第9話

 彼女を救うなんて月並みな格好いい台詞を吐くのは逃げない誰かでいい。特にホクトとかセイホとかトウマとかそのあたりの妹の方々が使っているのを想像すると納得する人が大勢いるだろう。


 そもそもスケールが違い過ぎる話で昨晩の夢の内容を聞いている感覚に近い。雲を掴むような話とはよく云ったものだ。あまりにも実感できない。ホントであると思いながら嘘であるかもと考える。毎日不確定な未来を行動で選択しているにも関わらず、本人が望まない事実は拒絶するようになっているようだ。


 俺に共感する人間なんていない。何故なら目的が一つもないからだ。それっぽい目的はあったのかもしれない。けれども、状況によってふわりと翻り別の理由に変化する。旅なんてものをしていた人間が目的なんて持っているだろうか? 自分探しの旅なんて云ってるほうが真面な目的を持っている。生きている理由を探しているほうがちゃんと目的を持っている。ただ、生きているだけなんて生きているだけで目的とは呼ばないのだからそこに該当する俺は傍観者にすぎないのだ。そんな人間が人を救うなんて考えているわけがない。


 この考えを違うと否定するなら自身の行動に都合の良い結果があると確信できる証拠が必要不可欠だ。力が必要だ。その場に居合わせていただけの偶然は救われた人間の力なのだ。俺にそれがあった? ないでしょう。


 俺がナンノを救うために王都に向かっているのなら何をしようとしているのだろう? 何ができるというのだろう? いや、偶々悪運が重なって王都へ向かっているだけだ。昔からそうだ。なんだか気づけば妙な塩梅になって流れに身を任せているだけだった。今回もそう。今回もいつもと同じように逃げているだけだ。


 俺は逃げている、はずなのに、何故、巻き込まれる?


 街から幾分か離れて車を走らせたところだった。前方に人影が見える。光線か飛び魔物と冒険者の戦闘だと理解できた。迂回して避けたいと考えたけれど、魔術による戦闘により地面は抉れ大岩が転がって自動車が走行するには戦闘の近場を通らなければ困難だった。


「あら、魔物が二十一体。冒険者かしらそれが三人ね」


 自動車から降りると天井にいるホクトが呟いた。


「手前はご主人様のように目がいいわけじゃないわ。聞いているの。聞いているとよく視える」


 ホクトが何を説明してくれてるのか判らないけれど、振動である音の反響で感じ取れるとかのニュアンスを受けた。ニュアンスだけで実際に説明はできはしない。


 冒険者の三人は女性のようだ。銀の胸当てして髪を括った女性は魔物に拳を叩き込む。叩き込まれた魔物から閃光が奔り地面に倒れこんだ。うつ伏せの魔物からは焦げた煙を立ち上っている。向けて魔物が大振りを振ってきたのを難なく躱したところに大岩が落ちて魔物は潰されたようだ。構えていた杖を下した青い外套を纏った女性は口を動かして別の魔物に標準を合わせると尖った物体を魔物へ次々と向かわせていく。魔物は全身を貫かれ倒れることなく絶命していた。魔物が怯んだ隙にもう一人の女性が紫のポーチから小瓶を出すと二人と魔物へ投擲し、受けとる動作と一緒にそれを口へ運んで体力を満たす二人と小瓶が割れてどろどろと液体が付着した魔物は体が融けていった。


 三人パーティは各々の役割をこなし魔物を仕留めていく。三人一人、一人が確実に最小限の動きで効率よく魔物を絶命させていくと冒険者の三人だけが残っていた。


「終わってしまったわ。魔物は全滅したみたいね。かすり傷もない。息切れも戻した。もう一戦やっても問題はなさそう。ごめんなさい。ご主人様。気づかれたみたい。ご主人様のように気配を消すなんて手前にはちょっと無理だったわ」

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