第11話

その日、居達さんは千鶴子の部屋のドアを ノックした。              千鶴子は一人だった。          芝やんはいなかった。彼女はいつも殆どいなかった。彼女はカカシの後にも付き合っていた日本人の部屋へ遊びに行ったりしていた。そしてルームメイトがいても、そのまま泊まったりしていた。            その後彼女はそうした男とアパートを借りて出ていってしまう。そしてそこからクラスへ通っていた。学校の方は余りそうした事にうるさくなかったのか?、後からそうした事をする生徒も少数だが出て来た。      だから千鶴子一人しかおらず、千鶴子に話しているのが隣室のアンジェリンに聞こえた。「おい、千鶴子。お前、ちゃんとに勉強しているのか?」              「してるよ〜。何で居達さんたらそんな事を言うの?」               「おい、お前、ちゃんとにやれよ?」  「やってるよ〜!嫌だなぁ、何でそんな事 言うの?」               「隣の部屋とはどうなんだよ?上手くやってんのかよ?」              「エーッ、何それー?やってるよ〜。」  「お前、ドリーとはどうだよ?」    「ちゃんとやってるよ?」        「じゃあアンジェリンとはどうなんだよ? ちゃんとやってんのかよ?」       「やってるよ〜。」           「本当かよ?お前、アンジェリンを嫌いなんじゃないのか?」            「やだ、何言ってるの、居達さん?!」  「なあ、お前、あいつが嫌いなんじゃないのか?」                 「嫌いじゃないよー!!」        「本当か?良いか、千鶴子。お前がもし  あいつを嫌いでも、絶対に変な真似をするんじゃねーぞ。お前、分かってんな?」   「嫌だ 、当たり前だよ、そんなの!!」 「本当だな?」            「居達さん、何をそんなに気にしてるの? もしかして、アンジェリンの事が好きなの?!」                「そんな訳無いだろう!」      「嘘?!じゃ、今の顔は?」       「何だよ?」             「今の顔!!ワァー、居達さんってアンジェリンが好きなんだぁ!最近やたら来ると思って、おかしいなって思ってたんだよね。だからかぁ!そうなんだぁ!居達さんはアンジェリンが好きなんだぁ。そうだよねー、アン ジェリンって凄く可愛いものね〜?」   「千鶴子!お前、大人をからかうんじゃねーぞ?!」                「分かった、分かったからさぁ!」    「じゃあ良いな、お前、ちゃんとに真面目にやってろよ?」             「何なの、さっきから?ねー、私が何を  真面目にしていないの?私が何をアンジェ リンにするの?何もする訳ないでしょう?!」                千鶴子の表情が冷たく変わり、そしてさっきとは丸で違う口調で居達さんを睨み付けながら言った。               居達さんは驚いて千鶴子を見つめた。そして分かった。アンジェリンが言っていたのは この事だと。              すると又いつもの、少し子供らしい態度や 口調に戻った。             「はーい!!じゃあ、もう良い?」    黙っている居達さんに笑いかけた。    「じゃあね、居達さん!」        そうして千鶴子はアンジェリンの側の部屋に行った。                アンジェリンは千鶴子の部屋へ入った。  ドアは開いたままで、居達さんはまだドアの外に立っていた。そしてアンジェリンを見た。                  「アンジェリン!早くこっちに来なよ?早くトランプしよう?」           アンジェリンは居達さんがまだ帰らない事に驚いた。                「ねー、早くこっちに来なよ、アンジェ  リン?!」               「うん、分かった!」          アンジェリンが、嫌だがわざと快活に答えた。                  アンジェリンは居達さんの顔を見た。複雑な顔をしている。それで、彼が千鶴子の事を 分かったと直感した。          アンジェリンはチラッと、向かい側の部屋に繋がっているバスルームの方を見た。千鶴子は奥にいる。こちらの様子を見ていない。 だから居達さんを見て、顎をしゃくって行く様に促した。よく海外ドラマでやる様に。 居達さんはアンジェリンを心配そうに見て いる。行かない。アンジェリンは同じ様に数回繰り返した。             まだいつまでもいるのが分かれば、アンジェリンを心配してそこにいれば、居達さんも 千鶴子の正体に気付いたと分かってしまう?!狐の霊が着いているのが。そうしたら居達さんも狙われるかもしれない!!   すると居達さんは仕方なさそうに帰って行った。                  