第44話マトラとラライラ

そこはサウセス地方の南にある深い森である

うっそうとした森の入口を見つつ、なんとなく帰ってきたような、そんな気に名なっていた


「おおー。ひさびさですね、マトラ様!」


「そうね、なんていうか…ここから始まったっていう感じがする」


そして、二人は帰ってきたのだ

エズラと、そしてアエリアと会ったこの森へ


中へ足を踏み入れると、あの時よりもより濃い緑の匂いがする

草に足が取られるほどの育ち具合は例の祝福が影響しているのだろうと思えた


「風魔法で取り除いていきましょうか…聖剣顕現」


マトラの聖剣は杖


そして、すべての能力があがるのと同時に特性として3つの魔法がセットできるようになっている


そこにかまいたちを起こす魔法をセット、こうして進めば魔力消費も極めて少ないまま行使することが出来た


そして2つ目、刈られた草を吹き飛ばす魔法をセット

こうすることで草を散らして道が作られていく


アエリアに聞いて注意しなければならないのは火魔法だった

この森で火魔法を使用すると死を覚悟する必要があると言うが・・・



「マトラ様、あそこ、なんか変じゃないです?」


「え?何ラライラ、なんかあるの?」


「はい、あそこのあたり…精霊が居ません」


「それがおかしい?」


「はい、それ以外は相変わらずといいますか、大量の精霊がいるんですよね…なのにあのあたり、ぽっかりと何も居ないんですよ…なんでだろ?」


「行ってみましょう」


二人は進んでいく、するとそこに大きな洞窟があった

大きいと言っても、垂れ下がったツタなどで隠れるように存在している


「これ、焚火の跡よね?」


地面がすすけて黒くなっている

マトラは地面にある黒い跡を指でつまんでみる。やはり木の焼けた跡だろうと確信する


「中にはいってみましょう」


洞窟の中は薄暗い

先ほどの杖に、今度は明かりの魔法をセットする

それと、さらに明かり、明かりをセット


同じ魔法を3つセットするとその威力は二乗されていく


もの凄く明るく輝く杖の先の明かりを操作して天井付近に明かりを持っていく


洞窟全体が照らされる


そこで目にしたものは


「これ、盗品ですかね?」


「そうでしょうね…」


それは金銀財宝、とまではいかないが価値あるものが大量に置いてあった

装飾された剣や鎧などもあれば、絵画や銅像まで


「ひどい保管状態ですね…これとか、いい価値してそうなのに」


「そうね。何も知らないでここに運んだか、すぐにどこかに持っていく予定があるかだね」


「でもどこいっちゃったんでしょうね?足跡から察するに、50人くらいは居ますよねこれ。でも血痕とかは地面にないみたいですし」


「そうだな…どれかに、どこから運ばれたものかわかるような物がないか探してみよう」



そうして品物を検分していると、外からガヤガヤと声が聞こえてきた

だんだんとそれが大きくなってくることから、ここに向かってきていることがわかる

マトラとラライラは顔を見合わせると、うなずいて品物の影に隠れた。そして明かりの魔法を解除する



少しばかりの時間が経ってから、そいつらはやってきた


「あはははははは!大儲けじゃねえのこれぇ」


「そうですねぇ、すばらしいっすよぉ…この髪、サラサラしてますわぁ」


「おいおい、あんまり汚く扱うなお前ら。大事な、商品様なんだからよ!」


物陰からこそりと見る、するとそこには汚れた服を着た男たち、だがその体つきは鍛え上げられたものだとわかる


その中心には、一人だけ汚れていないきれいな服を着た男が一人と、その横には縛られた一人のエルフが居た


「やめて、返して!」


「だめですよぉ…あなた方は古代種ですよ?どういった経緯でここに居たのかは分かりませんが奴隷商が高く買ってくれますよぉ」


なぜ、あのエルフが簡単に捕まっているのか?

その答えは男の手元にあった


おそらくは2歳、3歳くらいのエルフの子供だ

その子も女性動揺縛られている

ただしこちらは、魔法で作られたと思われる檻に入っていた


「逆らうと、この檻ごと潰してやりますからねぇ、おとなしくしておきなさい」


なるほど、下衆めとマトラは思った

子供を盾にエルフを捕らえたと思われる

でなければエルフが捕らえられるなどありえないとマトラは思った


今はたから見てもその女性の方が圧倒的な魔力を持っているのが分かる

マトラや、ラライラ、アエリアに匹敵する魔力だ


「お頭ぁ、この女あ、頂いてもいいんですかねぇ」


「ああ、かまわん。どうせ子の親だ。初物でもないだろうからな…」


「へへへ…順番だぞぉ、おまえらぁ!」


おおう、と声を重ねる男たち


これは不味いな、どうする?とマトラが考えていた時だった


「聖剣かいほぉおおおおおお!」


「ラライラ!?」


聖剣魔法でマントを纏い、超加速するラライラがそこにいた


目に見えるギリギリの速度で、その真ん中の男が持っている子供を救助する


そして檻の魔法を砕いた


「な、なんだぁ!?」


「何者です!」


その隙、有難くいただくー


「聖剣解放・散」


マトラの風魔法だ。しかしそれはかまいたちとなって、盗賊たちを切り刻む

その隙をもって、マトラはエルフを救助した


「大丈夫?」


「え?あなた達は…」


「話は後で。ひとまず逃げましょう」


そう言ってマトラはエルフの手を取った


「子供は安心して、子供大好きのラライラが助けてもう外に出てるから」


「あ・・・ありがとう!」


外に出た瞬間に、しまったと思った


結界!


