無限ループ

これは、俺が中学生の時に体験した出来事である。

本当は言いたくないが、この場を使って言おうと思う。

この体験は、高校生になった今でもしっかり覚えている。





俺が中学2年生の時に起きた出来事だ。

俺はクラスで流行っていたロールプレイングゲーム『LOOP IN DARKLIGHT』を流行りに乗っかって購入した。

ゲーム内容は、プレイヤーとなる主人公を最強の勇者として成長させる、至ってシンプルなものだ。

クリア後に与えられる報酬を目当てにこのゲームをプレイする人が続出した。

早速俺もゲームを起動し、プレイする。

難易度は、ノーマルなのでゲーム初心者に優しい設計だ。

「意外と楽しいな」

主人公を育成しようとモンスターと戦う。

俺が使っているのは剣士で、他にも魔法使いや暗殺騎士、弓使いなどジョブは様々ある。

しかも、そのキャラ毎に奥が深いストーリーもあり、見所満載なゲームなのだ。

そんなゲームを俺は、熱中して日々プレイしていた。

学校から帰ってすぐプレイ。

土日祝日迷わずプレイ。

その結果、Lv80までレベルを上げた。

「凄いだろ?」

と、クラスメイトにも友達にも自慢をしていた。


そんなある日。

クラス内で、あるゲーム実況者の不思議な現象について話題になっていた。

それは、Lv99になったゲーム実況者が一度ラスボスモンスターを倒したのに、何故か何度もラスボスモンスターを倒し続けるという現象だ。

生放送でその状況が配信されていて、皆から『ラスボス無限ループ事件』と呼ばれている。

一生クリアできないクソゲーとして、このゲームをプレイしていた人達のやる気は失せプレイを止める人が続出した。

だが、俺はLv99になるまで止めなかった。


『ラスボス無限ループ事件』は治まらないまま、数日が経った。

俺は、やっとLv99になる事ができた。

これでラスボスを倒す事ができる。否、俺も『ラスボス無限ループ事件』を体験することができる!

そう思った俺はラスボスと戦い、勝利した。

「さぁて、ここからが本番だ」

身構えていると、無限ループしないまま、画面には『Congratulation』という文字が出ていた。

は? 無限ループは?

ゲーム実況者の実況動画を見ると、確かにラスボスモンスターを倒した後、直ぐラスボスモンスターを倒す前にループしている。

しかし、俺の場合は違っていた。

何でだ……?

疑問に思い、運営に電話すると

『おめでとうございます! あなたはを得ました!』

と、返されてきた。

「あ、あのーそれってどういう意味ですか?」

『ゲームのシステム上、本来ならラスボスモンスターを倒したら、無限ループでラスボスモンスターを倒し続けますが、レアでそれが出ない事があります。そんな場合、あなたに無限ループの権利を与えます。どうぞご自由にお使い下さい!』


プーッ、プーッ


そう言われ、電話が切られた。

何なんだ?

その時の俺はまだ気付いていなかった。

無限ループの権利というのは、とても強力なものだと。


ゲームを完全クリアした俺は、暇を持て余していた。

呑気にスマホをイジッていると、


ピンポーン


インターホンが鳴った。

何の用だ?


ガチャ


ドアを開けると、

「こんな時間にごめんだけど、モンパズの攻略本貸して欲しい! 頼む!」

友達の竜児が頼んできた。

「モンパズの攻略本か。分かった」

俺は、2階の自室からモンパズの攻略本を手にし、竜児に渡す。

「ありがとう! 明日返すね!」

「おう!」

そう言って、竜児は帰って行った。

数分後。


ピンポーン


またインターホンが鳴った。


ガチャ


ドアを開けると、また竜児の姿が。

攻略本返すの早いな。

そう思っていると

「こんな時間にごめんだけど、モンパズの攻略本貸して欲しい! 頼む!」

と、意味の分からない言葉が竜児の口から出てきた。

「いや、さっき攻略本渡しただろ?」

「え? 貰ってないけど……」

嘘だと思って、自室に戻ってみると

「は? 攻略本ある」

なんと竜児に渡したはずの攻略本が本棚に入っていた。

「偽物……ではないよな」

ちゃんと本物の攻略本だ。

「りゅ、竜児。俺って攻略本2冊持ってたっけ?」

「何言ってんの? 攻略本は1冊だろ」

「だ、だよなぁ」

「ん。ありがとう! 明日返すね!」

「お、おう……」

不思議だ。

そして、またチャイムが鳴り、また竜児に攻略本を渡す。

それが無限ループのように繰り返している。

そして俺は気付いた。

これが、無限ループの権利なのか……と。

そこから無限ループの権利の使い方を知った俺は、自分が使いたいように使っている。

例えば、憂鬱な月曜日が来ないように日曜日を繰り返したり、夏休みが終わらないように夏休みを繰り返したり……。

無限ループの権利、最高だな。


充実した生活を過ごしていたある日。

父さんが不慮の事故で亡くなった。

家族が泣いている傍ら、俺はあっけらかんとした態度を取っていた。

何故なら、俺には無限ループの権利をあるからだ。

さぁ、来い!

だが、そんな俺の願いは叶えられず、無限ループは起きなかった。

「そんな……無限ループさえすれば、父さんは戻ってくるのに……」

絶望しか無かった。

父さんの死に耐えられなくなった俺は、邪な感情が芽生え、遂には……。

「俺が死んで無限ループが起きたら、父さんは生き返る」

そう思い付き、俺はナイフで自分の腹を裂く。

痛い……痛い……痛い……。

激痛を感じながら目を瞑る。

そして、目を開ける。

すると……


父さんが生きていた頃には戻っておらず、俺がナイフで腹を裂いているところまでループしていた。

「何でだよ……」

泣きながら俺は、何度も何度もナイフで腹を裂き続ける。

でも、一向に父さんは生き返らない。

「俺を犠牲にして、父さんを……父さんを!」

ただ俺は、痛い思いを感じているだけだった。

「くそ……くそ……、頼む……頼む……!」

そんな願いは一度も叶えられなかった。



ゲーム公式サイトを見ると、運営からこんな事が書かれていた。

『ゲームをクリアした者は、無限ループの権利を与えられます。無限ループしたい時に役立つ良い権利です。※ただ、全部が全部無限ループできるとは限りません。例えば家族の死亡など絶対不可能です。ですが、所有者の死亡は無限ループできます。それだけ注意してご利用下さい』

これは、元々書かれておらず、父さんの死亡から追加された事だと分かった時は、俺は怒りを覚えた。

あんなに辛い思いをしたのに、許さない。

それから、『LOOP IN DARKLIGHT』を売り捌き、無き物にした。

忘れたい体験だが、一生忘れられないのだ。


無限ループはトラウマだ……。

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