だが数日すると居達さんは又来た。又千鶴子の部屋のドアをノックした。       「なぁんだ!又、居達さんだぁ?」    ドアを開けた千鶴子が呆れた様に言った。 アンジェリンは心配そうに出て来た。   ドリーはいなかった。いつも、同じクラスの友達の部屋へ行って宿題をしたりしていた。「又来たの〜?!」           千鶴子が嫌そうに言う。         「一寸用事があったからついでに寄っただけだよ!」                「何なの、用事って?」         「何だって良いだろう?」        「ふーん、用事ね〜。」         「どうだ、調子は?」          「別に何ともないよ。」         「アンジェリン、お前はどうだよ?」   「…良いよ。」             「そうか?」              「じゃあ私はあっちに行ってるね!後から 直ぐに来てね、アンジェリン?」     「うん…。」               千鶴子はそう言いながら、小声だがアンジェリンと居達さんに聞こえる様にこう言った。「あ〜あ、犬なんて騙すの簡単だよ。」  「エッ?」             「何?」                「今、何て言ったの?」         「何も言ってないよ。」        「今、犬を騙すのは簡単だって言ったよね?」                 「そんな変な事、言わないよ〜。」    「言ったじゃん。それ、どういう意味?」「知らないよ〜、何も言ってないんだからぁ。」                  居達さんは二人のやり取りを見ている。  「アンジェリン、犬なんて私好きじゃないの!大嫌いなの、あんな生き物!!だからそんな犬の話なんてしないよ。」      「大嫌い?」              「うん。だってあんな下らない、馬鹿みたいな生き物いないもん!最低だよ!!人間に媚諂って、ベタベタしてさ!人間なんかの為に役立ったり、何かしようとしてさ。」   「役に立つんなら、別に良いんじゃないの?」                「何?アンジェリンは犬が好きなの?!」「嫌いじゃないよ。」          「馬鹿みたい!!あんな物が良いだなんて。あんな物、ゴミと一緒だよ!あんな物、この世からいなくなればいいのに。全部死ねば いいんだよ!!」            アンジェリンが怒りを抑えていると千鶴子は嬉しそうに、楽しそうに言った。     「あれ、アンジェリンどうしたの?何か 怒ってるみたいだよ?」          「怒ってないよ。」           「そうだよね〜?アンジェリンがあんな犬 なんかの為に怒る必要ないんだから?!だってアンジェリンは犬なんかじゃないし、人間なんだからぁ!!」           ドリーが何か千鶴子に言ったのかな?アン ジェリンはそう思いながらもこう言った。 「そうだね?犬なんかより野生動物の方が 凄いかもしれないね?自分で狩りをして、餌を取ってさ。森に住んでたりする、例えば、狐なんかが。」             「そりゃあそうだよ!!そんな当たり前な 事をわざわざ言わないでよ?犬なんかと一緒にされたら迷惑だよ。」         「そうだね?犬は自分で狩りして食べない ものね?与えられたのを食べるんだものね。お手とかおすわりなんかもして。」    「そうだよ!!あんな馬鹿みたいな事を  して。恥ずかしい真似して!」      「ワンワン、お手!」          アンジェリンがお手やちんちんの真似をすると、千鶴子は物凄く嬉しそうに笑って喜んだ。                  「アハハハ、あぁそうそう!!アハハハハハハハハ〜!!」             そうして大笑いをすると言った。     「私、アンジェリンの部屋に言ってるね? 後で又アンジェリンのトランプで遊ぼう?!」そうしてバスルームを通って行ってしまった。               するとアンジェリンは舌を出した。そして 居達さんの顔を見てニヤリとした。ああして、犬を馬鹿にしたフリをしていれば簡単に喜ぶんだから、と言う風に。       「アンジェリン、早くおいでよ〜?」   アンジェリンはまだそこに立っている居達 さんに、声を出さずに口を動かした。   「早く行って?大丈夫だから!」     居達さんは動かないでアンジェリンを見て いる。アンジェリンは又数回繰り返した。 そして居達さんは嫌そうにしながら出て行った。                  翌朝、朝食を食べに行こうとしてカフェテリアのある建物へ歩いて行くと、居達さんが その近くに、端に立っていた。      アンジェリンを見ると近寄った。     「おい、アンジェリン!お前、大丈夫か?!」    

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