もう一人いる

「えー今日からこのクラスの担任になった若木だ。是非ワカ先生と呼んでくれ。これからよろしく」

「結構かっこいいじゃ〜ん」

「ワカ先生は彼女いるの?」

「絶賛彼女募集中だ。女子達は、俺にあまり惚れるなよ」

俺のボケに対しクラスの女子達が「キャー」という黄色い声を発す。

「かなりノリのいい先生が来たな」

「前の担任は急に気が狂って辞めたけどこの先生はすぐには辞めない気がする。当たりだな」

初めて担任になった俺は最初は緊張したけど、この緊張はすぐに和らいだ。

とても心地の良いクラスで良かった。

「よし、じゃあ早速出席を取るぞー」

このクラスは30人いる。

早めにクラス全員の生徒の顔と名前を覚えなくちゃな。

「えー逢沢」

「はい」

「市ノ瀬」

「はーい」

「小田桐」

「はい」

次々に俺は出席を取った。

全員出席しているな。

「これで全員だな。えー次に──」

と、次やる事をしようとした時、一人の男子生徒が

「ワカ先生。あと一人呼ばれてない人がいます」

という指摘をしてきた。

「お、そうか。ありがと」

俺がそんな初歩的なミスをするなんてまだまだ未熟だな。

「えーっと……」

あれ? おかしいな?

出席簿を見ても全員呼んだ気がする。

俺はちゃんと30人数えながら出席を取った筈だ。

何か違和感を感じる。

「すまないが、誰を呼んでいないんだ?」

俺が生徒に問いかけると

「ワカ先生ー。『あの人』呼んでないよー」

一人の女子生徒が返答した瞬間、クラス中が『あの人』の話題になった。

「ワカ先生、『あの人』が可哀想ですよ」

「そうだそうだ。呼んであげなよー」

ガヤガヤと騒ぎ始めた。

『あの人』?

一体誰なんだ……?

俺が困惑していると

「ほら。『あの人』が怒ってます」

先程指摘してきた男子生徒がとある場所を指差した。

その方向を辿ると……


空席だった。

あれ? 欠席者がいたのか?

そう思いながら空席をじーっと見つめていると、黒い靄が突如現れた。

その靄はやがて人影へと形付けられ、口辺りに黒い煙を吹き出しそれと共に俺の視界は黒く染まっていった。


ハッ!

数秒意識を失っていた俺は、すぐに意識を取り戻した。

「すまない。寝惚けていた。『あの人』呼んでなかったな」

「ワカ先生。しっかりして下さいよー」

「あはは」という笑い声と黒い煙に包まれたクラス。


このクラスは、30人……いや31人いる。

うん。俺もこのクラスの一員だ。

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