第11話  満天の星空と君

 高校生になってから一人暮らしを始めた俺こと綾瀬春あやせはるの住むアパートには恵まれたことにキッチンやトイレそして風呂まで付いていて家賃は激安なのだが……。


「えっ!、お風呂が壊れた!?」

「うん、なんか温かいお湯が出なくて。明日は業者さんが来てくれて明後日には多分なおると思うんだけど……」


 築10年のアパートなのでお風呂が壊れてしまってもおかしくはないのだ。

 それにここ激安だし。


「えぇー。じゃぁ、お風呂どーするのぉっ!?」

「入らなくてもいんじゃない?」

「綾瀬くん。不潔な男子はモテないよ……」

「いや、冗談だからっ!」


 実川みかわさんは俺の方を見てドン引きしている。

 まぁ、あんなこと言ったんだから無理もないか。


「じゃぁ今日は銭湯せんとうでも行く?」

「えっーー!?」

「いや、銭湯だから。夜から戦場に行こうなんて誘う奴いないでしょ」


 軍隊か!ってツッコミそうになったわっ!


「綾瀬くんの滑舌かつぜつが悪いんだよぉー。それで、銭湯ってなに?」

「へぇ!?」


 まさかの発言に俺は魂が抜けたように力が抜けぶっ倒れそうになる。


「実川さんって銭湯行ったことないの?」

「だから銭湯って何よぉーもう……」


 流石お金持ちのお嬢様。

 庶民御用達しょみんごようたしのでっかいお風呂には行ったことがないらしい。


「銭湯って言うのは簡単に言うと大っきなお風呂屋さんかな」

「へぇー。私行ってみたい!」

「うん。俺も今日は銭湯に行こうって誘おうと思ってたから」

「じゃぁ今から行こっか!」


 実川さんはいつも以上にウキウキした様子で、相当銭湯に行ってみたいのだろう。

 それから僕らは銭湯に行ける準備をし出発しようとしていたんだけど……


「実川さん……なんで浮き輪なんか持ってんの?」

「そりゃあ大きなお風呂で泳ぐからでしょ」

「いや、銭湯って貸し切りのプールじゃないからね!?」

「えっ!そーなの?」


 もう少しちゃんと説明しとけば良かったーーまさかここまでだったとは。

 そしてなんで俺の部屋にカラフルな浮き輪なんてあるんだろう……。


 仕切り直して俺は銭湯という場所を細かく教えてアパートを出た。

 銭湯のことをこんなにも説明したのは初めてだし、これからももうないだろう。多分。




           ◆





「綾瀬くん! 今日星がすごい綺麗だよ!」

「ほんとだね」


 隣ではS級美少女な実川さんが顔を上げ星を見ながら歩いている。

 実川さんの目はキラキラとしていて夜の暗い場所でも美しく見える。


 恋愛アンチだった俺がまさかクラスのNO1美少女を連れて星が綺麗な夜道を二人で歩いてるなんて……前の俺だったら考えられないな。

 

 ――銭湯に着いた僕らは男女それぞれわかれ風呂に入った。


 実川さん、一人で大丈夫かなぁー。まぁ俺がなんとかできるわけないんだけど。

 俺は風呂に入っている間ずっと実川さんのことを考えてしまっていた。


 なんかほっとけない気持ちがあって……。


 風呂から上がった俺は時計を見て40分も入っていた事に気づく。

 実川さんが待ってくれていると思い急いで着替えてロビーに出た。

 すると女湯の方から実川さんが出てきて俺に気づいて小走りで近づいてくる。


「綾瀬くん! 銭湯ってすごいね!色んな種類のお風呂があって一人でも楽しかった」

「でしょ! また機会があったら来ようね」

「うん!」


 実川さんは火照った様子で出口に走って行った。

 今、実川さん少し照れてたような……。


 そんなことを妄想しながら俺は実川さんの後を追いかけた。


 銭湯からの帰り道。空にはまだ綺麗な星が輝いていた。

 俺が実川さんの横に並んで歩くスピードをあわせていると実川さんがこっちを見てきた。


「綾瀬くん。ありがとう」

「えっ……なにが?」

「沢山あるからなぁー。例えばーもし私と綾瀬くんが出会ってなかったら今見てるこの綺麗な星は見られなかっただろうし、銭湯にも入れなかったと思う」


 そう言った後、実川さんは少し前に出て俺の方を振り向いて言った。


「だから、綾瀬くんが私と出会ってくれたことにありがとうってこと」


 その瞬間俺の心拍数はこれまで以上に上がり彼女の顔を見るとなぜかドキドキしてしまう。


 なんでそんな平気で恥ずかしいセリフ……。


「ありがとう。俺も実川さんと出会えてよかった」


 頭で考える前に無意識で口から返事がこぼれていた。

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