KAC2022投稿作(番外編SS)

【KAC20221】二刀流に挑戦?

「佐藤くん、世間では二刀流っていうのが流行ってるみたいだよ」


 図書室に来るなり早々に吉川が言いだした。


「それって野球選手がピッチャーとバッターの両方に挑戦する……みたいなこと?」

「そうそう。それでね、せっかくだから私たちも二刀流に挑戦してみない?」

「そう言われても……」


 何に挑戦すればいいんだろう。


「そもそも二刀流なんて言う前に、まずは何か一つ始めないと駄目じゃない?」


 当然の疑問だと思ったが、そんなことはお見通しとばかりに吉川が胸を張る。


「ふっふっふ。甘いね、佐藤くん。私たちには既にやってることがあるじゃない」

「え、何?」

「読書だよ! 毎日してるし、これはもう一刀目に数えても差し支えないでしょう」

「まぁ確かに」


 わからないでもないかな。


「じゃあ二刀目は?」

「一刀目が読書なら二刀目は決まってるよ。執筆だね。小説執筆。世の中には読み専や書き専って言葉もあるみたいだから、両方やってれば二刀流って言ってもいいんじゃないかな?」

「それだと世の中の小説書きはほとんどが二刀流ってことにならない?」

「まぁまぁ。細かいことはいいから、とにかく一回書いてみようよ」


 ――それから約二時間。

 僕はまだ一文字も書けていなかった。


「佐藤くん、出来た?」

「いや、全く。吉川は?」

「私も全く……」


 沈黙の後、どちらともなく「ぷっ」と吹きだした。


「思ったより難しいんだね、小説を書くって」

「うん。僕たちにはまだ二刀流は早かったみたいだ」

「私もこれに懲りてこれからも読む方に集中しようと思います」

「それって今までと変わらないってことでしょ?」

「そうとも言う!」


 僕たちは顔を見合わせて笑った。


 ――ふと思う。

 二刀流を「異なる二つのことに挑戦すること」でなく「相反する嗜好を持ち合わせること」と解釈するのなら。

 吉川とここで静かに過ごすことと、賑やかに過ごすことの両方を気に入っている僕は、何かに挑戦するまでもなく既に二刀流なのではないかと。

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