意味怖話と超短編

絵画

これは、とある美術館を訪れたカップルの話。


「たっくん見てみて~」

「ん?」

カップルが見ているのは、最近大人気の絵画『海の中の彼女』。

淡い海の中に一人の女性が描かれた絵画だ。

周りには、幻想的な海の中を泳ぐ魚達。

まるで海の中に居るような感覚を覚える。

「素敵だね」

「あぁ、絵画も素敵だけど君の方がもっと素敵だ」

「たっくんたら~」


イチャイチャしながらずっとその絵画を見ているカップル。

「たっくん。ごめんだけどちょっとトイレ行っていい?」

「いいよ」

彼女はそう言い、トイレに駆け込んだ。

その間、ぼっーと絵画を見続ける彼氏。きっとこの絵画に見惚れたのだろう。


「たっくんごめん。遅くなった」

十分後、彼女がトイレから帰ってきた。

しかし、彼氏の返事は来ない。

「たっくん?」

首を傾げる彼女。

「たっくん! たっくん!」

彼女が何度も彼氏の名を呼んでも一向に返事が来ない。

「おかしいな?」

彼女は、美術館中を隈無く探したが、見つからない。

「先に帰ったのかな?」

彼女は、彼氏に電話をする。

プルルルルル。

着信音はすぐ聞こえなかったが、『海の中の彼女』の絵画の前を通った時、着信音が聞こえた。

しかも

不安がる彼女は、絵画を凝視する。

すると……


「あっ! たっくん!」

なんと絵画の中に彼氏が居たのだ。

「たっくん! たっくん!」

絵画を叩く彼女。

「お客様! どうしたのですか?」

美術館の店員が彼女に近付き、彼女の行動を止め始めた。

「やめて!! たっくんが絵画の中に居るの!!」

それでも彼女は止めない。

「お客様! 落ち着いて下さい!」

店員が宥めようとしたが、彼女は叩き続ける。

「申し訳ございませんが、この美術館は突然人が失踪するのです」

店員が言ったら、彼女は動きを止めた。

「それって……」

「この美術館に飾られている絵画には、人を魅了する力があります。一度見惚れると、いつの間にか絵画の中に入り込む事があるのです」

衝撃の事実に驚きを隠せない彼女。

「今まで何人の犠牲者が?」

「今日で約百人となります」

「ひゃ……百人!?」

館内をよく見ると、絵画の中に泣いている人や助けを求めている人など様々な人が入っていた。

本当にこの美術館の絵画は人を閉じ込めるんだな。

「百人目のお客様が絵画の中に入った所でこの美術館を閉館したいと思います」

「そんな……たっくんは帰ってきますよね!?」

「申し訳ございません。一度絵画の中に入り込んだら二度と戻れません。館員そして館長のお考えでこれ以上犠牲者を増やしたくありませんのでこれにて閉館したいと思います」


そう言って店員は、放心状態の彼女含め館内に居る客全員を外に出した。

とても奇妙な美術館は今日で閉館となった。

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