第20話 道ならざる恋

 男は恋をする、物言わぬ剥製の女性に。

 それは敵わぬ恋の物語。


「結局お売りになられたんですか?」


「ああ、彼の財力は魅力的だからね。来るべき日に備えて、貸しを作って置いたのさ」


 王子の手元には、亡き屋敷の主の日記があった。そこには例の違法なコレクションについても記されており、件の商家の男性との交友関係も書かれていた。


 日記に関しては遺品として保管されていた物で。30年間放置されていた物を、今回の一件を不審に思った王子が見つけ出してきたらしい。つまり王子は、最初っからあの廃屋に女性の剥製があった事を知っていたという事だ。


 因みに私に調査を依頼したのは、日記に保存場所が書かれていなかった為だった。内々に済ませたかった王子は、私の超能力を当てにして調査を丸投げしたという訳だ。


「彼自身は犯罪に関わっていない訳だし。只処分されるよりも、彼女達も大事に扱ってくれる人間の元に行った方が幸せだろ?」


 どうだろうか?永遠の美を求める人間もいるが、私ならあんな状態で誰かに愛でられるのなど、ぞっとするのだが。まああの剥製の女性達は攫われたりしたのではなく、自らの意思でああなった訳だから、ある程度納得の上ではあるのだろうが……


 日記に書かれている事が嘘でないのなら、彼女達は全員自分の命をお金に変えている者達だ。ある者は借金のかたに身売りされるぐらいならと、高額で命を売って家族に残し。ある者は重病を抱えた幼い弟を救うために、お金を求めて自らを売り飛ばした。弱者の弱みに付け込んでいる感は強いが、一応合意の上だ。


 まあ合意だろうとなんだろうと、法的には完全に犯罪以外何物でもない。だがこの事件は無かった物として、闇に葬られる。何せ犯人が王族で、しかももう亡くなっているのだから。まあ仕方のない事だ。 


「しかし剥製に一目惚れですか?私には少々理解できない世界です」


 廃屋を買い取った商家の男性は、あの剥製の中の一体に恋していた。30年以上前に屋敷の主に見せて貰って以来、心はずっと恋の虜だったらしい。だがそれは王族の所有物であり、死後は王家によって屋敷が管理されていた為手出しできなかった。


 しかし今年に入って屋敷が取り壊されると聞き、居ても立っても居られずに動いた様だ。まあそのまま指を咥えて見ていたら確実に廃棄されていただろうから、一か八かの賭けだったのだろう。


「人の愛の形は色々さ。僕と君の愛の形の様にね」


 人の力を利用する気満々の愛とか、それは本当に愛と呼べるのだろうか?


 まあ私の力を必要としてくれている訳だし、性格は腹ぐろだが顔も悪くはない。どうせ地元じゃ、鬼子の私を嫁に取る物好きはいないだろうし、そもそも男爵令嬢程度じゃ大した嫁ぎ先も無いのが現実。この際、愛はなくとも優良物件に拾われただけ良しとしよう。


 ま、それも下剋上が上手く行ったらの話ではあるが。


「はいはい。それで?今日はどんな用件おしごとなんですか?」


 王子が私の前に姿を現すのは、基本頼みごとがある時だ。今日もコネづくりの問題解決を私に依頼しに来たのだろう。


「愛する君と語り合いに来たってのに、つれないなぁ」


「忙しいんで帰ってもいいですか?」


「それは困る。君には一働きして貰わないと」


 ですよねー。


 直ぐに手の平を返すなら、最初っから素直に言えばいいのに。


「それで?どんなお仕事ですか?」


 今日も今日とて、私は王子の為に超能力すいりを振るうのだった。

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