第13話 『イケメン=スポーツ万能かつ成績優秀、その他諸々もそつなくこなす』は成り立たない

俺が高校生となってから2週間が経過した。2週間の間に部活は数度あり、先輩たちとの仲も良好な関係を築け、筋肉くんと眼鏡くんとも楽しく過ごせている。


今までは。


俺は今、危機的状況にある。とある作品ではこういうとき『命を感じろ!』と言って自分と相手の命を感じていたりするのだろうが、あいにく俺にはそんな余裕がない。相手のことを考えるより今、この状況をどうやって乗り越えられるか、それが俺にとって何よりも重要なことだからだ。


「大橋くん、だよね?いつも明里が世話になってるよ」


それは俺に話しかけてきたこのイケメンの存在だ。もっと言うと、諏訪さんの彼氏だ。


諏訪さんの彼氏。その存在を知ったのは『ラーメン地獄』のときだ。あの出来事はおそらく俺史上トップを争うほどの出来事だ。


✖『ラーメン地獄』というのはただたんに大橋が諏訪さんに彼氏がいたという事実に驚いたあまりラーメンに手がつけられず、呆然とした状態になったときのことだ。その状態から開放され、ラーメンに手を付けたときは案の定、麺は伸び、そしてつゆは冷たくなっていた。その状態のラーメンが大橋にとって地獄のようなものであっただけである。言うなればラーメンが地獄と思えるほどに“あれ”になっていたという話である。

それと『明里』という名前は諏訪さんの名前である。


俺はふぅと息を吐きながら諏訪さんの彼氏に言う。


「世話っていうほどのことはしてないよ。俺はただ諏訪さんが書いた小説を読んでその感想を言っているだけだ」


俺はこれまでに諏訪さんが書いた小説を読んだ。その中で分かったことは諏訪さんがとにかく小説を書くことが好きだ、ということ。そして、小説を書くスピードがめちゃくちゃ速いということ。

そのため、今ではそれなりの面白い話を書けるようになっていると思う。まぁ、俺からしたらの話なのだけど。


イケメンは苦笑しながら、


「大橋くん、謙遜はいらないさ。明里がいつも楽しそうに小説のことを話すようになったしね·········僕はもう小説を書くのをやめてしまうのではないのかと、危惧してた」


「···········」


俺はあの日のことを思い出した。諏訪さんが俺に初めて小説の感想を聞こうとした日のことだ。俺が言いづらそうにしていたとき、諏訪さんは泣きそうな顔をしながら言った。『自分には文才がない』と。確かに話自体は面白くなかった。だけど、今諦めるのはもったいないと俺はそう思った。だから、俺は諏訪さんの書いた小説を何度でも読むと告げた。それがどうやら諏訪さんにとって大きな救いとなっているようだ。


「すべて君のおかげだ。ほんとにありがとう」


「いいよ、そういうのは」


イケメンからのお礼は貴重なもの過ぎて俺のような小心者には心臓に悪いし。


「ぶっちゃけた話をすると、明里の悩みを僕が解決できたらと、そう思ってたんだよ。でも、僕にはその手の話は分からなくてね、ただ応援することしか出来なかった········」


「小説読んだりしないのか?イケメンは」


「··········その、イケメンという呼び名はやめてもらえるか?僕は面良池つらよしいけって名前だから、池と呼んでくれればいいし」


名前もイケメンかよ。なんだよ、面良って。顔がいいってか?まぁ、イケメンだし。イケメンだけど。それでもなんか納得行かないっていうか、この世の理不尽を垣間見たと言うか。


「わかったよ、池。俺のことは良太と呼んでくれ」


「分かった、良太」


やっぱ、イケメンだわ。コイツは。


「それで僕が小説を読むかだけど······あんまり読まないかな。読んでも“こころ”とか“シャーロックホームズシリーズ”とかだし」


こころとシャーロックホームズシリーズはもはや別格だろ。傑作だけど。並列に言うとかコイツ、何者だよ。完全に強キャラ感あるじゃねぇか。


「なるほどね。でもまぁ、諏訪さんは応援してくれる存在が近くにいるって実感しているだろうから、このままでも良いんじゃないか?池がどうしたいのかによるけど」


「僕か··········僕は明里が笑顔でいてくれていればそれでいいと思ってる」


「···········!!」


「明里が笑顔でいてくれれば僕も嬉しいからね」


「··········!!!」


················コイツ、良いやつ過ぎだろ。諏訪さんが好きになるのも分かるわ。俺もこの人柄に骨抜きにされてるもん。いやぁ、イケメンは言うことなすことが別格だな。


それから俺と池は学校での部活の話をした。


「へぇ、良太は陸上部に入ってるのか」


「おお、中学のときからやりだしてな。今でも続けてる感じだ。池は何部に入ってるんだ?」


俺がそう聞くと池は少しバツが悪そうに頬をカリカリかきながら言った。


「実はまだ部活に入っていないんだ。迷っていると言うか···········」


「ん、そうなのか。以外だな·······俺の印象としては池はサッカー部にでも入ってるかと思ったんだけど」


「············そこでなんでサッカー部が出てくるのか分からないけど、僕はサッカーできないよ。球技系は苦手なんだ」


「そうなのか」


俺はてっきりスポーツ万能、成績優秀、容姿端麗の三拍子があると踏んでいたのだが、そうではなかったようだ。それと俺が池がサッカー部に入っていると思ったのは葉山隼人タイプだと勝手に想像していたからだ。だって、存在感が似てるし。


「なら、陸上はどうだ?池はなんとなく長距離得意そうだしさ」


「················!!なんで分かるんだ?まぁ、良太の言ったとおり長距離にはそれなりに自信はあるよ。それにしても陸上部、か。いいかもね」


その後、俺と池は陸上部へと行き、池は入部前テストを受けることになった。

イケメンなら歌を歌うのはうまいはずだという考えが俺にもあったが、それは違った。池は俺といい勝負ができるくらいの歌唱力で青春先輩が顔を真っ青にしながら陸上部へ歓迎していた。


この日、陸上部の女子たちからは池は『イケメンだけど欠点多そうで少し残念な人』というレッテルを貼られた。


俺は歌が下手というところに親近感がわき、池とは親友と呼ぶにふさわしいくらいに仲良くなったのだとか。

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