黒猫

飲み会が終わり、時計を見ると深夜1時を過ぎていた。

酒を飲みすぎて、酔っ払ったまま暗い夜道を歩く。

すると、電柱に黒猫らしき影を見つける。

「あ? こんな所に黒猫が?」

近付くと、その影は逃げていく。

「何だよ! 別に触ってもいいじゃんか~」

俺は、後を追う。

逃げ続けるその影は、突然止まった。

「諦めたのか~。よし、つ~かまえた」

俺は、座り込み、その影を掴む。

ブチッ

あ?

潰れたのか?

見てみると、黒猫はそこにはいなかった。

「チッ、何だよつまんね~」

よいしょと、俺は立ち上がり、帰路に着く。


翌日。

「痛って。完全に二日酔いだな」

頭を抑えながら目覚めると、手に違和感を感じる。

ん?

何だこれは?

そこには、黒猫の体毛が握られていた。

「うわっ!」

驚いて、体毛をばら撒く。

ヤバいな。


ピンポーン

突然、インターホンが鳴った。

「すみませーん」

ガチャ

「はい、なんの用ですか?」

「あのー、この近くに黒猫っていましたか?」

「黒猫?」

「結構小さい黒猫なんですけど、探していて……」

俺は、自分の手を見ながら言った方がいいのかと考えていた。

「どうしたんですか?」

俺は、意を決して言う事に。

「実は、朝目覚めたら黒猫の体毛が握られていて」

俺は、彼女に体毛を見せた。

それを見た彼女は、

「やっぱりそうですか」

と、意味深なことを言う。

「私も、朝目覚めたら黒猫の体毛が握られていて……」

彼女は、ポケットから体毛を見せてきた。

「あなたもですか?」

「はい。ここ数日ずっと朝目覚めたら黒猫の体毛が……」

「不思議ですね」

「本当に不思議です。もうクロは、いないのに」

「クロ?」

「私が飼っていた黒猫の名前です。先月、亡くなってしまって」

「それは可哀想に」

「最近、クロが子どもを産んで、いつも世話をしていました。ですが、クロが亡くなって……」

「耐えられない……ですよね」

「はい。とても残念です」

彼女は、遠くの景色を見ているようだった。

「それと何か関係が?」

「まだ小さいクロの子どもが、いない筈のお母さんを探しに夜な夜な散歩しているんです。恥ずかしがり屋なので、電柱に隠れながら」

昨日のことはあまり覚えていないが、電柱の黒猫らしき影を見た覚えがある。

「今朝、探したんですが、どこにもいなくて……」

「あの……信じられないと思いますけど俺、潰したと思います」

「………!!」

「酔っ払ってて、掴んだらブチッと潰れたという記憶が微かにあります」

俺は、正直に言う。

「いいえ。あれは黒猫ではありません」

「え?」

「だって、

俺が握っていた黒猫の体毛はいつの間にか消えていて、その代わり、彼女の手元には小さい黒猫が眠っていた。

どういう事だ?

「あなたがクロを見つけてくれたおかげで、子どもが帰ってきました。ありがとうございます」

と、彼女は俺に感謝して消えて行った。

まるで幽霊のように。

俺は、部屋を見ると先程まで散らばっていた黒猫の体毛は、跡形もなく消えていた。


とても不思議な体験だった。

彼女は、幽霊になってもクロとその子どものことが大切だったのかもしれない。

だが、あまりにも非現実的だったので、二日酔いのせいで変な夢を見てしまっただけなのかもしれない。

それは、俺には全く分からなかった。


ただ、脳裏に焼き付いて離れない、黒猫らしき影は、本当に黒猫だったのだろうか……。

果たして……。

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