化け狐

日照りが続いて、川や湖の水が減っていた。こういう時は妙な客が店に来る。


「お魚ください」


恥ずかしそうに、表の商品棚に半ば隠れるようにしてそう言ってきたのは、やけに獣臭い子供だった。


「金は?」


こちらに近づきたくないのか、一生懸命手を伸ばして銅貨を渡してくる。


俺はそれを受け取って、他の銅貨とかち合わせる。音が鳴らなかった。音の鳴らなかった銅貨を掌に載せて思い切り叩く。手を退けると出てきたのは木の葉だった。


「これじゃダメだ」


木の葉に戻った銅貨かを子供に突き返す。それでも魚が欲しいのか、子供はじっとこちらを見返してきた。


しょうがないのでザルを一つ子供へと放る。


「そのザル一杯に木苺を取ってこい。それと交換だ」


子供は目を輝かせると、ザルを掴んで走り去る。時期だからそう時間も掛からずに返ってくるだろう。


夕方、子供がザル一杯の木苺を抱えて返ってきた。どれも十分に熟した美味しそうな物だった。


それと交換で約束通り魚を渡してやる。子供は魚を大事そうに抱えて帰っていった。


店仕舞いを澄ませ、木苺に手を伸ばす。久しぶりの味に思わず尻尾が飛び出した。

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