失恋拗らせ男とかつて好きだったキミ。~大学生と社会人になった二人で始めるリ・ボーイ・ミーツ・ガール~

AM

第1話 幸せな恋

 人生で初めてできた恋人とは、マッチングアプリを通じて出会った。


 酒が飲める歳になり、当たり前のように男女関係の話をする周囲を見て、未だに彼女の一人すらできたことの無い自分がいよいよヤバいかもしれないと感じ、一念発起してアプリを入れたらすぐにできた。


 相手は同い年のギャルっぽい女の子。


 自分とは縁遠い分野の保育系の大学に通っており、アウトドア派でダンスと韓国ドラマが好きという、インドア派でゲームだけが楽しみの俺とは、住む世界の違う相手だった。


 そんな彼女に、俺は三回目のデートで告白してOKをもらった。


 アプリで知り合ってから二か月くらいで結ばれたように思う。あっさりとした付き合うまでの過程と会わない趣味。絶対にすぐに別れると高を括っていたが、意外なことに半年続いた。


 会いたいペースと物の価値観があっていたからだろうか。


 とにかく初めてできた恋人と過ごした日々は悪いものではなく、むしろ楽しいもので。


 だから、彼女から別れようと告げられたあの日、特に悲しい気持ちになることもなく、すんなり受け入れてしまった自分には驚いた。


 食い下がることなく電話越しにわかったと即答した自分の薄情っぷりには、心中で笑ってしまったくらいだ。


 だが、腑に落ちた部分もあった。確かに彼女のことを好きかと問われれば好きだと返す程度には好意を抱いていた。


 ただ、その相手は俺にとって誰でもよかったし、彼女でなくても良かったのだ。


 恋人が欲しいから作った。運命的なきっかけや出会いもなく、相手が欲しいから会って、ちょうどいい人だったから付き合った。


 恋愛はしたが、恋に堕ちてはいなかった。


 それは相手もそうだろう。顔とか性格とか、フィーリングでいいなと思ったから付き合ってみて、一緒にいて楽しかったから共に居続けた。


 付き合った時点で、お互いのそういった心情は察せられる。


 だから、飽きたか別に好きな人ができたみたいなありふれた理由で、あっさり切り捨てられたのだろう。


 初めて彼女ができて関係が終わるまでを経た感想は、恋愛ってこんなものかだった。


 思っていたのと違う。というか、俺にとって思い描いていた恋愛とかけ離れていて、恋をした気分にはなれない。


 キスしたし、身体も重ねたけど、打算尽くしで生まれた彼女との駆け引きは、今振り返ると虚しくなった。


 付き合っていた当時は楽しかったんだけどな。


 彼女と別れて以降、自分の心の中に一つの大きな欲求が生まれた。


 もっと幸せな恋がしたい。


 俺がこの歳まで彼女ができなかったのは、これまで恋をしたことが無かったからではない。中学生になれば、好きな人の一人や二人はいたし、それ以降も断続的にだがいた。いずれも成就はしなかったが。


 ただ、身を焦がす、堕ちるような恋をしたのは一人だけ。


 そういって思い出すのは、色褪せてきた高校時代の記憶と当時のクラスメイトだった女の子の姿。そして楽しかった日々と苦い記憶。


 もし、あの時あの子と付き合えていたら、そのifの未来が自分にとって理想だった。


 彼女と付き合ったときの妄想は数年前から何度も頭の中でやってきた。


 そして、そのたびに酷く傷ついてきた。


 近頃は思い出すことはなかったのだが、独り身になったせいか、最近になってまたかつての想い人を反芻はんすうするようになった。

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