第5話 チカラを持った子供たち
ルディは礼拝堂の長椅子に座って、目の前で腕を組んでいるシスター・リースを盗み見るように見上げ、ソワソワと落ち着かなかった。
この小さくも荘厳な礼拝堂は、子供たちにはなぜか少し怖かった。
神様の像が建てられているけど、それも少し怖い。夜になれば当然もっと怖い。子供たちは礼拝堂にはあまり近寄らないのだ。ゆえに“お説教部屋”と名前がつくほどだった。
「……ルディ・リン。チカラを使ってケンカなんてしたらダメって言いましたよね?」
「……はい」
ルディは唇を尖らせている。心無しかツンツン頭もしなっている。
「でも、あいつが……」
「ルディ」
「……はい」
シスターはため息をついて肩の力を抜き、思案した後から言った。
「いいですか? ルディ。チカラを人前で使ってはダメです、人に向けて使ってもダメですよ。昔は誰にもチカラなんてなかったのです。メドベキアの町の人々にも」
シスターは躊躇いがちに続けた。出来れば言いたくない。でも、教えなきゃ。もう八歳なんだから。
「でもね、時々チカラを持った人が産まれるの。望む望まないに関わらず。気味悪がられて、周囲の人達に傷つけられたり、殺されてしまわないように、こっそり里子に出されたりするの。そしてこの孤児院に来るのですよ」
「……シスター、おれ達は化け物なの? どうしておれ達なの? なんで、なんで……おれなんだ」
シスター・リースはしゃがんでルディと同じ高さにしてルディの赤みがかった目を見据えた。
「あなた達は“特別”なの。神様があなた達に、成すべきことを成すためにそのチカラを与えたのですよ」
ルディはうなだれていた。小さな背中が更に小さく丸くなる。その小さな身体を包み込むように、シスター・リースはルディを抱きしめて言った。
「どうか……どうかお願いです。チカラをいい事に使ってね。ルディ。私達は、あなた達みんなの事を愛していますよ」
ルディはシスター・リースの腕の中でごめんなさいと言って泣いた。シスターの服の胸元がこぼれ落ちる涙に濡れた。
シスターはルディの背中を擦り、子守唄を歌った。気分を落ち着かせるために。また一つ成長したご褒美に。愛が子供たちに届きますように……。
夕陽の残り少ない明かりが、礼拝堂のステンドグラスを通してシスターとルディの姿を包み込んだ。気温が下がり始め、風も出始めている。今夜は少し冷えるだろう。心も身体も。……だがシスターの子守唄は太陽のように暖かく子供たちをいつまでも包み続けるだろう。今のルディを照らす夕陽のように。抱き込むように。
礼拝堂の扉の外で子守唄を聞いていたニーナとシャオは、お互いの涙に濡れた顔を見ないように、無言で自分たちの部屋へと戻っていった。
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