豆撒きのはしご ―― プリッグと豆パック

 豆撒きのはしご、二つ目の神社。

 僕らが着いたのは、開始予定時刻の少し前だったが、すでに祝詞奏上などの神事は終わったと見えて、豆撒き行事がまさに始まろうとしているタイミングであった。危ない危ない。もう少し遅く来ていたら、間に合わないところだった。

 こちらも、一つ目の神社と同様に、半纏姿の方々が色々と取仕切っていらっしゃる。しかし、それら、お役目の方々の年齢層が先ほどと比べて大分高く、六、七十代がほとんどのように見受けられた。ここの周囲も商店街になっているが、寂れたような雰囲気も色濃く感じられるので、ここいらでは氏子や町内会のメンバーの高齢化が著しいのだろう。おそらくは、若い人たちも住んではいるのだろうが、隣組じみた昔ながらのコミュニティへの参加率はずいぶん低いのではなかろうか。

 さて、いよいよ豆撒き開始。

 一つ目の神社と同じく、僕らは部外者的な立場なので、後ろの方からおっかなびっくり参加したのだが、先ほどの神社に比べて境内が狭いのと、集まった参拝者の数も少なめだったために、望外に多くの豆を拾うことができた。のみならず、役員と思しき女性がさらにたくさんの豆を僕ら二人組に分けてくださった。

 もっとも、豆撒きと言っても、昔と違って豆がじかに撒かれることはなく、今どきは小さなポリ袋のパックに小分けされたものが、そのパックごと撒かれるかたちである。

 僕のような本物志向の人間にとっては、実に情趣を欠いた残念な仕儀に映るが、まあ、これも時代だから仕方がない。

 最近では、どこでも、このように衛生に配慮したスタイルがほとんどなのだろう。また、実用的な観点からも、パックになっていた方が豆を拾いやすいし、豆撒きの後の掃除などにも利があるのは事実である。スーパーなどの店頭でも、あらかじめ小袋に小分けにされた節分豆を目にすることが少なくなく、今回巡った三社のいずれも同様の方式であった。

 また、今回巡った三社では見られなかったが、殻付きの落花生をじかに撒くというやり方もある。地面や床に落ちても、食べる際には殻をむくから大丈夫という寸法である。この方法は僕が子供の頃からあって、小学校などではこのスタイルだったようにおぼろげながら記憶する。ポリ袋という、現代的で味気ない化学物質を介在させないところは好感が持てるが、そもそも豆撒きの豆は、大豆を煎ったものを用いるのが筋であって、ピーナッツに鬼を払い福を呼び込む効能があるのだろうか。

 ちなみに、豆撒きと言えば、千葉の成田不動と大阪にあるその別院で行われる行事が有名だが、最近アップロードされた画像や動画で調べてみると、千葉ではポリ袋のパックが、大阪では殻付き落花生が用いられている様子である。

 なお、節分の豆撒きではないが、家を新築するときの棟上げの際に餅を撒く風習がある。近頃はこの行事を目にすることはあまりないように思うが、僕が小さい頃は、高度経済成長期だったこともあって普請が多かったのだろうか、あちこちでこれが行われていたように記憶する。餅のほかに硬貨を紙に包んだおひねりも飛んでくるので、子供たちはこぞって参加していた。その時代には、餅は小袋などに包まれることなく、そのまま直に撒かれていたように記憶する。もちろん、柔らかい餅ではなく、乾燥して固くなった餅が撒かれたのだが、それらが地面に落ちたりしても、それほど汚いとも思わず喜んで拾った後、家に帰ってそのまま焼いてもらって食べていた。以前のエッセイにも書いたが、現在の僕には少々プリッグの気があるので、今となってはちょっと考えられない。先ほど僕はパック詰めされた豆を撒くのは情趣に欠けると述べたものの、実利として云々するならばパック入りがありがたい。大いなる矛盾であるが、まあ、ご寛恕いただきたい。

 このことからも改めて思うに、人間の考え方や感じ方などというものは、時代や社会の風潮に応じて、大いに変化するものである。同一人物であっても、昔の自分と今の自分とでは、大いに違ったところがある。昔と今どころか、今現在の自分の中にも異なる考えや思いが併存し葛藤している。三つ子の魂百までという言葉もあるが、君子豹変なる言葉もあり、要は自分にとって都合のいいように心変わりをして、適当な言い訳を取り繕うというのが、僕たちの本性であろう。



                         <了>






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