空#2

 篠原花玲が振られたという噂が学校中を駆け回っていた。


 水瀬は高校帰りの電車内で扉に背を預け揺られながらその事について考えていた。


 その電車の同じ車両に大岩はいる。水瀬も大岩も同じ時間に同じ車両に乗ることが習慣化しているのでよく被るのだ。しかし会話を交わしたことは無いし大岩は水瀬に気づいてすらいないのかもしれなかった。


 チラリと大岩の方を見ると唇の片端を少し釣り上げてニヤリと笑っていた。読んでいる小説で面白いシーンでもあったんだろう。でもこうしてみると大岩は割と顔立ちは整っているようだ。男前って感じ。


 花玲と仲が良い水瀬は知っていたが、噂の出処は花玲ではない。ではどこなのかと言えば詳しいことは何も分からないのだが、花玲は大岩が言いふらしたに違いないと憤怒していた。


 水瀬は大岩という人間について同じクラスなだけで殆ど知らなかった。いつも1人でいるという印象しかない。しかし、今回の件でひとつ理解したのはどうやら大岩レオは空気の読めない大バカ野郎だということだ。


 花玲は恥をかかせた大岩を許さない。すでに、過去に標的にされ不登校になったの時のように、イジメが始まっていた。


 水瀬は怖かった。大きな力に流されることが。抗えない自分の弱さが。


 もうすぐ卒業の時期だ。このままでいいのかと自分に問いかける。弱いまま、なんの成長もなかった高校時代でいいのか。一生このまま長いものに巻かれて狡く生きていくのか。


 水瀬はのことを思い返していた。高校に入学してすぐの事だった。

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