第19話始まりの王3

マトラとラライラを保護して、さらに戦争を回避したアエリアは上機嫌だった

それはかつての戦争の記憶が上機嫌にさせているのかもしれない


「いやあ、偶然とは言え後始末まで出来たのだから上出来といえる」


けらけらと笑って、そしてにこにこと笑顔のアエリアと比べて不満そうなマトラ


「はあ」


ポリポリと菓子を大量に食べるラライラと対照的に、手を付けないマトラ


「何だか納得できておらんようだな、マトラ」


「そりゃ、まあなんといいますか、戦意とかそう言ったものが無くなりましたと言いますか」


「マトラ様、ラライラもやる気はもう無くなってますよ……」


しかしラライラは対象的に笑っているというか、気楽に菓子を食べている


そしてそれを見て思い出した様にラライラは言った


「そう言えばアエリア様、なぜアリエッタなどと言う偽名を使われているんですか?」


「ふむ」


隠している訳でもないのだが、誰にも話していないのはアリエッタの確かな記憶の話だ

それに前世の記憶があるなど信じる者などいないし、頭がおかしいと思われるのもしゃくだと思ったので言っていないだけだが


「まあ、子供の頃から大好きだったからだ、かな。あとはまあ…おいおい話すか」



今この時から意識して、隠そうと思った。それは記憶だけでも隠そうと。


しかし力は隠すつもりは無い



「そうですか。はぁ、これからどうしよう…」



マトラは真剣に悩み始めた。

こう簡単に、戦場にすら居ない人間に戦争を止められてはどうすればいいのか分からなくなってきたのだ


上司とか、王様とかの期待に溢れた顔が思い浮かんでは消えていく


「さてマトラとラライラ、君たちは私に何を望む?これから帰るか、ここに居るか、それとも戦争がしたいのか?」


「……戦争は、もういいですよ。帰っても刑罰ものでしょうから。帰るのも…」


「あ、じゃあラライラもマトラ様と残ります!」


そのラライラの発言に


「いや、あんたは戻りなさいよ!王女でしょう?!」


「そう言われましても、ラライラはマトラ様と一緒に居たいですから」


こう言い出したラライラは言うことを訊かない

わがままに育てられているから、仕方ない事ではある

未だ王女としての自覚もない

まあそう自覚を持たないよう育てられたからでもあるのだが


そして、ラライラの言い出した事を覆せる胆力をマトラは持ち合わせていなかった


仕方ない、そう言ってからアエリアを見て言った



「あ、一つ教えてください。アエリア様はどうやってこの情報を手に入れたんですか?対処の方法はともかく、そもそもの情報入手はどうやって?」


もっともな質問であった

最初の宣戦布告のきっかけだけは偶然に手に入れたものである

それで人が死なぬように動いた、ここまでは良いだろう

そこはマトラも納得できた部分である


ただ、今起こっていることをまるで理解っているかのような行動は何が元で動けたのか?



