08 ゼオの悲劇と服従の夜

 寝室で眠っていたゼオは、気配を感じて目を覚ました。


「おまえら……」


 そこには彼の部下たちが、うつろな目つきで立っている。


「どうした? 何かあった――」


 彼らはやにわにゼオへと襲いかかった。


「こらっ、おまえら! 何する気――」


 オオカミ族たちはたちどころに主人を取り押さえると、身につけている衣服をすべてはぎ取った。


「うぐっ……」


 それから先は、実に無残な展開だった。


 オオカミ族の王は、みずからの手下たちから、一方的にオモチャにされた。


 そう、彼らの精神はすでに、ルルの手によって蝕まれ、掌握されていたのだ。


 30名はくだらないオオカミ族たちは、延々と主人で遊び、ボロクズのように変えてしまった。


「あ、う……」


 ゼオがほとんど動かなくなると、今度は縄を使って縛り上げ、全員で地下牢へと連行した。


   *


「あぐ……」


 オオカミ族たちは主人を牢獄の中へと放り投げた。


「やあ、ゼオ、元気?」


 ルルはおどけながらあいさつをした。


「おま、なに、を……」


 ゼオはおぼろげなまなざしで、魚のようにパクパクと口を動かした。


「これが僕の力さ。君の大切な部下たちは、もう僕の言うことしかきかないんだよ? つまり君は、もう王さまなんかじゃないってことさ。そう、僕の奴隷だね。ふふっ、屈辱? 自分の手下から遊び道具にされちゃって。くすっ、無様だね?」


 ルルの言葉に、すべてを悟ったゼオは絶望した。


 そして、もうどうでもいいと思った。


「……ころ、せ……」


 涙ながらにそう漏らした。


 ルルはニコリとほほえんだ。


「殺したりなんかしないよ。ゼオ、君も僕の友達にならないかい? 一緒に魔王を倒す旅へでかけよう。オオカミの王だなんてもったいない。君はもっともっと、高みを目指すべきだ。そこにはなんでもある、なんでもね。いまよりもっと、楽しいことだって、ね?」


 彼の黒い瞳が深みを増した。


「あ……」


 その輝きはゼオを魅了した。


 精神をわしづかみにし、骨までしゃぶりつくし、二度と戻ってこれない深淵へと叩き込んだ。


「う、うう……」


 彼はとろけた。


 頭の中がルルでいっぱいになって、心の底から服従したいと願った。


 顔が恍惚にゆがんでくる。


 支配される悦楽、それにどっぷりとつかり、酔いしれた。


「あ、う、ルル……」


 ゼオはついに屈服した。


 その様子はルルにとって、とても満足するものに映った。


「ふふっ、いい子だね、ゼオ?」


 ルルはゼオの頭をなでた。


「ああ、ルル、ルル……」


 掌握されたオオカミの王は、歓喜の涙を流している。


「これで君も、僕の友達だよ?」


 ルルのかけてくれるやさしい言葉に、ゼオは陶酔した。


 その甘い息づかいが、彼を眠りの中へ誘った。


「くすっ、かわいいね、ゼオ?」


 こうして新しい旅の仲間が加わった。


 オオカミの王だった少年は、深い夜の中へと落ちていった。

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