第2話

 アンジェリンこと岸田リホは19歳。そして今、アメリカのカリフォルニア州、オレンジにいる。オレンジカウンティー(オレンジ群)のオレンジと言う場所だ。      ロサンゼルスから車で一時間位だろうか? そのオレンジにあるダップマンカレッジと言う大学の寮の一階に住んでから、まだ間もない。                   彼女は日本から、他の大勢の日本人達と共にこの地へやって来た。高校を出て直ぐにだ。                   高校を出たばかりならまだ18歳な筈、本来ならそうだ。だが彼女の母親のせいで、彼女は無理矢理に、ある時期から一学年を下げられてしまった。             彼女は、母親が米軍基地内で日本の準公務員として働く、その女が産んだ子供だ。母親は基地内にいたアメリカ人の男との子供を産んだ。その男は元軍人で、その後は軍属になった中年男だ。              だがアンジェリンがまだ生まれる前に韓国ヘ転勤になり、移動してしまった。彼女が産まれた時に一度は帰って来たが、その後直ぐに韓国に戻った。だが父親は子供の名前をアンジェリンにしてくれと、母親に言った。  母親はその通りに名付けた。岸田アンジェリンと。だが、1歳の時に正式に日本名に改名した為、彼女は岸田リホとなった。    リホは、アメリカ人の血が強く出た。強くと言うか、母親の血筋にも欧米人の血がどこかで混じっていたみたいで、母親も色白だったが、母親の姉妹達の中には日本人離れした顔立ちや、背が当時の女にしては高い者達がいた。                  だからか、リホの色白な顔は日本人の血が混じっているのは言わなければ分からなかった。刺々しかったり、目がうんと凹んでいる訳ではなかった。優しくて可愛らしい顔付きは、赤ん坊の頃はキューピー人形を思わせた。幼児や少女時代は、市販の着せ替え人形達の様だった。それがそのまま生きて歩いている様だった。だが髪と目は黒くなかった。髪は栗毛色で、目は翡翠色の中に細く、薄い茶色があった。             だがら可愛い、綺麗だと称賛される反面、数多く罵倒され続けてきた。合の子や外人と、特に見知らぬ少年達に言われ続けて生きて来た。                  都会の、横浜のド真ん中に生まれたが、そんな事は昭和30年代半ば生まれのリホのいた環境には一切関係がなかった。      母親はその、日本ではかなり目立つ風貌の為に、彼女をインターナショナルスクールヘ入れた。幼稚園があったそのインターナショナルスクールヘ入れた訳だが、他に少数だがあったそうした学校の中では一番月謝が安く、又レベルがかなり落ちる学校だった。   何故そこに入れたのかは、そうした学校は月謝が高かったからだ。          そうして12歳になったリホは、漢字が小学校の2年生レベルしか分からず、町中で字が読めずに色々と苦労をする事になる。   母親は案じて、7年生(中学1年生)になったばかりのリホを公立の小学校へ入れた。 8月生まれなので9月から始まるインターナショナルスクールでは早生まれの彼女は、日本の小学校では本当なら6年生の筈だった。だが頭が良くない母親は非常に頑固な面もあった為に、反対する校長や教頭に必死に頼み込み、無理矢理に一年下の学年に入れさせた。そしてその方が安心だし、必ずついていけるからと言って、非常に満足した。   こうしてリホはそこを13歳で卒業すると公立の中学校に上がり、次には私立の女子校に入った。                その後は、かねてからの希望通りに、高校を出るとアメリカヘ留学させてもらった。  母親が見つけて来た、アメリカの大学内の寮と教室を一年間借りて、そこに住みながら、大学内の教室で英語の授業を受けるという 学校だ。                その学校のクラスでは、上のクラスに入ればアメリカの大学に外国人が入る為に受けるTOEFL(トーフル)と言う試験を受ける為の教科書も与えられて、勉強できる。(結果、リホはこの学校で一番上のクラスになり、 一番最初に、かなりの高額点を取り、大学ヘ 入った。)                こうした訳で、リホはその学校ヘ入学した。だから母と共に東京まで、その学校の説明会へ出向いた。              説明会ではその学校の関係者が何名が来て いた。そして沢山の、生徒になる若い連中と その親達、又はもう成人した、生徒になるらしき人間達がいた。           そしてそこの一番上の人間や、生徒達と同行する若い社員が、皆の前でマイクに向かって話をした。               この学校の名前を、仮に国際ビジネススクールとしておこう。略して、KBSと呼ぶ。  この説明会で、始まる前に母はそこの幹部である中年男の石黒さんに挨拶をしてからリホを呼び、彼に挨拶をする様にと言った。  母に呼ばれてリホが近付き、横に立った。「娘のリホです。」            リホが挨拶をしようとすると、石黒さんは リホを凝視した。母の言葉を聞いているのに何も言わない。只々リホの顔をまじまじと驚きながらいつまでもジッと見つめているので、母親もリホもどうして良いのか分からなくかった。               リホは内心ショックだった。あぁ、やっぱり私なんかが入学するから嫌なのかな?!何故私みたいな混血の子が、英語を習いにアメリカに行くのかと思って、凄く驚いているのかなぁ?                 母親も不快になり始めた。何もそんなにいつまでもジロジロと見る事ないじゃないの?!随分と失礼な人ね!!そんな感じだった。 そしてこう言った。           「あの、何か?」            すると石黒はハッとした。そしてまだとても驚いた顔をしながらこう言った。     「凄く、お綺麗なお嬢さんですねー!!」 「ハッ?!」              「いやあ、こんな綺麗なお嬢さんにお会いした事はありませんよー。」         ニコニコしながら凄く嬉しそうに言った。 母親が途端に嬉しそうに返事をした。   「まぁ、嫌ですわ!そんな、大した事ありません。」                「いえ、凄くお美しいです!」      リホの顔はパッと明るくなっていた。さっき思っていたのは違ったんだ?!わぁ、良かったー!!そして自分をそんなに褒めてくれたこの男に好意を持った。         彼女は挨拶をすると、彼も感じよく挨拶を返してくれた。              彼は素敵だった。40代で、眉が太く、バッチリとした二重で色は浅黒く、凛々しい顔をしていた。紺のスーツがとても良く似合っていて、とても優しそうだった。      リホはこの男が大好きになった。     そしていよいよスピーチが始まるから席に 着く様にと石黒に促されて、二人は席に着いた。                  最初のスピーチの後に、同行する若い男が挨拶をしてからスピーチをした。26歳の男で、アメリカの一流大学を卒業した人だ。 背が高くて、黒ではないが濃い色のフレームのメガネをかけていた。とても自信有りげな堂々とした態度だ。この人の名前は、居達(いだて)さん。伊達哲男さんだ。    これからこの物語に深く関わりを持ってくる。(居達さんの次には石黒さんもだが、彼はこの他のエピソードでだ。) 

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