「私の契約している霊獣にね、霊鳥ユーリというのが居る。彼は主に情報収集に長けていて、私に離れた場所の映像を見せてくれる」


そして、その映像をマトラにも見せる


そこにはノーチェスの国軍、サウセスの国軍陣営の中が映し出されていた

さらには会話すら、普通に聞こえる


「未来なんてものは無理だが、ある程度の過去現在の状況はこれで把握ができるんだよ」


アエリアは簡単に言うが、それはとんでもないことだ

もしもこれが戦場で使えるというのであれば情報戦において、アエリアに勝つ術など無いに等しくなる


「当然、どこでもというわけにはいかないがね。強力な結界であるとかでもユーリの目と耳は防げる。それと…まぁ他にも防ぐ方法はあるのさ」



それはマトラ達や、サウセスでもだが、本来結界を敷いていないことはない

それも一番強力なものを。であるのにこうも簡単に視られているというのであればそれは強力ではないと言われているに等しい…


しかも過去での映像も見えるとなるとそれはあまりにも強力な目だ

そういう魔法が得意な人間がいるという話を聞いたことが在ったが、アエリアのそれはいとも簡単に成し遂げられているように思えた



「そうですか…これでは戦争など、アエリア様には簡単に止めれてしまいますね」



「うむ、アリエッタが大陸を統一出来た最大の武器だからな。最初に契約した霊獣であり、最強の霊獣だ。むしろユーリなしでは無理だったろうしな」


「は?」


あまりにも間抜けな声が出た


「それ以外にもアリエッタの契約霊獣は強力なものばかりだぞ?大陸統一時の力があればおそらく現代でもいとも簡単に統一出来るだろうな」


「そんな…いえ、確かに…」


しかしアリエッタは統一後すぐに王位は退いている。子孫も残されたという話もない

その理由を考え始めたところでさらにアエリアから回答が入る



「しかしだ、何のリスクもなくこれらの霊獣を扱えたわけではないのだよ。そもそも霊獣との契約時には魔力が大量に必要になる。アリエッタにはその魔力が足りなさ過ぎたのだ。そしてその霊獣との契約魔力を、自分の寿命で支払った。その結末は統一後わずか1年しか寿命は残っていなかったのさ」


「魔力の代わりに寿命!?そんなことが」


「そんなことが出来たから、大陸統一できたのだ。しかしながらだよ、統一した国はどうだ?およそ380年前のことだが、再び国が分裂したのは死後さほど経っていない頃から始まっている。今現在も、5つの大国と19の小国に分かれてしまっているだろう」


「そうですね」



「だから統一というのは正しい姿ではないと私は考える。当時は100を超える国が、いたるところで戦っていた言うなれば戦国時代だ。そして統一後に分裂している今の姿、戦争がここ50年は大きなものは起こっていないことを考えると今の国数というのは非常に安定している。そう考えれば統一されていた事も、途中あった統一戦争も必要な過程だったのではないかと思うのだ」



アエリアの言わんとすることは簡単だ

当時は戦国時代で統一の必要性があった。しかし今は国数は減っているものの、戦国時代ではなく安定している

だから、今戦争を起こすのは間違っているのではないかとマトラに暗に言っているのだ

そして止められる力がアエリアにはあったから、止めたと




ここで一つ、アエリアから話が在った




「なあ、マトラ、ラライラ。君らが出会って動き出した世界だというのは忘れて…いや、忘れないでいい、そこに私も加えてくれないか?」


「どういうことですか?」


マトラは言われている意味がよくわからない


「うん、私は今の生活が好きでね。壊したくないんだ、正確にはこの場所をね」


「はあ」


「それでも世界は動き出している。戦争へと舵をきりつつあるといえる。君らのそれは偶然最初だっただけだ。おそらくはこれでかなり進み具合は遅くなったとはいえ、戦争の火種はすぐに生まれていくだろう。もしかすれば黒幕は別にいるんじゃないかとね」


380年前がそうだったように、150年前がそうだったように


だからアエリアはその火種を消し続けたいと言った

それにマトラとラライラも一緒に協力してくれないかと言ったのだ



「もうしばらくすればマリアも来るだろう、私の妹や、その騎士もね」


ふと、ランスロットの顔が浮かぶ

彼も協力してくれるだろうかと考えるが、止めた


そして言葉を続ける


「私はね、アリエッタの力を引き継いで持っている。だがアリエッタではない、アエリアだ。だから始まりの王であるアリエッタの力をもって、世界を正しい方向へ、平穏へと導いて行きたい」



話は長くなったが、と前置きして



「今私に、力はあるが…信用であるとか、友人であるとかの力はない。それを得ていきたい。力を貸してくれないか?つまり、私を加えるというのは既にある君たちの戦場へ連れて行って欲しいとそういう事だよ」



アリエッタの力、その強力さは身に染みて分かった

しかし、使いすぎれば寿命は無くなっていく


上手く、上手く使っていかなければならない




そして最後にアエリアは言った



「楽しく生きようじゃないか。悲しい事なんて進んで手に入れる物じゃないからな」



アエリアのさしだす手に、マトラとラライラは自らの両手を重ねた



「あ、私も!」



そう言ってメアリも手を載せてきたので、アエリアはふふふと笑って


「メアリもよろしく頼むよ」


そう締めくくった

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