうやって死んでる? 死因は何だ? 毎回血を吐いているか?」

「何度か似たような状況はあったけど、毎回パターンは違っている。 二階の手すりに沙里がもたれかかっていたら、その手すりがぶっ壊れて沙里が落下するみたいな予想できない死に方もあった」

「はぁ? 何だよ、それ・・・」

「あとは部屋のランプが沙里に燃え移ったり。 三階の窓から外を覗いていたら、強風で体勢を崩しそのまま落ちたり」

「深夜に何をやっているんだよ・・・」

「俺が沙里を助けようと色々したからそうなっているんだと思う。 ちなみに前回は食べ物を食べていたら喉に詰まらせて死んだ」

「もういい」


気分が悪そうに大貴は話を止めた。


「・・・悪い。 でも全てあまりにも偶発的過ぎて、有り得るのかなって」

「・・・そうか」


二人はしばらく沈黙した後尚斗から口を開いた。


「なぁ。 次はどうやって助けたらいいと思う?」


大貴は考えて言った。


「沙里に直接話してみたか?」

「・・・いや。 それも考えたけど、流石に面と向かって沙里に言うのは難しくて」

「確かにな。 信じてもらえない可能性はある。 でも一度はやってみるべきだと思う」

「そうだよな・・・」

「次は俺も協力して沙里に直接言ってやる。 信じてはくれなくても、沙里にも説明はした方がいい」

「・・・あぁ」

「目覚めて事情を説明したら『沙里に伝えよう』って俺を促してくれ」

「分かった」


頷くと大貴は再びナイフを持ってきた。 その姿をぼんやりと見つめる。


「抵抗しないのか?」

「もう殺されるのも慣れたよ」


再びまた尚斗は大貴に刺されて死んだ。 そして時間が巻き戻り、沙里に話してみるがそれが無駄だということが分かっただけだった。



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