第9話 悪役令嬢殺人事件②

 被害者の名はマーガレット・アップル。アップル伯爵家の御令嬢だ。


 年齢18歳。性格は我がままかつ陰険。周囲からは相当嫌われており。付いたあだ名は悪役令嬢。死因は毒物による中毒死。彼女の口にしたと思われるカップの残りのコーヒーから、大量の毒物”ヘ素"が検出されている。その事から犯人はコーヒーに毒を持った人物で間違いないと思われる。死亡推定時刻は、深夜の0時半から1時半間までの間だ。


「ふぅ……」


 アップル伯爵邸の客室のソファーに腰を下ろし、溜息を吐く。容疑者の数は12人。全員このお屋敷で働く使用人だ。その全てが悪役令嬢……じゃなかった、マーガレットに何らかの遺恨を持っており。動機は十分にあった。


 ヘ素は良く暗殺に使われるとか使われないとか聞くポピュラーな毒物で、案外簡単に手に入るらしい。そして容疑者全員このヘ素を所持していた――だからこそ全員容疑者になったのだが。


 ……使用人20人中12人が毒持ってるとか、この屋敷の使用人達怖すぎ。


 伯爵はこの事件ヤマが片付いたらその犯人は誰であれ、12人全員解雇するそうだ。まあ、そりゃそうなるわよね。


「お疲れ様。だいぶ絞れてきたね」


「ええ、なんとか」


 まず私が最初にしたのはアリバイの確認だ。お嬢様の遺体――まだ埋葬されていない――から私は死亡時刻を割り出している。報告には0時半から1時半と聞かされているが、魔法による死亡時刻推定はどうしてもその幅が広くなってしまう。それに対して私の力なら、魂の痕跡の残り具合から10分程度の誤差で納める事ができた。そして私が絞り込んだ推定時刻は、0時50分から1時10分までの間となっている。


 聞く所によると、マーガレットは寝る前に必ず熱々のコーヒーを一気飲みするという意味不明な習慣があったらしい。つまり事前にコーヒーを運びこまれ、時間がたってから口をつけた可能性は低い。事件当夜も同じ行動をしている前提で考えるなら、この時間帯にコーヒーを運んだ人物が限りなく黒に近いという事だ。


「12人中9人はその時間帯他の仕事をしていた。犯行に及べたのは、残り3人だけだね」


「ええ……」


 どうやって時間を絞ったのか。それは企業秘密と答えてある。犯人を見つける上ですごく重要な事なので、普通は突っ込んできそうな物だが……驚く程すんなりと王子は引き下がってくれた。この情報が通るか通らないかで流れが変わって来るので、正直非常に助かる。


 アリバイの無い容疑者はメイドのイリナ(失職予定・年齢・性別割愛)同じくメイドのアリッサ(以下同文)それに執事のパーガン(以下)の3人だ。


 イリナは隠れて仕事をさぼっていたと証言していて、アリッサはマーガレットに命じられて書斎の掃除(お嬢様は嫌がらせで、必要も無い掃除を真夜中に使用人にさせたりする)をしていたと言う。パーガンは伯爵邸周りをランニングで10週(これまたお嬢様の命で理不尽に走らされていた)だそうだ。


 サボっていたイリナは兎も角、残り2人の証言からいかにマーガレットが周囲に理不尽な行動をしていたかが分かる。その為、この仕事を辞める者も多く。彼女のヘイトの高さが改めて浮き彫りになる。


「しっかし彼女、本当に嫌われてるねぇ。いくら嫌がらせが楽しいとは言え、ある程度ブレーキをかけるものなんだが。彼女の場合は常に全力投球だったみたいだね。まあ流石に立場が上の人間には、あからさまにはやってなかったみたいだけど」


 弱者に超強く。強者にも裏で毒を吐く。その行動は徹底されており、そこまで行くとお見事としか言いようがない。


 それよりも王子の「いくら嫌がらせが楽しいとはいえ」という言葉に私は引っ掛かる。その口ぶりから、王子も嫌がらせを楽しいと思っている事は確実だ。今王子の体温が上がり気味なのも、きっと私に対する嫌がらせ(殺人事件の捜査の押し付け)が楽しくてしょうがないからだろう。


 ほんと良い性格してるわ、この人も。


 垣間見えた王子の癖に辟易しながらも、私は捜査を続ける。

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