第21話 夕飯
《
写真スタジオの閉店作業が終わり、各自の家路に向かう。
俺はコートを着て店の外に出ると背後からバイクのエンジン音が聞こえてきた。
後ろを振り返ると大型バイクに乗って帰ろうとしている同僚の姿があった。
「お疲れ様~。
「お疲れ。
水原さんから声をかけられてすぐにバイクに乗って颯爽と帰っていった。
最初は驚いたけど、もう二年くらいほぼ毎日見かけていると慣れてしまう。
俺はスマホで一日の出来事をざっとネットニュースで調べていく。
そのときにLINEのロゴが左上に出てきて、その詳細を見るためにLINEを開く。
トーク履歴の一番上に未読のメッセージが来ているのを見る。
「あれ……フフッ」
彼女から送られてきたのは修学旅行で買ったと思われるジンベイザメのストラップとしおりが写っていた。
『奏さんのおみやげです』
おみやげを買ってきてほしいと話していたけど、色違いのストラップが置かれてある。
「かわいいな……」
そのなかには友だちに撮ってもらったのか、美琴が笑顔でピースサインをしているのがあった。
それを見ると、本当に修学旅行が楽しみだったんだなとわかる。
つい口元が緩んでしまいそうになるのをこらえながら、電車に乗って自宅へと急ぐ。
そのなかでも美琴に対して想いは募っていくばかりだ。
自宅の最寄り駅に着くと先に冷蔵庫がほとんどない状態だったので、今日の夕飯と明日の朝ご飯の分を買いに二十四時間営業のスーパーに入った。
ここは他のスーパーよりも野菜とか調味料が安く手に入ったりしているんだ。
そこである程度買い込んでから、スーパーを出たときにレジでばったりと会ったやつがいた。
「あれ? 兄貴じゃん!」
「おう……偶然だな。こんなところで会うなんて」
「うん。とりあえず、家に帰るか」
大学三年生の弟はバイト明けなのか疲れ切った表情をしているけど、二つ離れているのに双子かと思われることが多いんだ。
「響、先に鍵を開けて」
「わかった」
鍵を開けてもらってすぐに部屋に入って靴を脱いでいく。
寒さが少しずつ和らいできた三月はまだコートを手放せずにいる夜が続いている。
「先に冷蔵庫に持って行くよ」
響が持っていたレジ袋を持ってキッチンの方へと向かう。
「ただいま~」
一方の彼はコートを脱いでリビングのソファにほったらかしたまま、ソファの上で動かなくなっているのが見えた。
大学の授業の他に書店のバイトをしていて、今日はシフトのなかでも早い時間に終わって少し疲れているのかもしれない。
「ほら。響、そこで寝るなよ」
「うん……」
起こすと彼はキッチンの方ではなくて手を洗いに洗面所の方に向かって歩き始めた。
俺らが暮らしているのは駅から歩いて十五分の場所にアパートに俺と響はルームシェアをしている。
もともと専門学校時代から暮らしていたんだけど、勤務先が近いのでそのままかれこれ五年くらいは入居している。
響の通学している大学が自転車で十五分の場所にあるので、一緒に暮らしているんだ。
二人で決めたルールみたいなのがある。
それは夕飯を一緒にできるだけ作ることで、食材の費用はお互いが出すことだった。
「響、今日は何を作る?」
「ハンバーグを作るつもりで買ってきた。兄貴は?」
レジ袋をガザガザと揺らしてその中身を示している。
「俺は白身魚のホイル焼きとか作りたかったけど、明日の昼にしようかな」
今夜は響のハンバーグを作ることにして、俺らはキッチンにある冷蔵庫に食材を入れていく。
その中身は響と俺が買ってきたアルコール類もいくつか入っている。
お互いに仕事や授業、バイトがない前夜に飲もうと思っていたけど、未開封の缶が三つほど冷やされている。
「兄貴、先に風呂に入って」
「わかった」
俺と響がシャワーを浴びてから夕飯を部屋着のまま作り始める。
味付けは目分量でほぼレシピの分量は用意するけど、あとから足りない感じがしたら調味料を加えたりしている。
そのときにデミグラスソースを適当にかけて、俺と響は彩りを考えて野菜を適当に盛り付けていったんだ。
「響、今日はこれだけでいいかな?」
「みそ汁とご飯もできたから、食べよう」
リビングのテーブルに置いて床に座って食べ始めた。
「いただきます」
夕飯を食べながらテレビを見ていたときに響から話かけられた。
「兄貴、最近変わったな」
「どうして?」
ハンバーグを箸で切りながら考えているのが見えるけど、俺は内心ドキドキしている。
「雰囲気がすごい変わったなって……絶対につきあってる人がいるなって」
俺はそのことを聞かれて、びっくりしてしまった。
「響は鋭くない? そういうところ」
「まあね。昔からだから……。それでどんな人なの?」
空腹だったから夕飯を食べ終えてからキッチンで食器を洗って、冷蔵庫に置かれていた梅酒を片手に響の方へと戻った。
「俺の先輩のいとこ。年は六つ下だけど」
「え、高校生なんだ。写真はあるの?」
「意外とあっさりしてるね」
「そうかな? 普通に同級生でも高校生とつきあってるやつ多いし」
なんとなく美琴が話していたことと似ているのかもしれない。
同級生のなかで大学生とか、場合によっては社会人になったばかりとかとつきあう子とかがいるらしい。
「そうだね。優しくていい子だよ」
「今度、紹介してよ。大歓迎だから」
響は何かと美琴のことを気に入ってくれたみたいで、修学旅行から戻ってきたら紹介しても良いかもしれないと考えた。
「ありがとう。明日は早いんだろ? おやすみ」
「うん。おやすみ」
響は人間関係を築くのにかなり時間がかかってしまうタイプで、友人と呼べる関係になった同級生は高校時代の二人しかいない。
そんな弟がとても楽しみにしていると話して、とてもうれしくなっていたんだ。
梅酒を飲み干してから部屋のベッドの上で寝転がりながら、スマホを見ていたときに美琴からメッセージが来ていたんだ。
『今度の十二日、会えますか?』
『うん。会える』
早く会いたいという気持ちがどんどん溢れていく。
彼女と一緒にいるときにはあまり感じなかったのに、離れて過ごしていると気持ちが強くなっていくのがわかる。
こんなに感情が激しく動くことが初めてで、少し戸惑っているところもある。
それでも自分の想いだってことは変わらない。
彼女と再会したのは俺の職場の上司の結婚式だったんだ。
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