第27話 お披露目②

「存じ上げませんわ」


「え?あの……その……」


 私がバッサリと知らないと切って捨てると、彼女は目に見えて狼狽える。盗みをほのめかされて、男爵令嬢風情なら焦ると思っていたのだろう。だが事前に彼女が言いがかりを付けに来るのは分かっていた。残念ながら、こっちは準備万端だ。


「大変申し上げにくいのですが、レア・ホームズ様とサロンで歓談された辺りから見当たらなくなってしまった様で」


 狼狽えるラーラの背後から女性の執事が現れ、彼女の代わりに意図を噛み砕いて伝えてくる。恐らく執事は、私が言葉の意味を理解できずにいる為こんな堂々とした態度だと思ったのだろう。舐められたものだ。


 しっかし美人ねぇ。


 ラーラの女執事の美しい容姿に、思わず溜息を吐きそうになる。男装の麗人にしておくにはもったいないレベルだ。


 因みに高位貴族の令嬢に付く執事は、高齢の者や女性が多い。これは単純にラブロマンスを防ぐ為である。執事とのラブロマンスと言えば世の女性はキャーキャー言いそうだが、家からすれば醜聞以外何物でもない。傷物のレッテルが張られては、碌な嫁ぎ先が無くなってしまう。


「そうなのですか?ですがやはり私には、心当たりが御座いませんわ」


 パーティー会場で彼女にしつこく誘われて、仕方なしにサロンでお茶の同席を受けた分けだが。どうやらこれが狙いだった様だ。


「他の方々にもお話を伺って。部屋の方も失礼ながら調べさせて頂いたのですが、まだ見つかっていない状態なのです。大変恐縮なのですが、ご協力願えないでしょうか」


 そう言うと、執事は深々と頭を下げる。まるで見つからなかったので最後にしました的な口調だが、恐らく同席した他の御婦人方の所には行っていないだろう。一応王子の婚約者だから、出来れば疑いたくなかった的な建前なのは見え見えだ。


「あれは我が家の家宝なのです!失礼だとは存じますが、どうかご協力をお願いします!」


 落ち着いて調子を取り戻したラーラが涙ながらに訴える。勿論泣いている振りなので、当然涙など流してはいない。バレバレよ。


 それと言っては何だが、彼女達の頼みは失礼とかいうレベルの話ではないのだが……私自身は男爵令嬢とはいえ、今は王族の婚約者だ。その部屋を怪しいから家探しさせろだとか。見つからなかった場合、侯爵令嬢だろうと只では済まない。何せ堂々と王子の前でやっているのだ。必死だったなんて言い訳が通ると思ったら大間違いである。


 まあ向こうも、それは分かってやっているのだろう。絶対に"この部屋にある"。その核心の上での行動だ。失礼だろうが何だろうが、証拠さえ見つけてしまえばお咎めの心配無用なのだから。


 彼女の目的は、私を婚約者の座から引きずり下ろす事なのだろう。手癖の悪い女など、王族の相手には相応しくないと示す事で。


「分かりました。どうぞ」


「よ、よろしいんですの?」


 まさかすんなりオーケーが出るとは思わなかったのだろう。彼女は驚いた様な表情で此方を見つめる。私自身事を大事にするつもりはないし、その必要があるならきっと王子が口を挟んでくるはずだ。それが無い以上、長々と相手にするのも面倒なのでさっさと終わらせてしまう事にする。


「ええ、私としても疑われたままではあれですし。それでラーラ様の気が御済みになられるのでしたら、喜んで協力致しますわ」


「無茶な願いを聞き入れて頂き、本当に有難うございます。それでは失礼して」


 女執事が澄まし顔で慇懃に頭を下げ。一つ一つ私に確認しながら室内をチェックしだす。その様子を、ソファに腰掛けながら王子は楽し気に眺めていた。きっとその頭の中では、この件でボヘミアン侯爵家に貸しが出来るとほくそ笑んでいる事だろう。

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