第3話 池袋の暗黒街

   

 先ほど小さい頃の話をしたが、中学高校時代には、池袋の利用法も少し変わっていた。

 変化のきっかけになったのは電車通学だ。小学校は公立だったが中学高校は私立であり、場所は西日暮里。目白や池袋と同じ路線の駅であり、山手線が毎日の交通手段となった。

 私にとって池袋は通学の途中にある駅となったし、学校から同じ方向の電車で帰る友人たちの多くは、そこで乗り換える者たちだった。ただ乗り換えるだけでなく、寄り道して駅周辺で遊んで行く場合もあり、そうなると私も一緒に途中下車して彼らと一緒に池袋で遊ぶ、というパターンが増えてくる。

 この場合、遊び場は池袋の東側に限らない。もちろん東側にも色々あるのだが、西口から出て、駅の西側で遊ぶこともあった。


 学校の友人たちと一緒に遊ぶ池袋西側は、小さい頃に親に連れられて足を運んでいた東側とは、まったく印象の異なるエリアだった。

 まず、西口の駅前には、東口にある明治通りのような大通りがない。さすがに歩道ではなく車道は通っているが、池袋という大きな駅に相応しい規模ではなかった。それこそ目白通りよりも細いくらいではないだろうか。

 東口の西武百貨店に対応して、西口には東武デパートがデンと構えているわけだが……。たとえデパートは建っているとしても――東武には失礼な言い方になるけれど――、こちらは池袋の正面玄関ではなく裏口というのが、私の印象だった。


 駅の真ん前だけでなく、そこから少し歩き回っても、東口と西口の雰囲気は大きく違う。

 例えば東側には例の電気屋がいくつも店を出していて、ちょっとした電気街みたいなエリアがある。そこを越えてさらに歩くと、サンシャインシティ。私が子供の頃には日本一の高さを誇った高層ビル、サンシャイン60を中心とした一画だ。

 そうした大々的な施設とは別に、池袋駅の東側には、中学生や高校生が遊べるアミューズメントビルもいくつか建っていた。ボウリングやバッティングセンターやカラオケやゲームセンターなど、そうしたビル内でよく遊んだものだ。

 私たちは駅の西側でも、同じように遊んだが……。

 同じゲームセンターでも、東口の店と西口の店とでは、雰囲気が少々違っていた。昔々の「ゲームセンターは不良の溜まり場」というほど悪い空気ではないが、なんとなくアングラな匂いが漂っていたのだ。

 まあ『匂い』というのは漠然とした言い方であり、本当はもっと具体的に説明したいところだが、うまく言葉にならない。

 一つ言えるのは、立地条件の違いだった。

 先ほど挙げた東口のアミューズメントビルはオシャレで健全な雰囲気だったが、西口のゲームセンターは、ゴミゴミした裏通りの中にあった。健全なアミューズメントビルならば、気軽に「他の店にも入ってみよう」という遊び方も出来るが、西口の裏通りのゲームセンターは違う。きちんと看板は確認していないものの、周りにあったのは、子供が入るような店ではなかった気がする。

 私たちがよく遊んだビリヤード場は西口の雑居ビルに入っていたが、あれも『雑居ビル』であって『アミューズメントビル』ではない。間違っても「他の店にも入ってみよう」と言い出す者はいなかった。


 このように、私は池袋西口を「池袋の裏の顔」と感じて、大袈裟な言い方をするならば「いかがわしい暗黒街」とすら思っていたのだが……。

 実際。

 中学高校時代にかよった、西口の北の外れにあるお店。

 今考えれば、あれは違法スレスレだったのではないだろうか。

 パソコンゲームのレンタルショップだ。

   

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