第13話  スイーツ好きな実川さんのお願い

 日曜日の朝。


 窓の外は少し寒くて風も強く、毛布から出たくないような朝。

 俺と実川さんは何故かテーブルを一つ挟んで正座していた。


「綾瀬くん。駅前にできた最近人気のカフェがあるんだけど行きませんか!」

「行かないです……」

「なんでよぉー」

「だって人気ってことは人も多いだろうし、俺みたいな陰キャ男子が行くようなところじゃないような気がするから」

「それは気がするだけで実際は大丈夫なのぉー。私も行くんだしね」

「でも外は寒そうだし……」

「厚着しなさい」


 はぁ、駅前にできた人気カフェかぁ……。この間通りかかった時は長い行列ができていたし凄いオシャレな店だったから入りにくいんだよなぁー。


「それで、いつ行くの?」

「今からですっ!」

「冗談だよね」


 実川さんはニコニコしながら目を輝かせて首を振る。

 なんか凄くあざといんだけど……


「優しい綾瀬くんなら一緒に行ってくれるよね」

「……」

「もしも私が一人で行って不良にでも絡まれたら……」

「わかったよぉ。じゃあ、行こうか」

「うんっ!」


 実川さんは俺が承諾した瞬間満面の笑みで頷いた。

 この笑顔を見せられたらもう断れないな。





           ◆




 まだ9月の終わり頃だというのに、俺はの文字もないようなただ寒さを凌ぐだけに特化した服を着て外を歩いていた。

 俺の横には外仕様のオシャレな美少女が小さく跳ねながら歩いている。


「それで実川さんは何を頼むの?」

「それはねぇー、いちごたっぷりフルーツパフェ〜。昨日の夜アサナンデスで紹介されてた一番人気メニュー」


 アサナンデスなのに夜に放送してるというところに少し引っかかるけどテレビで紹介されてるのなら期待できそう。


「あっ! お店見えてきたねー」

「今日は行列できてないみたいだから早く食べれるかもね」

「うん!」


 実川さんは早くパフェが食べたいからなのか自然と足の回転が速くなり歩く速度があがる。俺は半小走りで実川さんの後を追いかけた。


 店内に入ると綺麗な可愛い店員さんが席へと案内してくれる。


 内装には白が多くて天井にはシャレオツなシーリングファンが付いている。

 まさに彼女なし非リア充男子には近寄りがたい感じの雰囲気。


「ご注文がお決まりでしたらお呼びください」


 そう言って綺麗な店員さんは笑顔でお辞儀して去っていく。


「綾瀬くんってあーゆう女の子が好みなの?」

「ち、ちがうよ! ただちょっと綺麗な人だなーって……」

「女の子と一緒に来てるのに店員さんばっかりジロジロ見ないのぉ。今日は

 私とのデートなんだから」

「へっ!? ――デート」


 実川さんは赤面しながら俺を見つめてくる。

 なんだか本当の恋人みたい。


 それから少し間が空いて、俺はメニューを確認する。


 チョコとか桃とか色んなパフェがあるんだなぁー。どれも美味しそう。


「ねー、綾瀬くん! この1キログラム大盛りいちごパフェを頼んで完食できたら無料になる上お食事割引券がもらえるらしいんだって!」

「いや、絶対ムリだから!?」


 1キロってフードファイターが食べる量だからね? それに体も冷えそう。


「じゃぁ俺はこのチョコとココアのいちごパフェ頼むよ」

「うん。じゃあ、店員さん呼ぶね」


 テーブルの端にあったボタン式ベルを押して少ししてから店員さんがきて実川さんがオーダーを取ってくれた。


 店が空いているおかげだろうかパフェもすぐに出てきた。

 長いスプーンを持ち、初めにいちごをすくって食べる。細かく刻まれて入っているので食べやすかった。

 実川さんの方を見ると幸せそうに咀嚼する可愛い姿がそこにはあった。


 初めて会った時は近寄りがたいクールなイメージの女の子だったのに最近ではそんなオーラも全く出ていない可愛い女子。


 まぁ俺以外の人の前では未だにクールな美少女を演じているんだけど。


「美味しすぎるぅー。綾瀬くんチョコ美味しい?」

「うん。美味しいよ」

「じゃぁ一口ちょうだいっ!」


 そう言って彼女はチョコパフェを自分のスプーンですくって口に運び美味しいと言って喜ぶ。すると自分のパフェをすくって俺の方に向けてきた。


「――綾瀬くん。あーん」

「えっ!? でもそれ実川さんのスプーンだよ?」

「あれぇ? 綾瀬くん照れてるの?」

「そ、そんな訳ないだろっ!」

「じゃぁ、はい。あーん」


 口を開いて前屈みになると冷たくて甘いアイスが口の中を伝わる。


「美味しい……」

「でしょ!でしょ!」


 すると実川さんは俺のあ~んに使ったスプーンでまたパフェを食べだした。

 本人は全く気にしていないけど俺はドキドキが止まらなくて顔が熱くなるのを必死で堪えた。




           ◆




「あぁー。美味しかったねー」

「うん。また来てもいいかなって思った」

「じゃぁ、次もまた二人で来ようね」

「うん」


 朝は外が寒くて出るのも面倒くさいと思ってたけど今は来てよかったなと思う。


 もしも俺に彼女ができるとするなら、実川さんみたいな人がいいな……。

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