洞窟の外には結界が張り巡らされていたラライラも空中でぶつかったらしく、頭を押さえている


これ、逆結界か!内部からの衝撃には滅法強い!


どうしようと一瞬だが、足を止めてしまった


「ひゃはは、逃げられると思わないでくださいねぇ」


それは、綺麗な服を着た男だった胸にきらりと赤い石が輝いている


「まさか、賢者の石!」


この結界が賢者の石によって発動している物ならば、マトラとラライラの魔法で内部から破壊するのは難しい

特にラライラは攻撃力に欠けるし、マトラはその逆で強すぎるのだ

もし使えば、破壊はできても逆流した魔法で自分らが危険になってしまうだろう


「ひゃはは、知ってるのぉ?いいねぇ。強そうな女ぁ!魔法使いだろ?」


「そうね、で、あんたは」


「俺かぁ…エスケ、反逆のエスケだぁ」


その名はマトラも知っているー


「まさかの騎士殺しの魔法使い…ね」


「ぐひょぉ。知ってるのぉ、俺のことぉ!」


情緒不安定、その分魔力は底なし…そいつがさらに賢者の石を使用

騎士殺しというのは、単体で騎士と相対してさらに騎士の攻撃範囲でも殺しきるとう事からきた異名である


「えへへ…死ねぇ!」


ブンッ、何かを投げつけてきた

注意をそちらに向けると、石だ!


かわそうとした時、腹部に痛みが走る


「ぐはっ」


「はぁ…フレアボム…」


ドウゥン!


殴られた場所が爆発した


マトラは吹き飛び、かはっと血を吐く


聖剣の杖が消え去ってしまう


「あぁ…ごめんなさいねぇ。手加減できなかった…ごめんなさいね」


「あ、っく、情緒不安定、ってホントにそうなのね…」


前にアエリアから聞いた、強すぎる魔力は情緒を不安定にするというアレかもしれないとマトラは思った


「エルフは返してもらいますよォ。そして、貴女は危険、だから死んでください」


そう言って、魔力が増大していく


なるほど、魔力隠蔽をしてさらに、魔法を使おうとするとその威力に応じて魔力が上がっていくタイプか…見誤った…、そう思った


エスケの頭上をぐるぐると火が回る

それは魔法、火竜巻


「あ、あんた止めなさい‥死ぬわよ」


何を言っているのか‥といった顔をしたエスケだったが


昼間で、そこは開けている場所だというのにいきなり暗くなる


「な、なんですぅ?」


上を見れば、それは巨大な霊鳥だった

それが急降下してきて、エスケを、その火魔法ごと


つまみ上げてそのままゴクリと飲み干したー


「ああ、ありがとう、ズゥ!」


エルフの女性がお礼を言う、しかしズゥは意を介していないのか、そのまま飛び上がって消えてしまった


ラライラが戻ってきて、マトラの傷を回復魔法で癒す


「マトラ様ぁ…」


「泣かないの…それにまだよ、ヤツが来る」


空中で、ズンっと音がする


見れば空中で大きく火が燃えている


そこから一人、男がぼてりと落ちてくるー


「ひゃはははは!鳥ごときが舐めないでくださいぃ!」


「やっぱね、一瞬結界が見えた…だから私は今度は油断していなかった、それだけよ」



そう言って


「聖剣解放」


マトラの杖が顕現する。そして開放により、その杖の先に魔法をセットするー


「食らいなさい、神雷×3(トライデント)」


ズガガガガガガァーン!


セットしたのはマトラの編み出した最大の雷魔法、それを3つセットした

つまりは二乗、そして二乗


見えない程の速度でエスケを貫く

パリンと音を立てて結界が壊れていくのが見える


だから


「油断、しないわよ」


それを持ちうる魔力の限り放ち続けた。


千本の雷がエスケを貫いて焼き尽くした


そして、最後にキィンと音を立てて赤い石が落ちてきて、ぱきんと割れた



「ちょっと、やりすぎたかな?」


「マトラさまぁ・・・耳がきぃんって…」


エルフもその長い耳を両手でふさいでいた

子供の方は、ラライラが遮音結界を張っていたようで大丈夫だ



子供の檻はすうっと消えて自由になる。

縄を切って開放すると


「おねえちゃん、ありがとぉ!」


「ううん、大丈夫だった?」


「うん!」


「ありがとうございます、ええっと、前になんか見た事あるような…」


「あ、以前宴に入れてもらった事が…」


「そういえば!人間が来てましたね!今日は助かりました、森にキノコを採りに隠れ里から出ていたら先ほどの人間たちに捕まりまして…」


「ええ、無事でよかったです。ラライラ、洞窟の中の奴ら、全員逃げられないようにしておいて、それでマリアさんに連絡して引き取りにきてもらって」


「はーい」


ラライラは洞窟の中に入っていく

エルフの子供がキラキラした目でマトラを見ていた


「そういえば、ボク、でいいのかな?名前なんて言うの?」


そうすると、モジモジしながら


「ボクの名前は、あしゅとー。おねえちゃんは?」


「マトラ、っていうのよ。よろしくね」



そしてマトラとラライラは、エズラに会いに隠れ里に行く

彼女らがそこから修行を終えて出てきたのは実に7年後だったという


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