糸瓜の田楽など

 「糸瓜」と書いて「へちま」とむ。

 熟した実が繊維状になり、たわしなどに加工されてきたが、その繊維状になるところから「糸瓜いとうり」。やがて、「い」の発音が脱落して「とうり」と呼ばれるようになり、「と」はいろは歌で「…ほへ と ちり…」というふうに、「へ」と「ち」の間の順番となるため、「へち」、「へちま」になったと言われる。

 日本での糸瓜の用途は、従来専らたわしや、化粧水としての糸瓜水と言ったところであり、現代人の多くはそのような使い道すら忘れているように見えるが、いずれにせよ、日本人の多くは、糸瓜を食うべきものとは思わずに来た。

 しかしながら、実際、糸瓜を食ってみると、これは非常に旨いものである。

 沖縄や、台湾などでは、伝統的な食材として、さかんに用いられている。

 僕の父や祖父母は台湾からの引揚者であり、祖母などは、台湾語や台湾料理が得意な人であったため、僕も子供の頃から裏庭に生った糸瓜で祖母が拵える汁物を口にして来た。祖母が作った糸瓜汁は、出汁は干椎茸でもあったろうか、何でも薄口醤油を用いた澄まし汁で、胡麻油の風味が実に食欲をそそるものであった。

 沖縄で、糸瓜は「なーべらー」と呼ばれ、それを味噌炒めにしたなーべらーんぶしーなどがよく食されるようである。

 糸瓜の実は水分を多く含み、熱を通すととろりとした食感になるのが非常に好ましい持ち味である。つるりと口に入り、仄かな滋味を舌に残して、咽喉にもするり。僕の好物の野菜の一つである。

 ただし、糸瓜は中々立派なお値段がすることが多い。近所のある八百屋では、小振りな一本が四百円近くする。まあ、野菜としてあまり認知されていないため、流通量が少ないことが原因かも知れぬが、似たような大きさ、姿かたちのズッキーニと比べてみても倍ばかり値が張っている。これでは、いかに好物とて中々手が出ない。

 ところが、幸いなことに、近頃別の八百屋で、廉価なる糸瓜を家人が発見した。一本百五十円で、ズッキーニの倍ほども大きく、ありがたい。あまり大きいと、中身が線維化していないかと少々心配ではあったが、大丈夫、とろり、つるり、するりの、正真正銘美味しい糸瓜であった。

 さて、図書館で家人が借りてきた伝統的な琉球料理の本に、糸瓜の田楽というものが載っていた。前日の晩は、鯛の魚田を拵えて貰ったが、その田楽味噌がまだ残っているということだったので、早速、当夜の酒肴に糸瓜の田楽を所望した。


目鉢鮪と烏賊の刺身


 目鉢鮪の冊は三百円台、烏賊の冊は二百円台の廉価で購入。


冬瓜と豚肉と昆布の汁物


 豚の肩ロース肉をさっと茹でて取り出し、その茹汁に鰹節を加えて出汁とし、泡盛を加え、茹でた豚肉、冬瓜、昆布を柔らかくなるまで炊いたもの。味付けは、醤油、味醂少々、塩少々の薄味。このレシピも図書館から借りた琉球料理の本を参考にしたという。


鶏の薬研と膝軟骨の炒物


 二種類の軟骨を塩胡椒で炒めたもの。


海蘊の天麩羅


 これも沖縄ではよく食され、わが家でも好物の天麩羅である。食べるときに、塩やポン酢をちょっとつける。


味噌胡瓜


 棒状に切った胡瓜にシンプルに味噌をつけて。日本酒とよく合う。


糸瓜の田楽


 琉球料理の本のレシピ。糸瓜の皮の表面を包丁でしごき、筒切りにしたものの切り口に十文字の切れ目を入れ、一旦素揚げして油切りを行い、一方の切り口に田楽味噌を塗って炙ったもの。胡麻を捻って散らす。


 酒は、冷やした浦霞の純米と、泡盛・瑞泉をオン・ザ・ロックで。


 写真はTwitterに。

 https://twitter.com/Surakaki_Hyoko/status/1553299269909487617



                         <了>


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