第10話 決意表明

 ——迷宮での出来事の翌日。


 国王が事のあらましを耳にしたことから『直接アルト君に会って話をしたい』と言ったらしく、僕は再び国王の面前に来ていた。


 以前国王に会った時と違う点があるとすれば、エリィが僕の隣にいて、腕を組んでいるという点だった。


 意図的になのか、豊満な胸が僕の腕に押し付けられており、国王の前だというのにその柔らかくも弾力のあるおっぱいの感触に脳内が支配されていた。


(なんて柔らかくて感触の良いおっぱ——っじゃなくて!! ダメだダメだ、まだお昼の時間だぞ……)


 まさか僕が心の中で1人葛藤を繰り返しているとは、さすがの国王も知りもしないだろうが、明らかに僕とエリィがべったりしている様子は不思議そうな目付きでチラッと確認してきた。


(や、やましいことは何も考えてませんよ!! 決して王女様のおっきくてボインなお胸の感触のことなんててて……)


 心の中を読む魔法がありませんように……と祈りながら、必死にすました顔をするためポーカーフェイスを決め込んだ。


 その甲斐あってか、国王は僕たちの様子に対して何を言うこともなく話し始めてくれた。


「まずは、アルト君。今回も礼を言わせて欲しい。学園の生徒の命を護ってくれてありがとう。エリシア……我が娘にも感謝の意を唱えておこう」


 国王は僕たちに向けてそう話し、前回のように玉座から立ち上がって一礼した。


 ……国王の話によると、ロンとマリアは命に別状はなく回復に向かっているとのことだった。


 ただ、僕が危惧していた通り、マリアは外傷より精神的なダメージが大きく、例え身内であっても触れられることを極度に嫌がるようになってしまったらしい。


「——ロン君とマリア嬢の2人についてはここまでで良いだろう。話さねばならぬことは他にもあるからな」


 国王がより一層真剣な表情となる。……いよいよ本題といったところか。


「さて、アルト君。今回も君に褒美を与えたいと考えているんだが。——何か欲しいものはあったりしないか?」


「ほ、褒美ですか?!」


 褒美よりも、むしろ迷宮の扉の奥に足を踏み入れてしまったことや、貴重な[ 魔石 ]を砕いてしまったことについて罰則があるのでは……と考えたりもしていたため、正反対の言葉に僕は驚きを隠せなかった。


「当然のことだよ。君はあの魔物族七将軍の1体〈 ゴブリンロード 〉を見事に討ち取ったのだから」


 国王は満面の笑みでそう話した。


(あの筋肉パンツゴブリンロード……まさかの将軍だったのか!)


 国王によれば、魔物族には『王』こそいないが、災厄と呼ばれる七体の将軍たちによって取りまとめているらしい。


 王国内の総戦力を以ってしても将軍たちの討伐は不可能とされていたため、今回のことはかなりの褒賞に値するとのことだった。


「まぁ急に褒美と言われても中々思い浮かばないだろうから、出てきた時に言ってくれれば良いよ」


 国王は気を利かせてそう言ってくれたが、の望みはもう決まっていた。


「いえ、実はもう決まってます。——僕とエリィ……いや、エリシア王女を魔法学園 〈 中級クラス 〉に昇格させてください!」


 国王はもっとすごい褒美を欲すると思っていたのか、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていた。


「そ、そんなことで良いのか? もしかして、君の正体が【魔帝】様だと〈 初級クラス 〉内でバレることを気にしているのか? 箝口令かんこうれいを敷くからそこは心配せんでも——」


箝口令かんこうれいは素直にありがたいです。でも、理由は別にあります! 僕たちは何としてでも、できる限り早く〈 〉まで行かなきゃいけないんです!」


〉とまでワードを出すと、国王も目的を察したのか、エリィの方に目をやった。


「そうか。エリシアは、アルト君に話してしまったんだね……」


 国王は静かにそう話すと、座りながら頭を抱え始めた。


「ごめんなさいお父様。私はお父様に言われた大切な人に……アルトを選びました」


(……大切な人? どういうことだ?)


 僕が話の筋を分からずにいると、国王がそれを察してくれたのか説明してくれた。


「私はね、妻は何者かの手引きよって国外へと誘拐されてしまったんだと……そう考えているのだ。国外に行くためにはエリシア自身の『強さ』の他に、娘を護ってくれる『強さと信頼を併せ持つ存在』が必要だと考えたんだよ。だから真に信頼できる者とペアを組むよう、エリシアに伝えていたんだ」


 だからエリィは、国王——いや、を安心させるためにも『孤高の姫』と呼ばれてまで、その相手が見つかるまでずっと1人を貫いてきたのか……。


 そこには父と娘の2人が、必ず大切な家族を見つけ出してみせるという『覚悟』と、互いを思いやる『家族愛』を確かに感じた。


「お父様。私は——いえ、私とアルトは必ず〈 上級クラス 〉まで昇格して、お母様を探し出してみせます」


 エリィは国王の目を真っ直ぐ見つめ、そう話した。もちろん、何故か僕と腕を組んだままでだったが……。


 ただ、せっかくの場なので、僕もエリィに続き『決意表明』をしておくことにした。


 これは国王に伝えるためだけではなく、再度エリィとそして自分自身の心にもを刻み込むためでもあった。


「安心してください。僕たちで必ず王妃様を——探し出してみせますから!」


 僕たちのその言葉に、国王は全てを信じて任せたと言わんばかりに静かに頷いた。


「エリシア……アルト君。今より君たちの王立魔法学園〈 中級クラス 〉への昇格を承認する!」


 国王のその言葉に、腕を組んでいたエリィの力が一段と強まった気がした。



 ***



 ——その後の重要な話も全てつつがなく終了し、僕たちはようやく国王から退室を許可された。


「あ……そう言えばアルト君! 最後に話しておきたいことが——」


 僕とエリィが退室するため、国王に背を向けようとしていた時、不意に国王から呼び止められたのだった。


 しかし……。


 ——バタンッ!!!


 ……と、突然扉が大きな音を立てて開かれた。


「な、何事だっ?!」


 国王の反射的に出たであろう大きな声が室内に響く中、僕も含めた全員が扉の方へと視線を集中させた。


 そこには1人の衛兵が汗を垂らし、息をゼーゼーさせながら、立っていた。


「し、し、失礼します!! 陛下、です! 今そこまで国王陛下に許可なく会わせろという不届き者が、来ておりまして……」


』と聞き、周囲の衛兵たちが一斉に戦闘態勢へと切り替える。


 持っていた槍を入り口の方に構え、国王を護る準備を整えた。


「その者は私に会いたいという以外に、何か言っていたか?」


 国王は落ち着いた様子で、衛兵の1人に質問した。


「いえ、何も。ただ、名前は名乗っておりました。ふざけているのか、本名かは分かりませんが『イチノセ ジン』と……」


 ——『イチノセ ジン』だって? まさか僕と同じように日本からの異世界転移者か……?!


「……聞いたことがない名だな。とりあえず連れて来なさい」


 国王の許可がおり、僕たちは『イチノセ ジン』と名乗る人物と対面することになった。



 ———————————————————————



戦闘シーンが続いていたこともあり、今回はいわゆる "繋ぎ" の部分にさせていただきました。


新たな登場人物……『イチノセ ジン』とは何者なのか!


 ——次回、第11話『聖剣エクスカリバー』へ続く。

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