首無地蔵

俺が住むマンションの近くには、『首無地蔵』という首が無い地蔵がある。

昔、首があったのだが、誰かが地蔵の首を思いっきり蹴った所為で首が取れたらしい。

あくまで噂だが、蹴った人は地蔵の呪いにより、事故死してしまったのだという。

そんな怖い都市伝説を俺は、会社帰りの居酒屋で上司と話していた。


「それでお前は、どう思ったんだ?」

「嘘臭いと思いました。確かに『首無地蔵』ありますけどそんな都市伝説ありませんよ」

「なるほどね。まぁ、俺は信じるけどさ」

「何故ですか!?」

「地蔵には俺達が知らないような不思議な力があるんだ。その地蔵を壊した者は呪われるかもしれない」

「いえいえ、絶対に無いです!」

「そんなに言うなら、帰り見に行くか?」

「望むところです!」

俺達は、居酒屋のノリで『首無地蔵』を見に行く事に。

「あ、その前にビールおかわりで!」

「俺もお願いします!」






「もっと飲めよ〜!」

ゴクゴク。

「○✕△□◇☆♯♪@〜!?」

ビールの飲み過ぎで何を言っているのか分からない。

「せんぱ〜い! よっぱらいしゅぎでしゅよ〜」

「そんなこたぁ無いって」

「あのーもう閉店なんですけど」

店員が二人に言っても俺達は、ビールを飲む事を止めない。

「うるせーな! こっちは気持ち良く飲んでるんだ! 邪魔すんな!!」

「そうでしゅそうでしゅ!」

「はぁ……」

痺れを切らした店員は、タクシーを呼ぶ。

「はい二人とも、タクシー呼びましたので」

「勝手に呼んでんじゃねーよ!」

ゴクゴク。

「大体俺達サラリーマンが一日頑張ったご褒美として居酒屋来てんのに、いちいち文句言うな!」

「先輩の言うとおりでしゅ!」

言う事が聞けないサラリーマン二人に対し、店員は頭を抱える。

「店長どうしましょう?」

どうにも出来ないと思った店員は、店長の助けを呼ぶ。

「タクシーの次は、店長を呼ぶのかぁ!?」

営業時間外の居酒屋で文句を言い続ける二人を、店長が

「いつもの事だから、二人を外に出して」

と、日常茶飯事のように言う。

「はい、分かりました」

店長の言われた通り店員は、ガヤガヤ騒ぐ二人を嫌々ながらも外に連れ出す。

「チっ、またこのパターンかよ」

「強制的に外に出すのこれで何回目なんでしゅかね〜」

「さぁな」

「あ、俺奢りましゅよ」

意識が朦朧としながらも俺は、居酒屋に戻って先輩の分まで金を払う。

支払いが済んだ頃、タクシーが到着した。

俺達は、タクシーに乗り、俺が住むマンション近くまで行く事に。

その最中、タクシー内では上司がいびきをかきながら熟睡していた。

俺も実のところ早く帰って今すぐ寝たい……。


十分後、マンション近くにタクシーが停まり、俺は上司を起こす。

起きた上司と共に、俺はタクシーを降りる。

「ありがとうございました〜」

タクシー運転手がそう言い、タクシーを走らせる。

まだ寝起き状態の上司は、ふらふらと千鳥足で歩いていた。

「せんぱ〜い! 危ないですよ〜」

と、俺は上司の肩を組もうとした。

だが、上司は俺の手を振り払い、一人で夜道を歩く。

「まったく先輩は……」

ゴンッ!

ん?

突如、衝撃音が聞こえた。

まるで岩のような大きな物体にぶつかったような音だ。

「何事だ?」

上司もその衝撃音の正体を探る。

夜なので、当然暗くて見えない。

だから俺は、スマホの光を頼りに辺りを照らす。

すると……

上司の足の近くに歪に変形した『首無地蔵』の首が転がっていた。

「うわぁ!?」

思わず声をあげた俺に対し、上司は笑う。

「なんだそのふざけた笑いは。ガッハッハッ」

「何故こんな所に首が?」

『首無地蔵』は、地蔵の体と首が離れていて、体と首それぞれ別の祠で祀られている。

だが、祠にある筈の首が転がっている。

普通有り得ない状況に俺は戸惑う訳が無く、ただただおかしいと感じていた。

「あ? 首? ってか変な顔してんな」

よく見ると、地蔵の首の顔がニタニタと不気味に笑っていた。

「いつもは真顔無表情なのに、気味悪いですね」

その強烈な顔はとても記憶に残るものだった。

そして、あまりの衝撃で酔いが覚めた。

「なんか嫌な予感がします」

体中から何故か冷や汗が止まらない。

「あ? んだよそれ」

「先輩、早く帰りましょう!」

未だに酔いが覚めないでいる上司を連れて、俺が住むマンションに急ぎ行く。

「お、おい突然どうした!?」

「早く地蔵の元を離れないとヤバいです! 今すぐ俺の部屋に行きましょう!」

「お、おう……」





「はぁ……はぁ……」

全速力で走った為、息切れが止まらない。

早く……早く……!

目の前の景色が歪み出し、吐き気を催しそうだ。

何分経ったのか分からないが、走り続けていると目と鼻の先にマンションが見えてきた。

「先輩! マンション見えてきましたよ―─」

「もう……いいだろっ!!」

突然、上司が叫び、俺は走りを止めた。

「先輩?」

「『首無地蔵』の首をたとえ俺がぶつけたとして何が悪い!! 何も悪くないだろ?」

「ですが、流石に地蔵の首にぶつかるなんて―─」

俺が言いかけた瞬間、上司の首は

「うわぁぁぁぁ!!!」

上司の首の根本には血が噴き出し、体は血だらけで、転げ落ちた首からは哀愁が漂っていた。

思いがけない状況に困惑しながらも、逃げなきゃ……と思い俺は自分の部屋に逃げ込む。

「ごめんなさいごめんなさい!!」

あまりの恐怖に耐えられなくなった俺は、布団に包まりながら謝り続ける。

先程見た『首無地蔵』の不気味な顔と上司の首が忘れられない。

信じられない状況だが、実際起きた出来事だ。

改めて整理すると、上司がビールの酔っぱらいにより、ある筈のない『首無地蔵』の首にぶつかり、怒り狂った地蔵は、上司の首を吹き飛ばした。

これは、『首無地蔵』の呪いかもしれない。

有り得ない……そんなの……。

呪いなんて存在しない……!





ピピピッ ピピピッ

部屋中にアラーム音が鳴り響く。

どうやら『首無地蔵』に怯えながら夜を過ごした俺は、いつの間にか寝てしまったようだ。

「やべーな」

テレビを付けると、『首無地蔵』の呪いにより首が吹き飛んだ上司のニュースが流れていた。

「先輩……」

俺の目の前で、上司が亡くなった……。


頭が追いつかないまま、会社に行く準備をする。

何も考えたくないので、いつもより早く外に出る。

上司が死亡した現場には、警察が後始末をしていた。

俺は、すぐさま現場を横切る。

先輩が亡くなった事、会社で問い詰められるな……。

先輩の無残な死に方、見たくなかった……。

などと昨日の出来事を思い出しながら歩いていると、

「あれ? 祠が荒らされている……」

『首無地蔵』の首を祀っていた祠が何故か荒らされていた。

そして当然、首は置いていない。

何処行ったんだ……?

すると、後ろから嫌な気配を感じる。

まさか……!

恐る恐る後ろを振り向く。

そこには……


ニタニタと笑う『首無地蔵』の首がこちらを見ていた。

その瞬間。


ボトッ





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